フラグとか知らんし、村人を続けたいし。
俺は村の中の外れにある一つの家を割り当てられ、そこで生活させられることとなった。思いのほか給与体系はしっかりしている。この家もいわば社宅扱いで、格安の家賃で住まわせてくれるらしい……、と福利厚生がしっかりしているのは別にいいのだが。問題はそこじゃなくて。
俺は昨日戦ったモンスターのことを思い出す。あの時は偶然にも俺が魔法?らしきものを発動したから勝つことができたものの。もし次同じことが起きたならどうすればいい? マロンは俺に「俺の役割は主人公に魔法を教える師匠的なポジションだ」と説明していたが、そもそもその俺自身が魔法について、何の知識もないのだった。……ま、この世界は設定がガバガバだし、役割には忠実だからいざその時が来たら「汝に魔法を授けん! きえーーーー!!!」とでも気合を込めてやれば伝授できるかもしれないけれど。
俺の杞憂とは裏腹に、俺の腹の虫が大合唱だ。昨日は疲れたからそのまま寝て、今日は朝から何も食べていない。もうお日様も頭上高く上がろうという時刻だ。時計があれば今頃12を示していたに違いない。ああ、腹減った。俺の家に厨房はあるけれど、それを活用する気力も、そもそもこの世界での食材に関する知識も俺にはないのだった。何を食えばいいっちゅうねん。
と思っていたのだが。
「スギ―さん、ご飯できましたよー!」
台所から、俺を呼ぶ声が聞こえた。
声の主――アルカ・ミラズは昨日俺がモンスターから助けてやった女の子で、緑色の髪に緑色の光彩という、不思議ないでたちをしている。長い髪の毛からツンと尖った耳。彼女は恥ずかしそうに「ハーフエルフなんです」とそれを説明した。
ハーフエルフというのは純潔のハイエルフと人間との混血で、エルフたちは自分たちの種族を純潔に保つことに誇りを持って居るから、他種族の血が混じった時点で忌み嫌われてしまうらしいのだ。そんな彼女だったが、実は勇者パーティの一員らしく、昨日は一人で斥候しているところをはぐれ、相性の悪い敵に苦戦を強いられていたとか。
「昨日はありがとうございます。この辺で取れたキノコで作ったスープです。
……すいません、あまり料理は得意ではなくて」
「気にすることじゃないぜ。……ずずっ。
うまい!」
俺は口に運び、思わず感嘆の声を上げた。
「そんな、お世辞ですよう」
「嘘じゃない。俺はこんなにうまいキノコ食べたことないぜ」
「スギ―さんたら」
「うまいうまい」
それは本当のことだった。
一口噛めば肉厚のキノコからうま味がしみだしてくる。スープ自身にもキノコのうま味がついており、それをハーブ系の香草でふんわりと食欲を刺激するようにまとめてある。
俺の絶賛に、アルカは顔を赤くして、
「そ、そんなに褒めても何も出ないですよ!」
と顔の前で手を振っていた。
「料理が上手な女はいい嫁になるってばっちゃが言ってたぜ」
「お、お嫁なんてとんでもない! 命の恩人ですし釣り合いません!」
ぶんぶんと首がもげるんじゃないかと思うぐらいアルカは首を振っていた。
〇
食後、俺たちはお茶を飲みながら今後について話し合うことにする。
俺がきいたのはアルカが勇者パーティとはぐれた、ということだけである。
「勇者さまたちは炎熱の洞窟で、骸龍を退治するために奮闘しておられます。
……本当なら私も微力をお仕えしたかったのですが。こうしてはぐれてしまって。
あまつさえモンスターに不覚を取る始末」
「ま、まあ苦手な相手くらい誰にでもあるわけだし。
そういった場面に対処するためにパーティを組むわけだろう? 今回のことはしかたなかったんじゃないか?」
アルカがあまり思いつめた顔をしており、今にも自決してしまいそうだったから、俺は適当にフォローをいれておく。
「そ、そうですよね。本来私の役割は軽騎士。攻撃も補助もそこそこできますが、一対一の戦いには向かない職業なんですから!」
その職業とか説明されても俺にはよくわからないのだが。
