第30話 騎士も一緒

「え、どうしたの、なんかあった?」

眉をひそめるヒカリに、オーレルが告げた内容は。

「その村の近辺で、最近不審な人物が見られるという情報が入った。俺たちはそれを調べに行くところだ」

なんと、ミレーヌの故郷に不審者が現れたという。

 こんな話をミレーヌが聞けば、心労で倒れるかもしれない。

 ――苦労している娘さんたちに追い打ちをかけるなんて、けしからん!


「なら、なおさら早く行ってあげなきゃ!」

やる気を出すヒカリに、オーレルが「そうじゃない」と頭を横に振る。

「行くのを止めろと言ってるんだ」

オーレルは騎士として忠告しているのだろうが、ヒカリだってここで引けない。

 あそこには、ヒカリの薬を待っている人がいるかもしれないのだから。


「私は薬屋よ、だから今薬が必要な人に薬を届けに行くの!」

ヒカリはビシッと杖を突きつけて宣言する。

 それをオーレルはしばし見つめ、大きく息を吐いてから額を指で弾いてきた。

「あ痛っ! なにするんの!」

突然の理不尽な仕打ちに文句を言うと、オーレルがヒカリの背負っていた大きな荷物をひょいと抱えた。


「行くならついでだ、俺の後ろに乗れ」

そう言って並んで待つ顎で馬を示す。

 ヒカリは軽くなった背中とオーレルを見比べ、瞬きする。

「……乗って行っていいの?」

戸惑うヒカリに、「フン」とオーレルが鼻を鳴らす。

「知らない間にトラブルを起こされても嫌だからな。というかお前、荷物が異様に重くないか?」

「ミレーヌさんたちの愛が詰まっているからね!」

持ち上げた荷物の重さを不思議がるオーレルに、ヒカリは胸を張って言ってやった。


 ――やった、馬で行ける!

 歩き旅を回避できて、喜び勇んで馬たちに駆け寄るヒカリに、他の騎士たちが困惑の視線を向けてくる。

「あの店主も行くのか」

「薬を持っていくんだと」

ヒカリを知っている騎士は、オーレルとのやり取りでおおよその見当をつけたらしい。

 だが好意的でない騎士もいるわけで。

「なんだ、あのチビ」

「副隊長、女連れかよ」

「ピクニック気分とか、いい気なもんだ」

離れた場所に固まっている三人組が、オーレルにケチをつけるのが聞こえてくる。


「なにあれ」

堂々と上司の文句を言う様子にヒカリが顔をしかめていると、オーレルが足早にやって来た。

「あいつらは特別に加わる第一隊の騎士で、昔から若い俺が副隊長なのが気に食わない奴らだ。相手にするな」

オーレルが小声でヒカリに囁く。

 ――騎士も色々あるのね。

 人が集まればいい人も悪い人も出て来るのは、どこの世界でも同じらしい。

「それよりも早く乗れ」

オーレルが自分の馬を引っ張ってくると、ヒカリの荷物を載せる。

 だがこの馬に乗るという作業が、何度やっても上手くできない。

 いつまで経っても馬に乗れないヒカリを、オーレルが押し上げた。

 その際にお尻を鷲掴みにされたのだが、果たしてこれは介助かセクハラか。


 なんだかんだあったが、とにかく出発だ。

 薬草探しの時に通ったのと同じように、馬上で朝食を食べながら道を進む。

 相変わらず枯れた薬草の群生地を越えると、小さな村が見えてきた。

 あれがミレーヌの故郷らしい。

 ――なんか、村が茶色い……。

 木々も畑の作物も枯れていて、なんとも生気の感じられない村である。

「これは……」

村の様子にオーレルは言葉を失い、他の騎士たちも村の光景に絶句している。

 こんな場所で、果たして人が生きていけるのだろうか?

 そんな不安を抱えて重苦しい雰囲気を纏いつつ、一行は村に到着した。

 だが見える範囲に村人の姿はない。


「……誰もいないね」

ヒカリが耳を澄ませても、人の声すらせずにシーンとしている。

 騎士たちは村の入り口のあたりに馬を繋ぎ、話し合いを始める。

 これから村人への聞き込みと周辺の調査をするらしい。

「お前はこれからどうする?」

馬からよじ降りるヒカリに、オーレルが尋ねる。

「あ、私はすぐにミレーヌさんの家に行く」

というわけで、ヒカリはミレーヌに書いてもらった地図を見ながら村を歩く。

 ――ここかな?

 たどり着いたのは、広い畑を持つ一軒家だった。

「こんにちはー、ミレーヌさんの知り合いですけど」

玄関をノックするが、しばらく待っても応答がない。

 留守なのかと思ったが念のため、畑の方に回って家の中を覗いて見る。

 すると、庭で倒れている男性がいた。

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