第44話 我らが武勇、家畜共に思い出させてやれ

我らが武勇、家畜共に思い出させてやれ


少し前―――


「そろそろ、ローベルト殿が出発した頃かな」


 リューネブルク市より東、エルベ河と交差するライン河のほとり、バルムンクの勢力圏のギリギリ外、いわば国境とも言えるそこで大小の天幕が並んでいた。バルムンクにとって因縁のあるムラヴィヨフ家の私兵団である。

 バルムンク連合軍が本拠地に戻って住民の歓待を受けていたころ、敗走した彼らはバルムンク勢力圏を東回りに迂回してようやく安全圏へとたどり着いた。

 ここよりさらに東へ数十リュード(約百キロメートル)進めばウラジミール公が君臨する首都マグデブルク、南に同じ距離を進めばムラヴィヨフ家の所領がある。ついでに言えば所領の南隣りには縁戚であるゴルドゥノーフ家の領地だ。

 彼らはここで食糧不足故、首都から受け入れを拒否された私兵団残党と付き従う奴隷達と合流し、所領へ帰還する途中だったのだが、統率者である騎士セルゲイの顔は暗い。


「早く私の実験道具が来ないかな、キャハハハ!!」

「黙れ、死術士が!!」


 顔の左半分を仮面で隠した金髪に黒い目を持つ混血の少女、死術士シャルロッテがいつも通りに耳障りな笑い声をあげる。彼女は生存権を主人に握られた奴隷身分、されどリューリク公家に連なるグスタフの所有物である。騎士身分のセルゲイは手をあげることができない。

 それでもいつもは看過する彼ではあったが、今回は我慢がならなかった。事が事だからである。そして痛いところを突かれたからでもあった。


「どうせ殺すのでしょう。だったら私の生贄にしてもよくはなくて」

「それを決めるのは貴様ではない。いいか、貴様がいかにグスタフ卿の所有物であっても事と次第によっては覚悟してもらおう。秩序を乱す者はたとえ同胞でも許さない。それが家畜にも等しいアールヴであればなおさらだ。鞭を振るうことを躊躇わない」

「殺すのは一緒なのに……選別はどうするの、やっぱり〈妻〉は後回し? それとも皆殺しにするの?」

「……」


 スヴァルトの下級兵士は元々奴隷、イエの所有物である。十年前の勝利によって奴隷身分から解放されたとはいえ、それは彼らよりも下に被支配階級であるアールヴという存在が出来たからであって、根本的な立場には変わりがない。

 下級兵士は家庭を持つ程の経済力がなく、伴侶は妻ではなく愛人だ。当然、子供も私生児扱いであり、成長しても身分差別から従者として生きる以外に道はない。だが差別を是とするスヴァルトは同時に奴隷の面倒も見る。 イエに従っている間、衣食住は保障されるのだ。だから彼らは自分たちの生活を守るために必死に戦う。

 しかし今回はいささか事情が違う。大局を見誤ったセルゲイは無思慮に奴隷を囲ってしまったが故に深刻な食糧不足を招いてしまったのだ。余分な五百人、切り捨てなければならない。

 だがその中には下級兵士の〈妻〉がどれくらいいるか。彼女らの多くは最下層の、春をひさぐ程追いつめられた貧民層だ。

 大多数の男にただの道具として奉仕するか、例え異教徒が相手だとしても一人の妻として生きるか、後者を選ぶ女は多い。

 ついてきた彼女らは何も強制されたわけではない。慕ってついてきた彼女らの手を掴み、こちらの事情で突き放すのが果たしてスヴァルトの正義なのか、それでは身勝手なアールヴと同じではないか。


「何をそう、悩んでいるの?」

「貴様には関係のないことだ」

「食べ物が足りないのでしょう、グスタフ様に聞きました」

「何!!」

「いっそのこと全てぶちまけちゃえばいいんじゃないの。食べるものがありません、だから受け入れられません」

「馬鹿を言うな、それでは反乱が起きる」

「どうして?」

「言わなければ分からないのか!!」


 苛立たしげにセルゲイはシャルロッテを睨みつける。だが一瞬後にはその透き通るような瞳に釘づけられた。常の道化じみた笑みがない。それだけでセルゲイは背骨に棒でも刺しこまれたような緊張を感じる。恐れている訳ではない。後ろめたいところを突かれたからだ。


