第七話 御復習い
「この距離ならまだ大丈夫だ、最後に作戦の
サブボスが事前にわかっていたので皆に作戦は伝えてあったのだが、戦闘の前に改めて確認することにした。
「まず、ロートドラゴンは自分の属性である炎に耐性があるので、炎属性での攻撃は却下だ」
グリューンドラゴンと戦った際は、相手の属性がどうだとか気にするレベルに俺自身がなっていなかった。だが一度経験したことで、属性を気にする余裕が生まれていたのだ。
「炎属性に対抗できる水属性だけど、遠距離攻撃ではただでさえ弱い攻撃力が落ちてしまう。なので、やはり却下だね」
この世界では、水は炎に強く、炎は風に、風は土に、土は水に、とそれぞれ相性があるのだが、必ずしもそれが全てではない。
今回は空を飛ぶドラゴンが相手なので、必然的に遠距離攻撃になる。そうなると、威力が落ちることを考慮する必要があり、炎に優位ではあるが遠距離に難のある
水属性は選択肢に入らないのだ。――そもそも水属性が攻撃に適していない。
「そこで、質量があり、破壊力もある土属性で攻撃したいことろだけど、速度の関係で避けられてしまう可能性が高い。なので、切れ味はあってもドラゴンの鱗までは裂けないのを承知で、皮膜の羽根であれば傷をつけられる風魔法でいく」
あわよくば、グリューンドラゴンを撃墜したように羽根の付け根を破壊し、地上に落としてやりたいところだが、遠距離一辺倒でそれは難しいだろう。
「羽根が傷ついてもドラゴンは飛行が可能だ。でも飛行速度は落ちる。そこで、動きの遅くなったドラゴンに土属性で高威力の攻撃をぶつける」
攻撃火力でいえばやはり炎属性が一番だが、その炎属性に耐性のあるロートドラゴンを相手にする以上、質量のある土属性でいくのが正解だろう。
硬い鱗を貫通できなくとも、その威力で体内にダメージを蓄積させるのが本命だが、攻撃を打ち込んでいる間に鱗を打ち破る可能性も考慮している。
「ここまでは大丈夫かな?」
全員が真剣な眼差しでこちらを見ながら頷いている。少々気負っている者もいるので、戦闘の前にリラックスさせた方が良いだろう。
「じゃあ、次は担当の確認ね。――姉さん、シェーンハイト様、イルザは戦闘前に皆に防御膜の付与、それと戦闘中に怪我人が出た場合の回復を」
エルフィ以外の光属性が使える三人は戦闘向きではない。ここは後方に下がってもらった方が、要らない心配がなくなるのでこれでいい。
「最初の風属性の魔法は、俺とディアナ、それとフロリアン」
大きなドラゴンとはいえ離れた場所からの攻撃だ、威力も然ることながらまずは当てることが重要である。それでいくと、俺とディアナは確定として、そこに最年少だが魔法を扱うセンスがピカイチのフロリアンも参加させる。
「で、土属性魔法は、師匠を中心にジェニーとミリィ、それから俺達風魔法組も参加する」
師匠は適性のない魔法でもそつなく熟す器用な人だが、適性もあって一番得意なのが土属性だというので、この人選は問題ない。
ジェニーは火力だけなら一番なのだが、如何せん不器用なので大雑把に狙える土魔法だけに専念させる。
ミリィは炎を纏った槍で攻撃し、風魔法で機動力を増加させる近接戦向きの戦闘スタイルだ。だが彼女は非常に器用なので、土属性を駆使した土木作業もテキパキ熟していた。そこで、試しに放出魔法もやらせてみると卒なく熟して見せたのだ。ただ、放出魔法の燃費が悪いので、あまり数は飛ばせないだろう。
「モルトケと姉ちゃん、それにエドワルダは、ドラゴンが地上に落ちたらまずは注意を引き付けて。そんで最後は近接で仕留めて」
放出魔法は苦手でも、剣に魔法を纏わせた戦いでは随一のモルトケ。
ワイバーンの目玉にレイピアを突き刺した実績のあるエルフィ。
小さな身体ながらに常人離れした膂力を持つエドワルダは、最近では放出魔法も身に付けてきたが、現状では近接戦でこそ力が活きる。
「ドラゴンに炎のブレスを打ち出された際、ヨルクを中心にマーヤとルイーゼで土壁を張る」