まあ、本人がそれで納得していることに横槍をさす必要はないだろう。俺は話の続きを促した。
「それで、今後どうするんだ? 勇者パーティに合流するのか?」
「うーん、そうですね。故郷でつまはじきにされた私には行くあてもないわけですし。
勇者さまと旅を続けるのが生きがいというか。指針ですね」
「ふむ」
勇者がまだこの村に入ってきたという情報はない。……ということは、おそらく洞窟の中で苦戦を強いられているのだろう。ということは、「勇者パーティと合流する」ためにはもう一度洞窟の中に戻らなければならないわけだ。
……苦戦して、逃げてきた、あの洞窟の中に。
俺の顔色を察したのか、アルカは苦笑してみせた。
「そうですよね、無謀だと思っちゃいますよね。
昨日生き残れたのもスギ―さんのおかげで。
どこにいるか分からない勇者さまたちを助けるのに、一人で洞窟に潜る勇気は中々……」
どんどん声のトーンが小さくなり、意気消沈していくアルカ。何かいいアイディアがないか、俺が首をかしげていると、
「スギ―さん、出番ですよ!」
ばん! と俺の玄関から勢いよく転がり込んできたのは、この世界で初めて知り合った茶髪の青年――マロンだった。
「……この村には礼儀ってものがないのか? 訪問前には家の扉をノックするぐらいの」
俺はイライラしながら言ったが、マロンはそんなことは意に介さずに話し始めた。
「フラグです! 今フラグが立ちました。
スギー殿がアルカさんの仲間となり、勇者と出会うイベントのフラグです!
サイーゴの村着任早々出張ですよ! いやー、スギーさんは有能だ」
「おいおい、話を勝手に進めないでくれ。フラグって言っても、強制イベントじゃないんだろ? 第一、スキルを持ってると言っても戦闘に関しては俺はずぶの素人で……、その判断は結局アルカにゆだねられるんじゃないか」
といいつつ、俺がアルカの顔を見ると。
アルカは顔を真っ赤にしてうつむいていた。
「とのことです! アルカさん、どう思われますか?
『スギーを連れて、旅に出かけますか?』 → はい / いいえ」
そして意を決したかのように彼女は顔を上げると。
「『はい』! スギーさんを私の仲間に引き入れます。そして一緒に勇者様を探す旅に出ます!」
「ちょっと待てよ。さっきも言ったけど俺はこの世界にきたばかりで、モンスターに勝ったのだって偶々というか……マグレ勝ちだぜ? 」
とても正気の沙汰とは思えない。完全に足手まといになるだろう俺を連れて、迷宮を彷徨い歩く? 俺は戦闘はもちろんのこと、冒険のいろはだって準備できてないんだぜ。
「戦闘に関しては、おいおい、私がサポートして行きます!
それ以外のサポートだって、得意なんです。私はローグ(狩猟者)の免許も持ってますから、サバイバルスキルは一通り網羅してます。私ともう一人分くらいなら、生かすスキルを持ってます。安心してください!」
「そ、そういうことじゃなくてだな」
あまりに俺に熱心に勧誘してくるなこいつ。
何か他意はありはしないかと、疑り深い俺は思ったりするのである。
けれどアルカはギュッと握りしめた拳をほどいて。
それから俺の裾を掴んで、今度はさきほどまでと打って変わって涙目になって、上目遣いで、
「それとも、私と旅に出るの、嫌ですか?」
と言い放った。
……そんな聞き方はずるい。嫌だと言える男子が世の中にどれだけ居るのだろう? いや、いまい(反語)。少なくともエルフの美少女に勧誘され、俺を頼ってくれているのにそれを無下に断るという選択肢は、俺の中にはなかった。……たとえそれが妖しくても、だ。
「分かった。そこまで頼まれちゃ断われない。引き受けるよ。
けどさ、何回も言うけど、俺初心者だぜ?」
足をひっぱる可能性があることを、何度も念押しする。けれどアルカは一度頷いた頭を、二度と横に振ることはなかったのだった。
「そんなに自分のことを卑下しないでください。
私を助けてくれた黒炎魔法、「招雷」。あれ1つ取っても、私たちのパーティーにはなかったくらいの高威力の魔法攻撃なんですよ?