「……話すだけ話してみろ」


 セルゲイは奴隷女が嫌いだ。特に神官らの妾となっている彼女らは特に。 あの卑屈で、自ら動こうとせず、ただ主人に媚びて生活を維持しようとするその行為には吐き気がする。

 いつだったか、色香でこちらに取り入ろうとしたアンバー(狼の目)の奴隷女を仕置きしたことがあったが、もし仮に彼女が媚びるのではなく、自分を殺そうとしたのならばあるいは咎なく釈放したかもしれない。

 武人である彼からすればあまりにも弱く、相手にするまでもない弱者であったからだ。

 翻ってシャルロッテは元々、神官らの妾であったもののそういった媚びがない。主人であるグスタフがいない状態でも自分に対して堂々たる態度を維持しているのだから大したものだ。

 だから対等とはいかなくても部下の兵士と同じくらいの態度で接してもいいくらいには考えていた。真面目な態度を取るのならば、無下にはできない。


「別にバカ神官のように食糧を買い占めて儲けようとか考えているんじゃなくて、本当に足りないんでしょう、自分たちの分まで。隠すことないじゃない」

「だが教えてどうする、餓死しろとでも言うのか。貴様は民衆の力をなめている。彼らが一致団結し、反乱を起こせば貴族であろうともただでは済まない。故に黙して気づかれぬうちに処分するのだ。それが一番、被害が少ない」

「どうして反乱前提なのよ」

「それは我らスヴァルトが侵略者であるからだ。心のどこかで彼らは我々を憎んでいる。決して気を許すことはない」

「……私は侵略を歓迎しているけどな」

「なんだと」


 セルゲイは彼にしては珍しく素直に驚きを浮かべた。そのくらい予想外だったのだ。

 その手で幾人ものアールヴを斬り殺してきた彼にはアールヴから好意的な感情を得られるとは思ってはいない。


「私の家は普通の農家だった。ある時、羊の牧草地にするから麦畑をよこせと神官が言ってきた。勿論、父は断った。そうしたら次の月にありもしない罪を被せられて裁判にかけられた。裁判官の司祭はその神官だった。判決は死刑、死ぬまで強制労働、そして財産没収。麦畑はなぜか正義の判決をした神官に謝礼として譲渡された。どう思う?」

「……ひどい話だ」


 同時によくあった話でもある。スヴァルト侵略前の神官の腐敗はすさまじいものがあった。それは権力で盗む賊である。

 地方によって差があるが、特にスヴァルトの支配領域に近かった司教区は軍事の関係から独立性が強く、裁く者の不在故、まさしくハゲタカのように民衆を搾取した。

 民衆はスヴァルトの脅威に怯えて神官らに従順であり、その暴政に歯止めはかけられなかった。しかし幸いにもそれが最悪であったのだ、その下はなかった。

 皮肉なことにスヴァルトに支配されることで神官らは団結し、綱紀粛正でもって正道に復帰したのだ。

 不正は一掃とまではいかないが大分減り、数だけと馬鹿にされていた法王正規軍も規律ある物へと変化した。ただ地方では未だ不正はあり、なにより省みるには十年ばかり遅かったが……。


「私はグスタフ様に助けられた。侵略がなければ未だにあの司教府で腐れ神官に胸でも揉ませていたのよ。キャハハ、今度会ったらあいつら内臓を引きづり出してやるわ。そして私の死術で〈影〉にしてこき使ってやる」

「……それはお前が特別だからだ」

「何が特別なのよ、だったらなんで憎んでいるであろう奴隷らを助けたのよ。放っておけば良かったでしょう」

「彼らは我らに助けを求めたのだ。それが打算であっても、後で手の平を返されようとも助けるのがスヴァルトの正義。私は選ばれた人間だ、騎士だ。理不尽だろうとなんだろうと正義と秩序は守る。平民風情とはかけられた責任と義務が違う」

