迷宮要塞

ジャック達は宇宙船ごと要塞の側に移動し

大きく張られた天幕の中に

通信機器や簡易レーダーなどが船内から持ち出され

周辺はちょっとした野営地の様相を呈していた。(縁日やお祭りとも言う)


 ジャック達が見つけた

ちょっとした山ほどの大きさの、廃墟と化した巨大な歩行要塞。

大小様々な無数の砲台や

航空機用の甲板さえ備え付けられているそれは

陸の戦艦とも、空母とも言えない

そのどちらの機能も内包した、正に要塞であった。

 「こいつは来た甲斐があったな」

と、嬉しそうにジャックが言った。

その後ろでは、作業員達が予想だにしなかった獲物にはしゃいでいる。


これほど大きな廃墟なら、かなりの収穫が得られそうだ。

このようなゴミは滅多にお目にかかれない。

ジャック達にとっては、お宝が隠された迷宮のようなものである。


アツシはというと、偵察用のドローンで要塞外側の全容をチェックしている。 


 要塞は、所々が著しく損傷していた。

砲台やアンテナは大体が破壊され、そこらじゅうに大穴が空いている。

大半は攻撃されてできた穴のようだったが

一部、ジャック達の同業者が侵入する際に開けたと思われる穴も混じっていた。

長い年月を経て、脚部の一部が砂に埋もれてしまっている。


 「ここだ、上からハシゴが降りてる。」

アツシが端末上を指差す。

胴体の裏側のハッチから真下へと、長いハシゴが伸びている。

恐らく、かつて要塞の乗組員が脱出の際に使用したものである。

 「ここからなら進入できそうだな。」

ジャックが言った。心なしか目が輝いていた。


 探索にあたって、ジャック達は計画を立てた。

その計画とは、作業員の中から志願した何名かが中へ偵察に向かい

安全を確認してから、探索隊を複数組織し

何回かに分けて探索を行うというものである。

要塞の広大な空間の中では何に遭遇するのか、何が起こるのかが

予測できないというリスクを考慮した結果、このような計画を立てるに至った。


 まず最初に、計画通り、志願者で構成された偵察隊が要塞の中へ向かった。

銃と、発信機と、三十分ごとにジャック達のもとへ記録した音声を伝える録音機を身につけ

やる気と熱意に溢れた彼らの目は

スリルと冒険を求める幼い少年のようだった。

ジャック達は、彼らがハシゴを登っていく姿を

期待の眼差しで見送った。

彼らにとって良い知らせが届くと信じて。



 その後、偵察隊が要塞に足を踏み入れて、三十分。

記録された定期連絡の音声が届いた。



以下に記すのは、偵察隊からジャック達へ届けられた

最初で最後の音声記録である。


 「中に入った。」

記録担当の作業員の声だ。

 「暗いが、ここは、通路だな…」

 「奥へ進む」

しばらく複数人の足音が続く。

 「静かだ…」

扉を開く音。

 「階段があった。上へ向かっているようだ。」

階段を上がる足音。

 「また通路だ。部屋がいくつかある」

 「ここからは、手分けしてやろう」

分散する足音。


ドアを開ける音や、複数人が物を漁る音。


 「おい、これを見ろよ…」


 「かなりいい状態だな」


 「持って帰ろう」


といった作業員達の会話が続く。


 「誰か、こっちへ来てみろ!」

と、少し離れた声。

声のした方へ駆け寄っていく多数の足音。 

 「これは…!」

 「す、すげぇー…」

 「信じらんねぇ…」

驚愕する作業員達の声。


 「すごい、お宝だ!」 

 「金だ、山ほど金塊がある!」

 「これで大金持ちだぁーっ!」

心底嬉しそうな作業員達に

 「男が倒れてるぞ!」

と、緊迫した声。

足音が駆け寄る。

 「まだ生きてるみたいだ」

 「静かに!何か言ってる…」


 「に…げろ……逃げるんだ……」

倒れていた男と思われる声。

 「ヤツがまたやってくる…!!」


 「なんだって?」

 「ヤツってなんだよ…」

 「あんた大丈夫か?」

 「こいつ誰?」

といった作業員の声。

直後、形容しがたい唸り声が響く。

強いて言うなら、ロングトーンの牛の鳴き声のようだった。

 「逃げろぉぉぉおお!!」

倒れていた男の声。

音声から察するに、男は走り去ったようだ。 

騒然とする作業員達。


ドン!

上から聞こえた

大きな音。

無言になる作業員達。

先ほどより近くに聞こえる唸り声。

直後、がらがら、と天井が崩れる音。


唸り声と、大きくて柔らかいものが這う音。

絶叫する作業員達の声。

鳴り響く銃声と足音。



音声記録はここで途切れていた。


これを聞いたジャック達は、しばらく無言になった。 


 「……で、どうする?」

アツシが口を開く。


 「どうするもなにも…」

 「行くしかねぇだろうが……」

ジャックが答えた。


 「金塊の件もあるしな…」

アツシが小さい声で言ったが、皆聞こえないフリをした。


数分後そこには

軍隊のような重装備を纏った作業員数名と、ジャックが居た。


 「俺は後方から無線でサポートする」

アツシがジャックに言った。

(偵察隊もサポートしてあげればよかったのに。)


 「ああ、頼むぜ…」

ジャックが答える。


 「ジャックさん、全員、もう準備は出来てます…!」

作業員のひとりがジャックに声をかけた。


 「わかった。それじゃあ…」

少し間を置き

 「……行くか」


ハシゴを登り始めるジャック達。

謎の恐ろしげな存在を相手に

決死の救出作戦が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

恒星間廃品回収ー戦後の宇宙はデンジャラス!?ー デンジャラス・ハヤサカ艦長 @cbox123

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