盾職として動いていたヨルクは、適切な位置に土壁を作り出せる。
マーヤは狩人の感の良さで、ヨルク並の働きが期待できるだろう。
ルイーゼは集中さえできれば、能力自体はヨルク達より上だ。ムラっ気を出さないことを祈る。
「ルイーザはシェーンハイト様を徹底的に守護。姉さん達が周囲に探索魔法で他の魔物がこないか確認しているから、ロルフは後方組を守りながら他の魔物が現れた際の駆逐を」
ルイーゼを土壁組に回したので、シェーンハイトの護衛はルイーザだけになってしまうが、土壁自体がシェーンハイトを含めた後方組を守るためのものだ、問題ないだろう。
ロルフは放出魔法も使えるが、本職は接近戦だ。可能性は低いが、他の魔物が現れた際には対応してもらう。
アンゲラとイルザも少しは戦えるので、いざとなればロルフと協力して後方を守れるはずだ。
「別段変更はなく、元々の予定通りで行くけど、何か質問はあるかな?」
改めて方針や役割を伝えたが、皆もしっかり理解しているようで、この期に及んで質問をしてくることはなかった。
準備が整い、いざドラゴンへ向かって歩き始めると、不意にドラゴンの気配が動いた。どうやらドラゴンが上空に跳び上がったようだ。
ちっ、ドラゴンは俺達の存在に気付いていたのか。
もしかすると、ドラゴンとしての能力ではなく、神殿の守護をする者としての能力なのかもしれないが、何にしてもこちらの気配を察知されたのは確かだ。
だがしかし、伏魔殿のボスであるグリューンドラゴンを倒した実績があるのだ、こちらの存在をドラゴンに知られていることがマイナス要因とはならないだろう。
程なくして、伏魔殿のボスが守護する小高い丘を登りきった。
俺の知る限り、伏魔殿内の神殿は必ず地中にあるので、ボスのいる場所は小高い丘の上となっている。
ここも俺の知っている伏魔殿と同じように小高い丘があり、更にその上空にドラゴンがいることから、この付近に祠があるはずだ……が、見当たらない。
「あれ? サブボスだと祠がないのか?」
「それはですね――」
俺のどうでも良い独り言に、シェーンハイトが応えてくれた。
なんでも、北の伏魔殿の一帯には複数の伏魔殿があり、現在いるこの場所もその中の伏魔殿の一つだった。
そして、過去には平定された伏魔殿もあったのだが、開拓が進まず放置している間に再び伏魔殿に戻ってしまった場所もある。
そんな中で、一度も平定されなかった二つの伏魔殿を中心に周囲の伏魔殿が一つになった。
それが北の伏魔殿なのだ。とシェーンハイトは教えてくれた。
「それでは、一度も平定されていない伏魔殿のボスだったドラゴンが、サブボスとなって神殿を守護しているのですか?」
「そうだと思います。なので、何処かに祠があるはずですよ」
シェーンハイトの話から推測するに、一度平定され再び伏魔殿になった地は、ボスが存在しない伏魔殿となるのだろう。だから、それらの地にはサブボスは存在しない。
今回、俺の主任務はドラゴンを倒して名声を得ることだ。
とはいえ、単にドラゴンを倒せば終了ではない。王都と王国北部を繋ぐ経路ができ、交通の便が良くなることで『これは助かる』、と王国民に思わせることも大事だ。
そうなると、広大な北の伏魔殿の一部は開拓が進まず、再度伏魔殿に戻ってしまうことも考えられたが、ボスのいない伏魔殿であれば再平定はそれ程難しくないだろう。
北の伏魔殿跡の開拓はアルトゥールの主導で行なわれることになっているが、もしかすると俺に話が回ってくることを危惧していた。しかし、必ずしも急いで開拓しなくて良いのであれば、俺に話が回ってくることはないだろう。
少しだけ肩の荷が下りた。
「さて、そろそろ気合を入れますか」
間もなく戦闘開始になる。俺は誰に言うでもなく、自分自身に気合を入れるのだった。
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