「それは立派なこと……」


 シャルロッテはどこか呆れたような口調だが、心底馬鹿にしているわけではない。

 ここまでひたむきに職務に励む人間は神官の中にはいない、欲まみれのグレゴールに享楽的なブリギッテ、なるほどこのような男達ならば蔑まれてきた下層の女はイチコロだろう。

 真面目なのは魅力の一つ、ついていけばまっさらな表街道をともに歩ける。どんな権力や金銭を得ても闇の底にいてはどこか切ないのだ。

 力になりたい、その身を捧げてもいい。その気持ちは分かる。痛いほどに……。


「なんなら私が彼らを説得しましょうか」

「馬鹿な……余計なことをするな。勘付かれたらどうする」


 慌てるセルゲイに今度は本当に呆れてシャルロッテは鼻で笑った。


「奴隷達をなめているのはあなたの方じゃないの? 一度、首都で門前払いを受けているのでしょう。何もかもばれているわ」

「何……!!」

「兎にも角にも任せなさい、キャハハハ。上手くいったらグスタフ様に報告しなさいよ。彼女はあなたの妻にふさわしい程聡明な死術士です、って!!」


 最期にそう付け加えるのは忘れなかった。


*****


スラム街―――


 テレーゼの戦法は徹頭徹尾、相手の先手を突くことである。相手の体勢が整わない内に、あるいは反応できないスピードで攻撃し、一気に勝負を決めてしまう。

 彼女の攻勢を受け止められるものは少なく、防戦に立たされた者はそのまま何もできずに屈服させられてしまう。

 ヴァンは数少ないそうならない一人だ。前の決闘ではフェイント混じりの二段構えを捌き切り、最終的な勝利を掴んだ。故に今回も同じ流れになるとテレーゼは確信していた。 

 ハノーヴァー砦攻略で成長した彼女は勢いに精度と慎重さが加わり、その戦い方も多様化している。三手先を予測した三段構え、戦法は剣、手、足に左右上下を加えた十二通り。前は左目を奪った。今度は頭を叩き割って勝負を決める。


「Herz(心臓)」

「えっ!!」


 ヴァンはテレーゼに先んじた。一歩間違えば返り討ちに合う防御無視の突進。頭が近すぎる。一瞬、反撃すれば殺してしまうかもしれないという迷いが判断を遅らせた。

 胸を狙った刺突を後ろに飛んで躱す。間一髪であった、後もう少し判断が遅れれば串刺しになっていたかもしれない。


「何よ、〈手足を奪う〉のではなかったの!!」

「他の場所を狙わないとは言ってません」


 体勢を整えたテレーゼは上段からカトラスを振り降ろす。無造作なそれはフェイントだ、本命は胴狙いの中段切り。剣の扱いはともかく、剣速ではテレーゼが早い。ヴァンでは完全には対応できないだろう。前ならばそれを止めにしたが、今の彼女は慎重だった。

 戦闘の主導権を奪い返す。防戦に回らせる、それで今は我慢する。


「はっ!!」


 あっけなく、ヴァンのカトラスは地面に叩き落された。むしろテレーゼが驚いたぐらいだ。鈍い音を立てて、主人に見捨てられた剣が地面に鎮座する。その音が鳴り響く前にヴァンの左手が万力のようにテレーゼの剣を持つ利き手の手首を抑えつける。


(足払い!!)


 とっさに右足を上げてテレーゼはヴァンの足払いを防いだ。テレーゼの足裏とヴァンのつま先がぶつかり合う。なんとか凌いだ。だが、自由になった右手から放たれた掌底は躱せなかった。

 左足をテレーゼの足裏に抑えられた不安定な状態にも関わらず放たれた体重の乗ったゼロ距離の拳打。まるでハンマーで殴られたかのような強烈な一撃がテレーゼの意識を混濁させる。

 あまりの衝撃に息ができない。カウンターの要領でテレーゼの左手がヴァンの腹に入らなければ、それでヴァンが手を離さなければそのまま終わっていたことだろう。同じ一撃を受けたら今度は耐えられない。


