第27話 乙女の悩みとジャンクフード
近頃サリアの街もだんだんと温かくなり、外出するのにローブを着なくても済む。
だがそうなると、ローブの下に着ていた服を気にしなければいけないわけで。
「服、買わなくちゃだよね……」
ヒカリはタンスの中身を見ながら唸った。
師匠の家で暮らしていた時は、同じデザインの服ばかりでも気にならなかったが、色々な人が行き交う街では駄目だろう。
これでもヒカリはお年頃なのだ。
というわけで、ヒカリは服を買いに古着屋へ出かけることにした。
やってきた店内には数人客がおり、ヒカリもそれにまじって服を選び始める。
――思えば、学校の制服って便利だったなぁ。
毎朝服を選ぶという作業から解放されるというのは、素晴らしいことだ。
その作業はファッション好きな人にとっては至福の時間かもしれないが、他人との兼ね合いを気にしながら服を選ぶのは苦痛だ。
特に小学生くらいからの女子は、他人の服装が気になりだす年頃である。
クラスメイトから馬鹿にされないために、子供服ブランドのアウトレット店で親に一二着買ってもらい、体育などで着替えがある時にそれを着て行ったものだ。
そんな小学校時代を思い出しながら、古着屋で服を選んでしいると。
「……?」
ヒカリはふと視線を感じた。
気になって振り返ってみても、店内で同じように服を選ぶ客がいるだけ。
――なんだろう?
ヒカリは視線のことを気にかけながら、数着の服を選んでさっさと古着屋を出る。
ヒカリが去った後の店内では。
「ちょっと……」
「あれが噂の……」
店内にいた客、特に女性たちがひそひそと話をしていた。
古着を買ったヒカリが店に帰って来ると、隣の家の子供たちが露店の準備をしていた。
最近はこのあたりにも人通りが出て来たので、ささやかながら露店商売が成り立つようになったのだ。
売っているのはゴミ置き場で拾った小物を綺麗に修理したものと、あげ芋、つまりはフライドポテトである。
これは先日、彼らに山芋料理を振舞ったことがきっかけだった。
作りたての山芋料理は、どれも子供たちに好評だった。
特に人気があったのは、山芋フライドポテトである。
「おいしいねー!」
「俺、これ好き!」
揚げたてをハフハフ言いながら食べる子供たちを余所に、ジェスが難しい顔をしていた。
「ジェス、どうしたの?」
山芋が口に合わなかったのかと心配するヒカリに、「違う」とジェスは首を横に振る。
「これ、普通の芋でもできないのか?」
「そりゃ、出来るけど」
ジェスの疑問に、ヒカリは「そんなことか」という調子で答えた。
むしろ普通の芋で上げる方がスタンダードだろう。
「普通の芋だと、これと食感が少し変わるけどね」
ヒカリの話を聞いて、ジェスが目をきらめかせる。
「作り方が芋を切って油で揚げるだけで簡単だし、売れないかなと思って」
どうやらジェスは、売り物になるかを考えていたようだ。
ジェスの目の付け所はなかなかいい。
というのも、このあたりでは油がそれほど高価なものではないからだ。
植物油を採れる実が街の外に生っていて簡単に手に入るので、それらを各家庭で採ってきて絞って使う。
しかし油が手に入りやすい割に、この街では揚げ物料理を見ない。
料理と言えば味付けの濃い煮込み料理ばかりで、オーレルに山芋フライドポテトを食べさせた時も、油で揚げたと説明したら非常に驚いていた。
冬は雪深く夏もさほど暑くならない気候のせいかもしれないが、ジャンクフード文化で育ったヒカリには物足りない味である。
だがそれゆえに、揚げ物料理は真新しいだろう。
――日本でフライドポテトは、テイクアウトの定番だしね。
芋も比較的安価だし、調理法も簡単。
火の始末にさえ気を付ければ、子供だけでできない商売ではない。
「いいんじゃない?」
あっさり頷くヒカリに、ジェスが驚く。
「……ヒカリが考えた料理なのに、いいのか?」
ジェスはそこを気にするが、厳密に言えばフライドポテトはヒカリが考えた料理じゃないので、さほど惜しくはない。
「それに」とヒカリは胸を張って言った。
「私は誰かが作ったものをすぐに食べれる方が、ずっと嬉しい!」
ジェスを応援すると、ヒカリにもいいことがあるのだ。
というわけで始めたジェスたちの商売だが。
露店と言っても屋台があるわけではなく、板の上に商品を乗せて売り歩く簡素なものだ。
けれど作った分は売り切っていて、ここの場所とは別に大通りの方でもジェスと数人で売っており、客には結構人気らしい。
――ジャンクフードって病みつきになるものね。
フライドポテトが食べれるようになると、次に食べたくなるのはハンバーガーだ。
いつかジェスに吹き込んでみれば、案外商売にしてくれるかもしれない。
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