第二章 ここは薬屋ですから!

第10話 お店開店! なのだけど……

ヒカリはあれから更に数日かけて、地道に机や椅子にカウンターといった家具類を拾っては修理してを繰り返し、内装を整えた。

 カーテンなどの布類も、商家での模様替えで捨てられたものを拾った。

 拾い物でなんでも揃うもので、世の中は案外上手く回っているのだなと感心しする。


 だが唯一、布団だけは手に入らない。

 布団は高級品なので、捨てるのではなく店に引き取ってもらってリサイクルするのだそうだ。

 なのでヒカリは今でも毛皮のローブに包まって寝ている。

 ――いつかお金を貯めて、布団を買う!


 外装と内装が一通り済めば、残るは看板だ。

 少し厚めの板と残り物のペンキをこれまた拾ってきたヒカリは、看板を自作した。


『魔女の店』

角を丸く整えた板の上に、赤いペンキでこう書いた。

 ひよっことは言え魔女が経営する店の名前は、直球だがこれしかないだろう。

 字がヨレているのは見逃してもらいたい。

 玄関の上に看板を付ければ、いよいよヒカリの店が完成だ。


「よし、これでお店の完成だ!」

バンザイをするヒカリの周囲で、ボロ家改造を見守ってきた子供たちが拍手をしてくれた。

 だがまだ問題はある。

 言ってはなんだがここは街で一番寂れている地区で、そんなところに客が来るのか?

 隣の家の子供たちが、街のあちらこちらでこの店の事を噂してくれると言っていたが、どうなることか。


 そしていよいよ、開店の日を迎える。

 今まで夢中で改造していて考えなかったが、ヒカリにとってこれが初めての社会人経験。

 期待半分不安半分で店番をしていたのだが。

 ――そう上手くはいかないか。

 予想通りというか、初日の来客はゼロ。

 がっくりと落ち込んで迎えた、開店二日目。なんと玄関のドアが開いた。


「いらっしゃいませ!」

初来客に意気込んだヒカリは、声を張り上げた。

 顔をのぞかせたのは商人風の男で、ヒカリの勢いに一瞬ぎょっとした顔をする。

 そして不思議そうな顔をして店内を見渡した後、ニヤリとした笑みを浮かべる。

「こんな場所で店と聞いて来てみたが、なるほど、こういう趣向の店なのか」

どんな趣向でなにがなるほどなのか。

 ヒカリには謎の納得の仕方だが、初めての客には違いない。


「お客様、なにをお求めですか?」

笑顔で接客するヒカリの手を、男がカウンター越しに急に掴んできた。

 ――うひゃっ、なに!

 ヒカリは男の生暖かい手を振りほどきそうになるが、相手は客だと言い聞かせて思い留まる。

「ど、どうしましたか?」

それでも妙な汗が止まらないヒカリを見て、男が何故か鼻息を荒くしてくる。

「それは、うんとサービスしてくれる方がいい」

「さ、サービス、ですか?」

男の言葉を、値引きしろと言っているのかと考えていると。

「キミが薬プレイでイイコトをしてくれると、そういうことだろう?」

なんと、男の口から予想外の発言が飛び出した。


「え? え? え?」

ヒカリは数秒固まった後、顔を真っ赤に染めた。

 ヒカリは異世界に迷い込む前は中学生。

 エッチな事にもそれなりに興味が向いてくる年頃で、友達がお姉さんから借りてきたというその手の本を、コッソリと回し読んだ経験もある。

 なので、男の言わんとする内容を想像することができた。

 ――なんでここがエロの店だと思われてるの!?

 要は、この店が特殊プレイをする場所だろうと言われたのだ。


「違いますからーー!!」

声が枯れんばかりに叫んだヒカリは、全力で男を追い出した。

「なんなの、なんなのアレは!?」

記念すべき開店一人目の客がアレだなんて、あんまりだ。

 そう嘆いていたヒカリだったが、勘違いな客はその一人だけではなかった。


 その後の来客で、ヒカリがエロい接待をしてくれる店だと思った客数名、カップルでエロいことをする部屋を借りようとした客数組、エロ関連の薬を売っている店だと思った客数名。

 要するにみんな「そういう店」だと思って来店するのだ。

「なんでだーー!?」

何度目かの客追い出し作業の後、店の中に戻ったヒカリはついに絶叫した。

「私のお店のどこにエロ要素があるっていうの、エロい装飾品も家具もないよ? 場所か、場所が悪いのか? それとも私自身がエロいの? エロのフェロモンでも出てる? そんな馬鹿な、幼稚園児でも恋人のいる時代に、年齢イコール彼氏いない歴のこの私が!!」

錯乱して色々叫びまくっていたその時、玄関が開いた。

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