「呼吸を整える時間を与えましょう。これで負けては納得できないでしょうから」

「随分と余裕なのね、貴方も脂汗を掻いているじゃない。どこかまずい所にでも私の拳が入ったかしら」

「暑がりなのですよ、黒服ですし……」


 幸いなことにヴァンもまた消耗していた。本人は平常さを保っているつもりだろうが、わずかな呼吸の乱れや汗などをテレーゼは敏感に察知する。


(驚きましたわ……ここまでなんて)


 とは言うものの、テレーゼが不利なことには代わらない。自分は努力し、修羅場をくぐってきた。だがヴァンはもしかすると自分以上に努力し、自分以上の修羅場をくぐってきたのかもしれない。

 ならば敗北は必定、しかしそれであきらめないのがテレーゼというファーヴニルであった。

 一瞬の隙を突き、無理で道理を蹴散らす。相手がどれだけ強大であれども、所詮は同じ人間だ。人間に勝てないはずがない。


「おいおい、姫が押されているぞ」

「ヴァンって、あんなに強かったのか?」

「いや、知らねえ……兄貴が言うから、てっきりリヒテル様のお情けで傍に置かれているとばかり……」

「知らなかったのかい、あの男は副頭領の側近、序列一位だよ」

「マジかよ、医者!!」


 ヴァンの優勢に周囲のファーヴニルはざわつき始めた。彼らは兄貴の言うことを丸呑みにしていたため、本当にヴァンを小姓か何かと勘違いしていたのだ。

 混血である時点で憎悪の対象だが、実力不相応な立場にいたことも憎悪を掻きたてる要因であったのも否定できない。その誤解が解けつつあった。


「僕の名前はツェツィーリエだよ」

「長げえよ……ツェ、でいいだろう?」

「本当に君達、ファーヴニルは……そんな風にするなら君たちの兄貴を治してやらないよ」

「何、できるのか!!」

「できるさ、ヴァンは別に洗脳したくて不死兵にしたわけではないからね。私の腕前ならば……まあ、何もかも元通りになるかは分からないけどね、ふっふっふっふ」


 ツェツィーリエは不気味に笑いつつ、二人の決闘を見つめていた。ここでヴァンがテレーゼを殺害、ないし再起不能にしたら母であるアーデルハイドはどんな顔をするか。

 古い知り合いであり、幸せな余生を送ってほしいと思いつつも、彼女は同時にアーデルハイドとの付き合いが重荷になりつつあったのだ。

 何故かと言うと、絶望して自暴自棄になってくれれば良心の仮借なく裏切れるからだ。

 実の所、彼女は既にある人物に取引を持ち掛けられていた。莫大な資金に膨大な実験素材を約束するあの人物と手を組めば、かつてウラジミール公に拒否された〈影〉の実験を完成させられるかもしれない。その魅力は抗いがたい。


「ともあれ、どうか私の知り合いには幸せになって欲しい物だ。死術士と言えども、私も血の通う人間だからね」


 心にもない彼女の言葉が聞こえたわけではないだろうが、その瞬間、ヴァンとテレーゼは二度目の激突を開始していた。


*****


リューネブルク港―――


「ローベルト様、港に着きました」

「よし、気取られぬように停泊し、私の合図とともに攻撃を開始する。準備は済んでいるな」

「はっ、命令があれば崖からでも飛び降りますよ」

「それにしてものんきな奴らですね。我らに気付かないどころか、弛緩しきっています」

「所詮はアールヴだ。奴らの言う自由とは義務を放棄した堕落した自由のことを指すのだ」


 口々にアールヴを蔑み、自分達の優秀さを称えあう彼らだったが、それは不安に駆られたからでもあった。この戦い、勝っても負けても自分たちは死ぬ。

 イエに庇護されてきた恩義、選ばれたことによる矜持、だがそれでも死にたくはないのだ。一人のスヴァルト兵が女の名前を口の中で唱えた。母親の名前であった。

 その中でも騎士、ローベルトだけが完全な威厳を保っている。彼は末席とは言え貴族、科せられた責任が違う。兵士の前で取り乱したりは出来ない。あのミハエル伯爵と同じく戦場で散ることを覚悟している。


