恒星間廃品回収ー戦後の宇宙はデンジャラス!?ー

デンジャラス・ハヤサカ艦長

新型機

 ただよう筆箱のような宇宙船の

町工場ほどの大きさのハンガーに男がひとり。

ふたり、三人、四人……

そこには全部で、たぶん20人くらいの男が居た。

むさ苦しい。くさそう。絶対くさい。どうでもいいか。

そこに居る男達のほとんどは、数名を除き白いツナギを着こんで

忙しそうに作業をしていた。怒号が飛び交う。レンチも飛び交う。



 ハンガーの中央に巨大なトレイラー。荷台部分がリフトアップされているが

布で覆われ積み荷は見えない。大きな人型のシルエットだけが確認できる。

トレイラー付近に集まった、ツナギを着ずに、作業をせずに、仁王立ちする二人組。

片方はジーンズに緑色のシャツと、ラフな服装だが

もう片方の男はすこし珍しい格好をしている。

男はほっそりとした宇宙服のような、所謂パイロットスーツと呼ばれるものを着ていた。

四股が硬質のプロテクターで、関節が軟質のパッドで保護されているほか、胸の部分は特に分厚く

複合素材で保護されており、首の周りを保護するようにプロテクターと同じ素材の襟がついている。

背中には、一見消火器のような酸素ボンベが取り付けられている。

このパイロットスーツを着用した上で、専用のヘルメットをスーツに接続、着用することで

酸素供給、温度調節等の生命を維持する機能が働くのだが…

ヘルメットは今はまだスーツ着用者の左腕に収まっている。



 そんな大層なパイロットスーツを着て、左腕にヘルメットを抱え

仁王立ちする彼は、名前をジャックと言う。ちなみにこの話の主人公です。明るい整った顔立ちで細めの筋肉質。

その隣に同じく仁王立ちしているのは、ジャックの相棒。名前はアツシ。明るいごつい顔立ちでごつい筋肉質。ごつい。

そんな二人が見上げているのは、まだ布を被って正体を確認できないものの

今朝届いたばかりのピチピチの新型メカ。いままさに開封(?)されようとしている。


しばらく無言で仁王立ちしていた二人だったが、アツシが口を開いた。

 「ヘルメット、着けろよ!乗るときはっ!」

ハンガー内はかなり騒々しいので、声を大きく張っている。

 「分かってらァ!」

ジャックが短く答える。

 「外出ちまえば、コクピット内は無重力で、大気も無くなっちまう!」

とアツシ。

 「宇宙空間の仕組みくらい知ってるさ。それとな、」

続けるジャック

 「全く持って真空な訳じゃあ、ないらしいぜ?」

そりゃほんとかい。などと大声で会話をしていると、ついに新型機御披露目の時間がやってきたのであった。

 「布、剥がすぞ!」

 作業員のひとりが景気よく声を張り上げると同時に荷台に被さっていた布が落とされた。

あらわになった機体。向けられる期待の眼差し。今、インを踏みました。


機体はピカピカで、いかにも新品だった。5メートルほどある機体の、外見は人型に近いが

コクピットのある胸部は前に張り出した形状になっている。

全体的にスリムな流線形のパーツで構成され

胸部や脚部、腕部に幾何学的な装甲が施してある。

頭部は昔の騎士の兜を彷彿とさせる形状で

中々にヒロイックな機体である。


おぉー…と、機体を見た二人が同時に歓声をあげた。

 「調整はあらかた済ましといたからよ」

作業員のリーダーがジャックに言う。

 「あとは現場で微調整してくれや」


 「わかった、ありがとう」

と言ったジャックに、

 「これが仕事で、あんたらに雇われてるんでね」

と言い放ち、他の作業へ向かった。忙しいらしい。


 「さて、いよいよだ」

ヘルメットを被りながらジャックが呟く。

それを見たアツシが少し呆れた顔で

 「いよいよって、もう行くのかい?」

ヘルメット越しにジャックが

 「ああ、マニュアルは読んだしな」


 「まあ、ちょうど慣らしに良いような仕事もあるからな」

アツシが一人言のように呟く


 「どうせまたゴミ拾いだろ」

とジャック

 「ただ散歩に行くよかマシってもんよ。それに…」

