第9話 ボロ家改造は進行中

ボロ家改造のためにDIYに精を出し初めて、一週間後。

「これで、屋根よーし!」

ヒカリは登っていた屋根の上から、自らの仕事を満足げに眺める。


 あの強風が吹けば屋根が飛びそうだった家は、外壁を張り替えて隙間風をなくし、雨漏りし放題だった屋根を張り替えた。これだけで、ボロ家は生まれ変わったように見える。


「すっげぇな、これ」

隣の家に住む少年――ジェスが目を丸くして見上げている。

「ふふん、私にかかればこんなもんよ!」

感心されて上機嫌のヒカリは、屋根の上で得意気になる。残るは床の張替えと、玄関のドアの建て付け改善。それが終われば、いよいよ内装だ。


 DIYに関してはこの通り順調なヒカリだが、未だ慣れない作業もある。

 それは、井戸からの水汲みだ。

「う、おも、たいっ!」

ヒカリは井戸に伸びるロープを頑張って引く。ロープを持つ手が痛くなるが、ここで力を緩めてしまっては台無しとなる。

 とてつもない重労働で、水がこんなに思いものだなんて今まで知らなかった。ジェスら子供たちも大変そうに汲むが、ヒカリほどヒーヒー言っていないので、自分には絶対的に筋力が足りないらしい。


 魔法で水を出してしまえば楽なのだが、家の中ならともかく、外での作業でそれをするわけにいかない。なのでこの作業に慣れるしかなかった。

 都会では上下水道が整備され、井戸を使う生活をしていないそうだが、この街はまだ発達していないらしい。

 ――早く来い、水道管!


 そしてもう一つの難敵が、火打石だ。

 ジェスに見本を見せてもらったところ、簡単に打ち付けて火花を飛ばしていたのに、ヒカリがやると軽い音がするだけで無反応。これは火打石に嫌われているとしか思えない。

「ヒカリ、器用なのに不器用だな」

ついにはジェスに呆れられる始末。もう火は無駄な努力をせず、家の中で魔法を使うことに決めた。


 そんなこんなで街での生活に徐々に慣れていると、さらに一週間が経った。

 床の張替えとドアの建て付けをやり終え、ちゃんと家と呼べるものになった。

 しかもドアに簡素な造りだが鍵までつけた。

 防犯として役に立つかは怪しいが、こっそり魔法を使って侵入者を防ぐにあたってのカモフラージュである。


 ボロ家改造の間に、ついでに隣の子供たちの家の補修もちょくちょく手伝ったので、そちらの家も見違える外観になっていた。

 雨漏りと隙間風に悩まされなくなり、子供たちに喜ばれ、とても懐かれた。

 ――子供の家は、少しでも安全な方がいいもんね!

 ジェスが言うには、この地区は「捨てられた場所」らしい。なんでも数年前に隣国から工作員が入り込み、広範囲に破壊されたそうだ。そのまま隣国との戦いにもつれ込んだので、重大な被害が出たこの地区の復興が滞った。


 現在は隣国の王位交代の余波で停戦状態らしいが、資金不足が理由でこの地区は未だ手入れされず、荒れているままなのだという。

 そしてそこには戦いで親を亡くした子供や、怪我をして働けなくなった者、不法入国者などが勝手に入り込み、住み着いている。

 ――いわゆるスラムってことね。


 この地区は砦から退去命令が出ている。それなのに住み続ける住民は、タダで住んでいる代わりに守ってもらえないというわけだ。ヒカリとしてはタダで家に住まえて有り難いが、今に至るまでの状況を聞くと、素直に喜べない。


 つまり子供たちも、自分の身は自分で守らねばならないのだ。家の隙間を塞げば、不届き者も侵入し辛くなるだろう。それにヒカリはおせっかいだと思ったが、子供たちの家にこっそりと守りの魔法をかけていた。子供の成長には睡眠が大事なのだから、夜は安全にゆっくりと眠ってほしい。


 懐かれた子供たちにゴミ拾いのお勧め時間帯を教えてもらった結果、立派な棚をゲットできた。

 家に運び込んだ棚に手持ちの薬の瓶を並べてみれば、ちゃんとした店に見えてきた。

「うん、いいじゃないの!」

ヒカリは満足気に頷く。残るはベッドを作り、布団を手に入れれば言うことはない。


 ヒカリがニマニマしていると、ジェスが開いていた玄関から中を覗いていた。

「なんだか、店屋みたいだな」

ジェスがそう感想を述べると、我が意を得たりとばかりにヒカリは胸を張る。

「その通り、お店をやるからね!」

「はあ!? こんな場所でか!?」

驚くジェスに、ヒカリは頷く。

「そうよ、だってお金が無くてこんな場所にしか住めないからね!」

自慢にならないことを自慢気に言うヒカリに、ジェスが憐みの視線を向けた。


 ちなみに二軒の家が見違えて綺麗になると、他の家も手入れをしたくなったようで。現在このあたりはリフォームラッシュだった。響き渡るノコギリやハンマーの音を不審に思った男が見にきた。

「……このあたりだけ小奇麗になったな」

彼はしばらく家々を観察していたが、害はないと判断したのか、それ以上なにも言わずに帰って行った。

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