「積荷が散らばってて、道が見えないですね」

「あの男なんか積荷に跨って、酒を飲んでます」

「少しは整理整頓しろよ……これだからアールヴは」

「無駄口はそこまでにしろ!!」


 ローベルトの一喝で兵士らは一斉に押し黙った。ここからは戦場だ。接舷の瞬間、彼らは矢のように飛び出し、港を地獄図絵に変えるのだ。

 まるで引き絞られた弓のように緊張が高まる。あと六十秒……五十九、五十八、全員が心の中で数を数えた。その数が三十を過ぎただろうか、唐突に彼らの船団が紅蓮に染まった。


「攻撃を受けました!!」

「そんな……馬鹿な!!」


 焼夷兵器による遠距離攻撃、恐らくはムスペルの炎。絞められた鶏のような悲鳴を上げて神官らが恐慌をきたす。


「ローベルト様、港内に多数の兵士を確認、恐らく平民を装っていると思われます」

「積荷の奥に投石器を確認、三台以上はあるかと」

「ローベルト殿、ここは一度退くべきですぞ……このままでは狙い撃ちにされる」

「進軍開始!!」


 恐慌状態になった神官とは対照的にスヴァルト兵らの対応は水際立ったものだった。次々と報告がローベルトに届き、その裁可を求めて来る。彼らは今か今かと指揮官の命令を待っているのだ。

 その秩序だった動きと勇気にローベルトは満足げにうなずいた。


「船が燃え尽きるまでに陸につければいい……元より帰りの船などいらぬのだ。我らは既に背水の陣、後方が水か炎か違いでしかない。このまま進ませるように漕ぎ手に伝えろ、言うことを聞かないのならば殺してしまえ」

「はっ!!」

「そ、そんな……貴方方はそれでいいとしても私は良くない。早く小舟を出してくれ、私は降りる。もう付き合いきれ……」


 それが裏切った神官の最期だった。動揺しきった顔のまま、自分がそうと知らぬ間に地獄に送り込まれていたのだ。斃れる彼の懐から金貨の入った袋が落ちる。地獄の河で払う渡し賃であった。


「初めからこうすれば良かったな。アールヴなど……」


 まるでゴミでも捨てるように事もなげに神官を殺したローベルトは既に次の事を考えていた。

 間違いなく情報が漏れている。敵は鉄壁の布陣で待ち構えているだろう。だがそのことに別段困惑することはなかった。むしろ湧き上がるのは歓喜。

 矛盾する考えだが、この策の成功を望む心とは別に敵の激しい抵抗をも欲していたのだ。

 ギリギリの瞬間を行き来する快感、困難であるからこそ燃え上がる闘志。それは武人が決して克服できない業であった。


「準備が出来ました。少し船と港で高さがありますが、アールヴの乗組員を十数人程殺しました。彼らの死体で足場を作ります」

「上出来だ」


 甲板がスヴァルト兵、否、スヴァルト騎兵で埋め尽くされている。軽騎兵が持つは熊の骨で作られた合成弓、ティルフィング製の歪曲刀シャムシール。

 その後ろに鈍く輝く甲冑と、チェインメイルを着込んだ重装騎兵がそそり立つ。手に持つその槍で十年前に幾人のアールヴ神官兵を串刺しにしたことか……今、解き放たれたその凶器が再び血をすするべく、狂気の笑みを浮かべる。


「見よ……戦場は草原である。狩るべき獲物が自ら雁首そろえてやってきた。ならばやるべきことは一つ……全てを狩り尽くせ。我らが武勇、家畜共に思い出させてやれ!!」

「ウッラー、ヴァール!!」

「ウッラー、ボリス!!」


 軽騎兵が天に矢を放つ。その援護を受けて重装騎兵が宙を舞う。まるで無人の荒野を走るかのようにほとんど邪魔されることなく、ゴルドゥノーフ家騎士団は大地をしっかりと踏みしめた。

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