第16話 薬がない?

「薬なら作ればいいじゃない、なんで薬屋は作らないのよ?」

ヒカリも薬屋に薬がないのは確認している。

 だがそれで八つ当たりされても困る。

 むくれるヒカリに対して、オーレルは顔をしかめた。

「作らないんじゃなくて、作れないんだ。薬の材料の薬草が、全て枯れてしまったせいでな」

「……はぁ?」

この話に、ヒカリは目を丸くする。枯れただなんて、そんなはずはない。

 ――薬草、ちゃんとあったよね?

 ヒカリがこの街まで来るまで、薬草が枯れている様子はなかった。

 もしかすると山と反対方向にある薬草が枯れているのだろうか。

 そもそもヒカリは、このあたりの地理を知らない。


 首を捻って考えるヒカリに、オーレルが尋ねた。

「お前はどこから薬草を仕入れている?」

「え、歩きながら適当に採っただけよ」

別に隠すことではないので、素直に答える。

「さては偶然残っていた薬草か、どこで採ったんだ?」

「この街に来るまでに、道々摘んできたけど。だいたい、なんで枯れたのよ?」

オーレルの追及に、ヒカリも疑問を返す。


 薬草とは、他の草と違い魔力を糧に育つために、特別な効能が現れた草だ。

 成長に必要なのは魔力で、水の多少は関係ない。

 水が潤沢にある土地と乾いた土地とでは、環境に相応な薬草に育つのだと、師匠が言っていた。

 つまり、水不足で枯れることはない。

 それなのに薬草が枯れたとは。

「畑で栽培していて失敗したとか?」

「いや、普通に生えている薬草で、環境を整えたりはしているそうだが、基本自然任せだと聞く。枯れた原因を調べているが、不明のままだ」

ヒカリの疑問に、オーレルが答える。

 薬草が自然のものなら、そこの魔力が濃いから群生していたはず。

 それが枯れるとはどういうことか。


 ――うーん、わかんないなぁ。

 原因不明の薬草不足のせいで薬が作れず、急にできた店に薬が売ってあるとなったら、騒ぎ立てたくなるかもしれない。

 薬屋にほんの少し同情したヒカリに、オーレルが続ける。

「薬草が枯れているのも、薬屋はお前が自分の店の薬を売るために、わざと枯らしたんだろうと言っている」

「バッカじゃないの!」

ヒカリの同情心が速攻で消えた。

 だが怒ってばかりいても、事態は改善しない。

 いつから今の状態なのか知らないが、薬が作れなくては当然収入もなく、生活もままならないだろう。

 もし薬草があるなら、危ない橋を渡ってまで強盗をしなくなるのか。


 どうしたものかと考えるヒカリに、オーレルが真剣な目を向けた。

「このまま薬不足が続くと拙いこのになる、枯れた薬草についていい手立てを知っているなら教えてほしい」

この申し出に、ヒカリは「うーん」と考える。

「情報料なら、ちゃんと払うぞ」

「いや、そうじゃなくて」

オーレルに渋っているのはお金のせいだと思われたようだが、そうではない。

 一つ問題があるのだ。

「私、この辺で普段使われている薬草というか、薬を見たことない」

見たことがないので、どの種類の薬草なのかわからない。

 ヒカリの驚き発言に、オーレルが不思議そうというより、疑わしい目でこちらを見る。


「自分が作る以外の薬を、見たことないのか?」

「全く、見たことない」

正直に言うと、オーレルがため息をついて呟く。

「これだけ質の良い薬を作るのなら、他の薬に興味がなくなるか」

だが、ヒカリは即座に反論した。

「私だってさ、店を開ける前に薬屋に見に行ったよ? けど薬がなかったんだから仕方ないじゃんか」

自分が他に知っているのは、師匠の作る薬のみ。

 これは街に来てから勉強しなかったのではなく、調べようにも薬がなかったからだ。


 薬の値段設定の参考にしようと薬屋に偵察に行ったが、そこは商品が欠品中で空っぽの棚があるだけ。

 棚の値札がどの程度の量に対するものなのかわからず、現在店の薬の値段が高いのか安いのか判断に迷う。

 ヒカリの意見に、しかしオーレルはまだ納得しない。

「この街以外の薬屋も、同じ薬草を使っているはずだが。田舎とは使う薬草が違うのか?」

「私、住んでいた場所以外はこの街しか知らないもん」

知ったかぶりをしてもバレるので正直に言うと、「どこの田舎者だ」とオーレルに呆れられた。

 だが知らなければ話が進まない。

 砦に保管している薬があるらしく、「見本として明日持って来る」と言って、オーレルはこの日は帰った。

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