それに私のこと少し侮ってるかもしれませんが」
彼女は手のひらを上に向け「探知サーチ」と唱えた。
するとこの村界隈のマップが表示され、青い点がいくつか点灯しているのが見て取れる。
「ほら、こうして同じ階層であれば敵の居場所、数、おおよその能力ぐらいなら察知できます! スギーさんが倒せそうなら、エンカウント前に超遠距離から撃破。
もし面倒になりそうなら、敵の群れを避けながらダンジョンを進めばいいわけですし」
「ほおおー、なかなか便利な能力だな」
こいつ、確かローグ関係のスキルを持って居るとも言っていたな。こうしたスキルは、その範疇に含まれるのかもしれない。
……だとしたらどうしてあんな窮地においやられたんだ?
「え? なんかいいました?」
「いや、独り言」
話を聞く限り……それから見る限り、アルカは非戦闘員としての役割を果たしていたのだろう。探査、罠解除、それから、料理など。好戦的な性格をしているわけでもないし、むしろモンスターを見かけたら距離を取り、回避行動をとりつつパーティへ復帰する。それが彼女の役割の定石であるように思う。
そんな彼女が一人でモンスターに襲われるという状況が、俺にはいまいち納得できないというか。彼女の話のどこかに嘘が含まれているのか。それとも何か隠し事をしているのか。
もしくはまだ、この世界には俺の知らないルールがあるのか。
うーむ、いろいろ考えて頭がごちゃごちゃになってきたな。
ま、ある程度は考えても仕方ない。
俺は曇ったアルカの頭をぐしゃぐしゃかき混ぜて、「信用してるぜ、相棒!」と冗談めかして声をかけた。「相棒」とのキーワードがよかったのか、アルカはすぐに喜色を浮かべ、満面の笑みでうなずいてみせた。
〇
冒険に出る前に、装備を一通り見繕ってもらって……俺は紫色のローブに、樫の木でできた杖を持たされていた。それから、回復薬などのアイテムを背中に背負っている。「これでいっぱしの冒険者ですね!」とアルカは俺を励ましてくれたが、俺はしっかり店で一番安い杖を買ったのを見ていたからな。金ないんだな。金は俺もあまりないが(そもそも月給制だし)、高級な杖は給料何か月分にも匹敵する。ボーナスが出た時にでも買おう。ま、その時までこの関係が続いているかどうかは別だが。
そして次に大事なのは、自分自身の戦力把握である。これはマロンに説明してもらった。
「スギ―さんは勇者に伝達するための3つの系統の魔法が使えます。
1つはこの間モンスター相手に披露した黒炎系。雷を呼び寄せたり、消えない炎を生み出したりします。
2つ目は、パフスキルの特異スキルである絶影系スキル。
属性が「影」の他の魔法とは異なるユニークスキルで、影を縛る、武器化する、影自体を殺す――アンデッドなどには有効な手段です――ができます。
最後が、極大回復呪文です」
「ここまで回復魔法無しでくるパーティーなんか、そもそも存在しないだろ」
「違うんですなぁ、スギーさんが使える『リ・ジェネレート(極大回復呪文)』は。
なんと効果時間中、徐々に体力が回復していくんですよ! 」
なんかどっかで聞いたことあるような効果だな。
……まあいい。結果、3つの系統の魔法を使える俺だったが、実際に戦闘に生かすことができるのは黒炎系の魔法だけだろう。おそらく戦闘では俺がアタッカーとなるのだろうから、絶影系魔法の補助をかける必要――というかタイミングがないだろうし。回復魔法も「極大」とうたってはいるが、どの程度回復するか検討がつかない限り、基本的にこちら側はノーダメージを目指して攻略していくしかないか。
ま、マロン曰く、俺はスキルを伝達する側のキャラクタだから、魔法の使用回数の制限がない、というのが地味にありがたいな。
「あ、ちなみにですが」
マロンは茶色い瞳をこちらへと向けた。
「絶炎の洞窟ですが、名前の通り炎系の魔法は使えませんので。
スギーさんの「煉獄」も例外ではなく」
ふざけんなよ。「招雷」一本で探索しろって? めちゃくちゃなことを言い寄るな。
この魔法の精度を上げるしかないわけか。
「そうなんですよぉ! アルちゃんがそのせいで魔法が使えなくて。
アルちゃんってのは私たちのパーティで、魔法使いなんですけど。
得意なのが炎魔法で、大事なダメージソースだったんですけど、炎魔法が使えないせいで苦戦を強いられていて。
