デブリにて

 大量のデブリが散在する広大な

この宙域は、言わば古戦場である。

かつて行われた宇宙での戦争で

発生したゴミの山であるが

ジャック達のような者にとっては

宝の山と成り得る。

戦闘で燃え尽きることのなかった金属片は

大量に集めれば資源としての需要がある。

そういったジャンク品は

宇宙船から網を広げて一斉に回収する。


 それよりも価値のあるものがゴミに混じっている場合がある。

まだ動くエンジンや、使用可能な配線

電子部品、回路などがそれである。

稀に武器、兵器の類いが見つかることもある。

そういったものは、マニアや業者が比較的高めの金額で買い取っていくのだ

今回のジャックの仕事も

そういった"マシなゴミ"を

一斉回収の前に見つけて集め

持ち帰ることだった。


 爆音で音楽を流しながら

デブリを機体の両手で掻き分けて進んでいく。

目ぼしい物はあまり無さそうである。

 「外れか…」

と、ジャックがアツシに通信を入れようとした、その時だった。

隣にあった、セクシーな女性が描かれた金属板を、赤い光線が貫いた。

あまりに突然の出来事に、呆気にとられるジャック。

すると今度は、機体の真下辺りにあったデブリの纏まりに、光線が横凪ぎに差し掛かった。

何らかの機器が爆発し、ジャックの機体は吹き飛ばされた。

この程度では傷ひとつ付かない。

我に帰り、身近な遮蔽物に身を隠すジャック。

赤い光線は、今や無差別に周辺に降りかかっている。


 ジャックは、機体の頭部を遮蔽物から少し出し

赤い光線の源を探った。


 見つかったのは、円錐状の本体に無数の機械的な触手のような物がついた、恐らくはロボットで、光線は触手から出ていた。

光線を続けざまに撃つ姿は、さながら針ネズミのようだ。

 画面には、Unknownの文字。

どうやら、データベースに該当する情報が無いようである。

 「アツシ…?」

通信を入れるジャック。

 「おう、どうした」


 「マズいことになった。今送った画像を解析してくれ」


アツシが、送られた画像を見て

 「こいつは、大戦中の無人兵器だな。しかも初期型だ…

 「こいつを、見つけたのか?」

聞かれたジャックは

 「ああ、実は攻撃されてるんだ」

焦りながらも冗談めかした言い方。

 「そいつは…」

困り顔のアツシ。

 「そいつの、センサー類が故障してるんじゃねぇかな」

とジャックに伝えたあと、何かを思いつくアツシ。

 「なんとか生け捕りにできないか?もしできたなら…」

アツシが皮算用を始める。

 「プログラムを変えれば、ペットになるかも…」

 「いや、パーツをバラ売りした方が儲かるかなぁ?」

計算機を弄りながら一人言を始めるアツシ。

対するジャックは、まともにアツシの話を聞いていなかった。


アツシが話を始めたのと同時に遮蔽物が破壊され、高速での回避行動を余儀なくされたのだ。

放たれる無数の光線を、両手足を動かし、ブースターを細かく点火し、器用に避け、時にはデブリを盾にする。


 徐々にデブリが破壊され、もはや倒す他に余地が無い状況へと陥っていく。デブリが破壊されれば破壊されるほど、今日の稼ぎが減っていく。


 「弱点はねぇのかよっ?」

意を決してジャックがアツシに訊いた。

 「弱点?…そりゃあるにはあるけどよぉ」

 「さっさと教えろって!」

なにやら漫才のようなやり取り。

 「ぶっ壊したら勿体ねぇなぁ…」

ジャックの機体を光線がかする。

 「こっちは死にかけてんだよ!さっさと言え!」

だいぶ温度差のある会話。

 「仕方ないな…」

ため息をついた後に、アツシが話し始める。

 「円錐状の形をしてるのは分かるな?

 底の平らな方に、メンテナンス用のハッチが

 ある。そこは他より脆くなってる。」

ずいぶん分かりやすい弱点である。

 それを聞いたジャックは、直ぐ様行動を始めた。

まず、光線を避けながらちょうどいい鉄骨を掴みとる。

その後、無人兵器側から見て真下に急降下。スピードが早く、無人兵器の光線が追い付かない。さながらジャックの機動の軌跡を彩っているようだ。

ある程度降下した後、機体を翻し仰向けの姿勢になり、無人兵器の真下に潜り込む。

「見つけた!」

鉄骨を槍のように構え、無人兵器のメンテナンスハッチを正面に捉えると、急加速して突っ込んでいく。

どんどんスピードが上がる。

付けっぱなしだった音楽がサビに突入し、盛り上がる。


そして、ハッチに突き立てられた鉄骨の

ごつん、と鈍い音の後に

金属同士が擦れる甲高い音が

ジャックの機体に響いた。

深々と鉄骨をハッチに突き刺したあと、少し離れるジャック。

一瞬の眩い閃光の後

チリチリと火花を散らしながら

無人兵器は停止した。

音楽は終わっていた。


人型を生かした、見事な

三次元機動であった。


「流石。おつかれさん」

短くアツシが言う

「こんなのは、朝飯前よ」

答えたジャックは、満足げな顔をしていた。

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