一番気に入ってるのは…

無事(?)惑星の地上に到達した

作業員30名ほどを含むジャック一行は

紙の地図を見て、一番近い都市を確認した。

今はホログラムのものが一般的だが、

 「このほうが趣があって良い」

という、ゴルスキーの意向で

ジャック達の持っている地図や海図は、紙で出来た古風なものが多い。


 「ここだな」

アツシが地図上を指差す。

砂漠に囲まれ、湖を抱き抱える

大きな都市が記されていた


 最寄りの都市は、ジャック達が居る場所から北に90キロほどの位置にあることが分かった。


 ジャック達は、都市までの道のりに

新型機体を購入した際におまけで付いてきた

無限軌道式の大型トレイラーを使用することにする。


 宇宙船を無人にするわけにはいかないので、ジャックとアツシ以外の作業員達は

航海士ゴルスキーとの王様じゃんけんで勝利した者だけが同行することになった。


 結果、ジャック、アツシを含めた10名が都市へ向かい

残りの数十名は宇宙船に待機となった。


 もともとは機体を載せる為にあるトレイラーの

巨大な荷台に、大量のジャンク品と作業員と、念のため数日分の食料品を載せる。

ジャックは、機体を自走させトレイラーに追従し

移動と共に護衛をすることとなった。


 ジャックは、既に起動させ、直立で待機させている機体のコクピットに座り

モニター越しに、積込の作業に追われる作業員達を見下ろしている。

 (彼らの作業を手伝ったりすると、何故か作業員のリーダーが後で作業員達を説教したりするので、手を出せないのだ。)


 重力と大気がちゃんとあるので、パイロットスーツは着ておらず

白いTシャツに肌色のズボンとかなりラフな格好だ。


 「たぶん、2時間もかからずに到着するだろう。」

アツシが機体の足元からジャックに話し掛ける。

 「だと良いんだけどなぁ」

ジャックが答える。

 「そう心配することも無いと思うが、どうし

 た?」

いつもと違い、少し疑いの色を

声に浮かべたジャックに、アツシが聞いた


 「嫌な予感がするんだよ。なんか出そうな気が

 する、この砂漠は……」

ジャックが言ったが、特に根拠は無さそうだ。


 「はぁ?なんだそりゃ…」

対するアツシは呆れ顔。


そしてジャックが

 「いや、分からんが……

 モンゴリアンデスワームとか…?」


 「いや、そりゃ無いだろう…」

すっとんきょうなことを言い出したジャックにアツシが突っ込む。


 「居ないかなぁ?」

 「居ねぇよ…出たらそもそもモンゴリアンじゃねぇし…」


…間抜けなやり取りはしばらく続いた。


 約20分後、作業を終えた一行は

宇宙船から、最寄りの都市に向かって出発した。


 道中でジャックは、機体を走らせながら

左側の画面に表示されているメーターを見つめていた。

小さな振れ幅で細かく上下している。

それは、機関部の温度を示すメーターで

振りきれると、所謂オーバーヒートとなり、行動不能となる兆候として見れるし

逆に低い温度のまま動かなければ、故障の可能性があることが分かるのである。


 そのようなメーターはあっても

通常、車などについている

燃料の残量を示すメーターは付いていなかった。

これは、そもそも燃料という概念がこの機体に存在しないからである。


ジャックはメーターを見つめながら、昔のことについて思いを馳せていた



 実は、ジャックの機体は昔の

まだ人類が地球にしか住んでいなかった頃に

"発見"されたフレームを使用している。


 当時の人類が海底の遺跡から大量に発掘した人型のフレームは

かつて搭乗型のロボットとして機能した痕跡が

認められたことも大いに話題になったが

それより重要視されたのが

腰より少し上の部分に必ず付いていた

球形の、莫大な熱量を無尽蔵に発する装置である。

後にその装置が解析され、一種の核融合炉であることが分かると

人類は総力を挙げた研究開発の末についに量産を始めるに至る。

それにより宇宙開発が飛躍的に進歩し

人類は新たな一歩を踏み出すことになった。

 核融合炉を量産することに成功した人類だったが

そのオリジナルとなった球形の装置は

未知の分子構造を持った素材で造られたフレームに埋め込まれており

当時の研究者曰く

「バカみたい」

に頑丈な構造のせいで、ついに取り出されることは無かった。


そんなオーパーツにもほどがあるフレームは、大量にあったが

核融合炉の研究を終えた人類には不要であり

かなり長い間地球の研究機関に保管されていた。


その後、二度ほど

人類同士の

宇宙での戦争が起きた。


それらの戦争の後に大量に発生したものが

職を失った下っ端の兵隊と、デブリ

つまりは宇宙ゴミである。


 これら一連の流れにより

デブリを撤去、或いは回収し金銭を得ることを生業とする

ジャック達のような存在の発生へと繋がり現在に至る。


 そんな状況下で、先の戦争のどさくさに紛れて流出した大量のフレームに

何者かが人工筋肉やブースター等の現代技術を組み込み

使用可能な搭乗型作業用ロボットとして復活させたものが

ご丁寧に操作、整備の仕方が書いてあるマニュアルを添えて

作業ロボットとしては破格の値段で

突如、"新型"として闇市場に流通したのであった。


 少し前に届いたジャックの機体も、その中の一つである。最も、ジャック達は

インターネットで見かけたこの機体が

それが元は歴史を左右したオーパーツであったことは露知らず

カタログスペックや見た目と

何より値段に惹かれて購入を即決したのであった。



 「しかし、安かったなぁ」

ジャックが呟いた


お値段、日本円にして

税込み20万円也。送料無料。

安いでしょ。

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