このままじゃ骸龍退治もできそうにないっていうか」
「……おい。今さらっと、そのがいなんとかと戦うことを俺に要求したろ。絶対嫌だからな」
「ええー、スギーさんが居れば一気に楽になると思うんですけどぉ」
「そもそも俺の目的はアルカを勇者パーティのもとへ届ける、それだけだからな。
言っとくけど、がちがちの強敵との戦闘やら泥仕合もNGだぞ。そこまでの給料は貰ってないからな」
「っはは、スギーさん、給料なんて、まるで公務員みたい!」
「俺は村に雇われてんの!」
まあ幸いながら、俺の仕事は「勇者パーティにスキルを伝達すること」だから。もし合流できたら、パーティの誰かに俺の持つ魔法を覚えさせてやって、そんでそいつが戦えばいいわけだ。俺不要論。俺の仕事はそこまで。え? 冷たい? 勇者に協力してやれって? 嫌だよ! 俺は魔物と戦うためにこの世界に来たわけじゃないからな。平穏と有休消化率と福利厚生を求めた結果がこれなだけで!
さて。次になすべきことは。
「『召雷』」
俺は手をかざし、洞窟で当てになるほうのスキルを行使してみる。かざした手のひらから黒い稲光が生まれ、瞬きする暇さえない速度でターゲットを直撃する。
うむ、速度に関しては問題ないだろう。……仮に俺が視認できない速さの敵が出てきたら、それはそれで問題だが。ま、その場合はもうどうしようもないとあきらめることにしよう。そもそも反応速度を上回られたら対処不能である。
次の問題は威力と、射程距離である。
「威力、ですかぁ。3階層ぐらいまでの敵なら一発だと思うんですけどねぇ」
俺がスキルを練習している横で、アルカがそんなことをつぶやいた。
つまり、威力に関しても問題はないわけである。骸龍やらと戦う時にはもっとダメージが必要になるかもしれないが、それは勇者たちに任せるとして。
そして最後の課題は射程距離である。
俺はだだっ広い草原に趣き、『召雷』を当てる感覚を、徐々に遠ざけてみる。一発目。とりあえず十メートルほど。二発目、その二倍。三発目は50メートル程度。
目指す距離は、「俺の視野全部」だが、ここで一つ問題があることが分かった。
『召雷』の威力が距離に反比例して落ちてしまう、ということである。
例えば10メートルの距離で木を10本倒すことができたとしよう。
距離を50メートルほどまで離すと、倒せる木の数は1本ほどまでに激減してしまうのだ。これは「敵の射程距離外から一方的に攻撃してノーダメージを目指す」という俺らの作戦にとっては致命的だった。
「大丈夫ですよぅ。魔法に大切なのはイメージと集中力ですから。
ばんばん使っていけばスキルレベルも上がっていきます!」
と、そんな風にアルカは俺のことを励ましてくれたが。
その他、踏んだ瞬間相手を感電させる「地雷(文字通りだな)」というトラップに応用してみたり、自分の意識の外、たとえば隣の部屋などにも『召雷』を呼び出すことができるかどうか、などを試してみたりした。結果は成功。無論、命中率などあるべくもないが、降らせる雷の数を増やしてショットガンのようにして使うことで、それを補うことにしよう。それを俺は『散雷』と名付けることにした。敵が密集してるエリアを潜り抜けるためにきっと必須になるスキルだろう。
そこまでで、俺の考えていたトレーニングは終わったのだが、一つだけアルカから提案があった。
今までは雷の威力を上げることを主としていたが、全く逆の練習もしたほうがいいと言うのだ。モンスターの中には人の身体から発する微弱な電気を感知して攻撃してくる、飛翔系のモンスターも居るらしい。そういった奴らのセンサーを狂わすために、あるいは人間の捕縛や弱ったモンスターを麻痺させるために。限界ギリギリまで出力をしぼり、『召雷』を発動する。これは少しめんどくさかったが、イメージしやすいから何とかなった。この技を『微雷』と名付けることにしよう。敵を倒すというより、状態異常を引き起こすのに有利だろうか。
これで俺のほうの準備はだいたい整った。
『召雷』の練度は徐々に上げていけばいいだろう。
「よし行きますか!」
と勢いよく先陣を切るアルカの肩を掴み、ぐいっと後ろに引っ張る。
「おいおい。お前の能力を聞いてないぞ」
「え? 必要ですか、それって」
「戦略を立てる上ではな。そもそもお前、洞窟のどこに勇者たちが居るか分かってるのか?
