プロポーズは突然に

@muuko

第1話

「バイバイ桜」

「バイバーイ」

 友達の真波と別れた帰り道。いつもの公園の中を通り抜けていると、それはあった。


 レンガ色の石畳の小道。道の色と混ざってわかりにくかったけど、それは若干の色の違いを見せてど真ん中に堂々と横たわっている。石じゃなく、土でもない、が。


 道の脇には近所の花壇クラブの人達が植えたパンジーが可愛らしく咲いていて、この道を通るのが通学の楽しみなのに。パンジーとは反対の脇にはゴミ箱だってあるのに。


「どこかのワンちゃんのうんちかな? もー、飼い主さんしっかりしてよね!」


 ゴミ箱には注意書きのプレートがちゃんとはってあるじゃない! 犬のフンは飼い主が必ず持ち帰りましょうって。


 まったくもう。小さく呟いてカバンからティッシュを出した。

 私、こういうの見逃せないのよね。


 多めに出したティッシュで落ちてる茶色いアレを拾い上げた、その時。


「キミ……キミこそが僕の求めていた女性だ!!」


「えっ、なに?」


 どこからか、声が聞こえる。結構大きい声なのに、あたりを見回しても誰もいない。


「ここだよ。キミの目の前」


 正面に向き直っても、誰もいない。


「なに?なんなの?」


「ここさ! キミの手の中さ!」


 私の手の中の茶色いアレが、夕陽に照らされてキラリと輝いた。


「いやあぁぁっっ!!」


 こぉわっ!! ビックリして手に持ったアレを落っことしちゃった。

 落ちた拍子にティッシュがアレから剥がれてはらはらと横に落ちる。

 ゴミになっちゃうから、ティッシュだけ急いで拾っといた。


「ははっ。びっくりしたかい?」


 また喋った。ベタすぎてどうしようかと思ったけど、私は自分で自分のほっぺたを思いっきりつねった。マジで痛い。夢じゃないんだ。


 茶色いアレは、ころっと身を揺すってさらに話を続けた。


「失礼。いきなり話しかけてしまってごめんよ。僕はアレク。チェルジア大陸、マーレスト王国の王子です。

 僕の国のしきたりで、異世界に転移して心に決めた伴侶を見つけることになっていてね。僕はこの地球という世界で伴侶を探していたんだ。

 でも、僕は運がいい。異世界に転移した初日に目的は果たされた! そう、キミに出会ったからね!

 桜さん……キミが僕の運命の人だ!!」


「マジキモいんですけど」


 どうしようどうしよう。なにこれプロポーズ?

 人生17年で初めてうんこからプロポーズされた。やだうんこって言っちゃった。んじゃもういいか、うんこでいいか。

 うんこのプロポーズなんて、もう一生経験できないよね。つーか私が初めてじゃない? うんこからプロポーズされた人って。

 いや! こんなこと普通経験しないし、しなくていいでしょうが、桜のバカ!


「なに言ってるんだい。これは僕の仮の姿さ。異世界に来るには、この世界の物の形を借りるしかない。

 たくさんの人がこの道を通ったけど、誰も僕に見向きもしなかった。転移したものが小さかったのかもしれないね。でもキミは違う。こんなに小さな僕を見つけ、そして拾い上げてくれた……! 僕たち運命だよ!! 出逢うべくして、僕とキミは出逢ったんだ!!」


「私、うんこ拾っただけだし!」


 あああ、王子様? うんこ? が勝手に盛り上がっちゃってるよ。


「すまない。僕は異世界の人間だから"うんこ"とは何かよくわからない。

 だが、キミが僕を見つけてくれた事実に変わりはない。

 僕を拾う時、真っ白な柔らかい物で僕を包んでくれたキミの優しさ、感動したよ」


「素手でうんこつかめないし!!」


 やばいこのうんこ? 王子? どっちにしてもうんこに転移する王子って何? バカなの? やばいよやばいよ!


「プリンセス。一生大切にするよ。さぁ、僕の側においで。僕がキミを王国までエスコートするから。

 誓いの口づけを……」


「いやあぁぁぁぁ! うんこが何すんのよ!!!」


 私の頭はもう真っ白。

 こっちに向かって動き出した茶色いうんこをティッシュで掴み、甲子園のピッチャーよろしく思いっきり振りかぶってゴミ箱にぶん投げた。


「いやあぁぁぁぁ!!!!」


 レンガの小道を走りながら、私は誓ったの。


 もう絶っっっっ対うんこは拾わないんだから!!!





 その後、アレクの国では異世界移動時に転移する物体についての緊急会議が開かれた。




 ※飼い犬のうんちは拾ってお家に持ち帰ろうね!

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