着陸、異常なし

 ジャックは、機能を停止した無人兵器を、宇宙空間からハンガーまで持ってくると

機体から降り一息ついた。

彼の仕事が一段落ついたのであった。


 ジャック達の乗る宇宙船は今、後部に網を広げて、航行しながら資源ゴミを回収しているところだ。ハンガー内では、無人兵器のパーツを種類ごとに分別し、保管庫へ収めるために、白いツナギを着た作業員達が解体を進めていた。

 アツシと作業員のリーダーが、解体作業を作業員に指示しながら

コンピューターはもう屑鉄にしかならない、とか

光線銃のパーツはそこそこ良い値が付くだろう、などと話し合っている。


 作業を眺めるのに飽きたジャックは、ブリッジまで上がり、宇宙船の航海士と話していた。

 「このデブリ、お荷物になりそうだ。どこかでさっさと売り払わなきゃならんな」

壮年の航海士が言う。


 網で回収したジャンク品は、網の口を閉じたあと、宇宙船の外にそのまま吊るされるので、できるだけはやく処分しなければ邪魔になってしまう。


 「まあ、ほとんど屑鉄、ジャンクなんで、大した金にはなりゃあしませんがね」

とジャック


 「それならわざわざ引っ提げて行くほどものじゃなかろうに」

航海士がぼそりと言う。


 それに大してジャックが

 「まぁ、そう言わずに、近場の星まで頼みますよ、ゴルスキーさん」


 航海士ゴルスキーは唸りながら頷くと、ガイドブックによると商業が盛んらしい、近場の惑星へと宇宙船を進ませた。


 数日後、宇宙船は惑星のすぐ側を浮遊していた。

惑星へ入る時には、大抵の場合ステーションを経由する。

ワープ装置によって摩擦熱の影響を受けずに

安全な着陸が可能なのである。


 だが、その日は混んでいた。

ちょうど、大昔から伝わる伝統的な祝日

プレミアム・フライデーの当日なのであった。

ステーションはかなりの混みようで

遠くから見ると宇宙船が密集して一筋の雲のように見えた。


 「こりゃかなり混んでるな…」

 航海士ゴルスキーはひとり呟いた。

このままでは、地上に辿り着くのはだいぶ先になりそうだ。

 「こうなりゃ仕方あるめぇ…」

ゴルスキーはステーションに並ぶ列を外れ、惑星の大気圏へと航路をとった。


 ジャックとアツシは、他の多くの作業員と一緒に

食堂で食事をしている最中だった。

その日のメニューは、トマトと豆のスープ

パン、キャベツの酢漬け等の質素なものだった。

最近のジャック達は

経営状況が芳しくないようである。

ジャックが、

「肉が食いたいね…」

それに答えるようにアツシは

「俺は卵が恋しいな」

などと話しながら、食事を口に運ぶ。

星に着けばどちらもすぐ手に入るだろうと

二人が考えていた時である。

艦内に航海士の放送が鳴り響いた。

「我々はこれより大気圏に突入する。衝撃に備えよ」

あっさりとした放送だった。

一瞬、全員が呆気にとられ静寂が訪れた。

その後、ちょっとしたパニックが起きた。

白いツナギ姿の作業員達は

宇宙船全体の窓のシャッターを下ろす作業や

荷物や機械、家財の類いを固定する作業に追われることとなった。

作業員全員がお祭り騒ぎのように

一斉に出ていった後の食堂は

散らばったパンやキャベツの上に

トマトスープがかかり

血の海のような有り様である。

その、ある種グロテスクな光景を

ジャックとアツシの二人は

テーブルの上に足を組ながら眺めていた。

行儀が悪い。

 「勿体ないなぁー」

二人は同時に呟き、それぞれ自室へと向かった。


 十五分後、すべての窓には頑丈なシャッターが下ろされ、あらゆる物が固定され

乗組員の全員がその身をベルト付きのシートに固定していた。

すべてが完了したのは、大気圏へと突入する寸前のことであった。

宇宙船が大気圏へと身を浸していく。


しばらくすると、船体が大きく

とても短い間隔でガタガタと揺れ始めた。

窓はシャッターが降りているので、外の様子は伺えないが

室温が真昼の砂漠ほどに上昇した船内の様子から

摩擦熱で白熱した外装が目に浮かぶようだった。

実際には大したことは無く、一昔前の頑強な設計のおかげで、宇宙

船は大した損傷も負わずにスイスイと大地へ向かっていた


しばらく揺れと暑さは続いた。

一時間ほど経った後、揺れが収まり

温度が落ち着いたので

作業員達が窓のシャッターを開けると、宇宙船は雲の中にあった。

無事に星へと到着した証拠であった。

宇宙船は今、緩やかな角度をつけ、物凄い速度で滑空している。

そして、間もなく地面へ胴体着陸した。

大きな衝撃が走った。

宇宙船は、しばらく地面を滑り続け

やがて停止した。丈夫な装甲と

着陸地点が砂漠だったおかげで、大した損害は無かった。


しばらくすると、作業員達が出てきて

「いやぁ、着いた着いた」

「なんとかなるもんだよなぁ」

などと言いながら、久しぶりの青い空を見上げる。


ジャック達には、この程度の無茶は日常茶飯事である。

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