洞窟の中で当てどもなくさまよってたら、いくら魔法の使用回数に限界がないっても、体力のほうが尽きちまう。そこらへんちゃんとわかってんのか?」
最強魔法を初めから使えるから万事オッケー、という風にはならないのだ、世の中。周到な準備と想定が安全と確実な目標の遂行を可能にする。
さらに俺の小言は続く。
「大体だな、お前のサーチの魔法がありながらなんではぐれたんだ?
お前、俺に何か隠し事をしてるだろ。部屋の中に居る生命体が分かるなら、なんでそれで勇者パーティを探さない?」
「うっ、お察しの通り」
アルカはがっくりとうなだれた。
「私のサーチはスキルレベルが低くてですね……次いでいえば、洞窟の探索レベルが高いのも相まって、サーチの魔法に「私が歩いた道筋のみ地図化される」という制限がついたわけなのです」
「問題ありありじゃねえか。つまり魔法が使えても、お前の通った道に勇者が居なきゃ反応しないってことか?」
「そうなります、えへへ」
つまり、どういうことだ?
結局洞窟の中を網羅的に探索するしかないってことか。
いくら住民Aだとしてこれがフラグだとしても。俺はそこまでの給料は貰ってないぞ。
「ちっ、それじゃあ今すぐその経路を俺に教えろ」
「マッピング、オン」
勇者パーティとは3階層ではぐれたらしい。洞窟は最深奥が五階にある。そこに骸龍へと挑む扉があるらしい。
当面の方針を一階層からの探索に定めることにした。
〇
「勇者ってのはどんな奴なんだ」
俺が暇つぶしにアルカの過去をたずねると……彼女はまるで宝石を見つけたときみたいに、瞳をキラキラと輝かせて、
「勇者さまっていうのは、名前をマルクと言います。マルクさまはとっても素敵で、かっこよく、知的でスマートで、それにとてもお強く……まさに勇者!といった感じの人ですよ!
スギーさんもなかなかイカしてますが、マルクさまに会えば、すぐに好きになります!」
「……それって単純にお前が好きなだけなんじゃ」
「んもう! そんなわけないじゃないですか!」
真っ赤になった顔で、アルカは俺の肩をばしばしと叩いてくる。
「人間にしてもエルフにしても半端者の私を受け入れてくれて。
このあこがれが恋慕だとしても、叶う日はこないのです。そのくらい私にだってわかりますよ」
そんな言葉を、憂いを帯びた表情で。
……。
ま、いいんだけどさ。俺は恋のキューピッドじゃないのだから。
「それじゃ愛しの勇者様を探しに行きますか」
「もう! そんなんじゃないって言ってるじゃないですかぁ!」
……とそんな風にして。俺たちは階層へと歩を進めるのだった。
社畜村人 ~社畜を辞めるために異世界にきて村人Aになったはずだったんだが~ 雲鈍 @terry
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