第15話 犯人は誰だ!
前回の去り際のやり取りが脳裏に浮かび、思わずしかめ面になる。
そうしている間にオーレルが店の前までやって来て、しげしげと建物を眺める。
「……以前来た時と、店の外装が違うな」
「あ、わかる? ちょっとずつ手入れしているからね!」
ヒカリは今でもDIY素材をゴミ捨て場へ拾いに行くが、それ以外にもミレーヌの好意でペンキや布を融通してもらい、地道に改装を続けていた。
コンセプトは、ちょっとお洒落なカフェ風だ。
店の変化に気付いてもらえて、ヒカリの気分がほんの少し上昇する。
「で、なに? 薬を買いに来たの?」
客ならば持て成そうと思っていたら、オーレルが真面目な顔をした。
「薬も買うが、ちょっと聞きたいことがあってな」
「……またエロの話じゃないでしょうね?」
開店当初のトラウマがぶり返したものの、とりあえず掃除はここまでとし、オーレルを店に入れる。
先に買い物を済ませたいとのことで、疲労回復薬を注文された。
「前のとちょっと種類が違うけど、これでいい?」
一応確認として試飲してもらい、前回と同じサイズの大瓶四つを購入となった。
――前に買った二瓶、もうなくなったのかな。
今は瓶の大きさを色々用意しているが、前回売った大瓶は手のひら程度の大きさで、容量はそれなりにあった。
あれをもう全部飲んでしまったのだろうか。
それとも誰かに分け与えたのか。
「ねえ、それ一人で飲むの?」
脳裏に栄養ドリンク片手に仕事をするサラリーマンの姿が浮かんでしまい、思わず尋ねるヒカリに対して、オーレルがふいっと目をそらす。
「……最近忙しくてな」
どうやら飲み過ぎた意識はあるらしい。
騎士というからには、剣を振り回したりなにかと戦ったりと、体力勝負の仕事なのだろう。
運動がからっきしダメなヒカリには想像がつかない職場だ。
「へー、騎士って仕事は大変だねぇ」
ヒカリが本気で感心していると、オーレルがジロリと睨んできた。
「他人事のように言うな、忙しいのはお前のせいでもあるんだからな」
「へっ?」
話を振られてきょとんとするヒカリに、オーレルが渋い顔をする。
――私のせい、なんで?
もしや苦情を言いに来たのだろうかと身構えるが、とりあえず話を聞こうと、オーレルにカウンターのイスを進めた。
買い物をしてくれた客なので、お茶もサービスする。
「で、なにが私のせいなのよ?」
改めて質問するヒカリに、オーレルは大きく息を吐いて話した。
「……最近、この店に薬が売ってあることが、問題になっている」
オーレル曰く、薬屋が砦に押しかけて「どうしてあそこには薬があるのだ」と騒いでいるらしい。
「あー、もー……」
――あの客、本当に砦に文句を言いに行ったのか。
脱力するヒカリを見て、オーレルが続ける。
「加えて、この店の薬は自分の店から盗まれたんだと主張していてな」
「なにそれ、そんなわけないじゃん!」
言いがかりも甚だしい薬屋に、ヒカリはカウンターをバンバン叩く。
「もしかしなくても、今までの店への強盗未遂はそれが理由!?」
ヒカリの薬を自分の店の商品だと言い訳するために、盗もうとしていたとしたら。
――あいつ、許せん!
怒りに燃えるヒカリだったが、強盗と聞いてオーレルの視線が鋭くなる。
「強盗だと? いつの話だ」
「ここ最近のことよ」
「一度だけか?」
「いや、何度も来てるわね」
「目撃者はいるのか?」
立て続けに尋ねるオーレルに、ヒカリは「まるでドラマで見た聞き込みの刑事みたい」と呑気な感想を抱きつつ、事件のあらましを語った。
「隣の家の子供たちが見てたんだけど、いつも私がいない間に現れるのよね。一応防犯しているから強盗被害はゼロだけど、強盗に失敗した腹いせにゴミを散らかしていくの。掃除が大変で超迷惑!」
ついでに強盗事件が起こる前に来た客のことも話す。
これを聞いてオーレルは店の外と中を、改めて見て回る。
「確かに、店が荒らされたようには見えないか」
そして被害が出ていないことを確かめると、再びイスに座った。
「このあたりで騒ぎが起きなくなったって、せっかく隣の子供たちが喜んでいたのに、嫌になるわもう!」
DIYラッシュで家々が綺麗になると、後ろ暗い連中が寄り付かなくなった。
日本でも壊れた壁や落書きを綺麗にすると治安が良くなるという話があったので、ボロ家のDIYも功を奏したのかもしれない。
そんな矢先の強盗騒ぎで、平和な空気に水を差された気分だ。
「なるほど、だが恐らくお前の予想通り、犯人は薬屋だろうな。普通の強盗犯なら、いくらこの地区内でのこととはいえ、一度失敗した場所に何度も入ろうとしない」
そんなことをすれば顔がバレてしまい、捕まりやすくなる。
逆に言えば、そうまでして強盗するということで。
――盗んででも薬を仕入れたいってこと?
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