アツシがニヤリと続ける

 「ただのゴミ拾いだってこいつなら、前に使ってた作業ポッドより、かなり稼げるんじゃねえか?」


試せば分かることだ。

言いながら機体をよじ登り始めるジャック。

 「梯子も待てねえってか…」

呆れるアツシを尻目に、瞬く間にジャックはコクピットにたどり着いた。

開閉スイッチを押すと、ヘッドパーツを境に前後に別れるように胴体がハッチとして開く。

コクピットに座り、ハッチを閉じる。左右に二つ、中央に一つあるモニターが一斉に起動し、ブゥンという音がした。同時に外の様子が写し出される。

 「画面は旧式か」

呟くジャック。

旧式のモニターは情報を写し出す際の外部との遅延がほとんど無い代わりに、大型で場所をとるという特徴がある。

ジャックは、狭いなぁーなどと思いながら

左右にある操縦レバー付近にあるスイッチ、モニターの周りにあるトグルスイッチを次々とONにしていく

モニターに写し出された外の景色に、ディスプレイが浮かび上がっていく。

高度、温度、湿度等の外部の情報が左側のモニターに纏められ

機体温度、装備品の状況、ダメージの状況等の情報が右側のモニターに纏められている。

中央のモニターは他のものに比べて大きめに出来ていて、メインカメラやコンピューターAIと直結されており

視界に入ったものをリアルタイムにスキャン、それに対する行動の選択肢を表示する機能が内蔵されている。

例えば、アツシを画面に捉えた場合

対象-人間

→掴む

 踏む

 手に乗せる

 指先で頭を撫でる

といった具合に選択肢が表示され、操縦レバーについた操作スティックや音声認識で選ぶことができる。

これらの選択肢は、想定される存在の3Dデータと共に登録できるほか

ネットワーク上のデータをダウンロードすることで機体による多彩な行動を可能にする。

これらの機能はコンピューターを制御している自由言語型AIによって可能となっている。


 (余談であるが、この認識システムはある種の安全装置としても機能しており、対象を認識

行動を選択するまでは移動以外の動作を機体がすることは無い。

………筈なのだが、インターネット上にはAIを誤認識させることにより"空振り"させる動作ファイルが溢れている

よくあることじゃないですか。)


次に、ジャックがヘルメットを接続した。ジャックがヘルメットから伸びたジャックをシートの脇に接続する。ややこしいな。

すると、今まで無造作にカメラに写る物のスキャンを続けていた中央のモニターが、ジャックの視線を認識し、ジャックが注視した対象だけをスキャンするようになった。


 出発の準備が終わった。そこら中に取り付けられた黄色のランプが点滅する。

「頑張ってこいよ〜」

「ぶっ壊すんじゃねぇぞっ!」

などと声を掛けながら人員がハンガーから退避していく。


全員の退避が終わり、ハンガーのハッチが開かれる。

太陽が輝いていた。


ジャックと機体は、宇宙空間へと足を踏み出した。

放り出されるように漂い始める。

「おいおい、大丈夫かよ」

アツシが少し心配している。


ジャックは、少しの間、雲のように宇宙を漂った後

宇宙空間ではアクセルとなる、右側のフットペダルを踏みこんだ。

背中、脚部のブースターに火が入ると同時に、オートバランサーが起動し

機体中の細かいブースターによって

機体が宇宙船を基準とした平行に保たれる。


「聞こえるか?」

宇宙船の狭いブリッジからジャックに、アツシが通信機越しに話しかける。

「ああ。サポートは頼んだ。」

アツシが、

「おう、行ってこいや」

と答えると

ジャックはニヤリとして、パイロットスーツに括りつけられた音楽プレイヤーの電源を入れた。

爆音でロックを流しながら、ジャックが乗り込む巨人が向かう先には

昔の戦争で出来上がった大量のデブリ群。


いつものゴミ拾いが始まるのであった

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