第三話 『紅く染まる空』

 「はぁっ、はぁっ、はぁっ、はぁっ……こ、ここまでくれば……」


 どれくらいの時間が経っただろうか。

 俺たちは先の不審者から逃げに逃げまくり、家の近所の公園まで逃げてきたところだ。


 「な、なんだったのあの人……ぜぇっ……」

 「わ、かんねぇ……でも多分エ◯バとかそのへんのだろ……ぜはぁっ……」

 「か、かもね……ぜぇっ……」


 俺も明も息絶え絶えと言った感じで、肩で息をしながら公園のベンチに座り込む。

 

 「はぁ〜〜っ……た、すかったぁ……」

 「ほんと……ありがとう引っ張ってくれて……助かったわ……」

 「何のこれしき……うぇ、吐きそう……」


 あまりにも思いっきり走り過ぎたせいで、胃から酸が込み上げて来そうだ。


 「と、りあえず……落ち着いたら家帰るか……」

 「そうね……ちょっとトイレ……」

 「おー……いってらー……」


 明はベンチから立ち上がり、公園のトイレへ向かって歩いて行った。

 それを見届けながら、俺はふぅ〜〜っ……と溜息をつく。寒さからか、口からは白い息が広がった。


 「なんだったんだほんとに……めっちゃ怖かった……」


 あの少女に対して感じた、ときめきのトクントクンは、今では恐怖のドクンドクンへと変貌を遂げていた。

 このうるさいほどの鼓動は絶対恋ではないだろう。多分不整脈とかその類だ。


 「疲れたぁ……家帰ってさっさと風呂入って寝たい……」


 そう言って俺は空を見上げる……すると--。


 「……雪?」


 空からしんしんと、白く冷たい粒が降り注ぐ。どうやら、雪が降って来たらしい。


 「……そういえば、もうすぐクリスマスだっけか……」


 現在、12月12日。クリスマスまで、残り2週間を切っている。

 クリスマスは、俺にとって特別な日となっている。何故なら--。


 「……明の誕生日、近づいてんなぁ……」


 その日は、幼馴染である明の誕生日なのだ。

 毎年この時期はなけなしのお小遣いでプレゼントを買っていたのだが、俺は今年から高校生。そう、バイトが解禁されたのだ。

 そのため俺はコツコツと、クリスマスのためにバイト代を貯めてきた。明には、普段からご飯だとか色々世話になっているのだ。せめてその日くらい明の望むものを用意しなくては。


 「……とは言ったものの、何を買うかだよなぁ……」


 実のところ、まだ何を買うかは決まっていない。今までは何をあげても喜んでくれていたが、今年は心の底から喜びそうなものをあげたい。

 しかし、明の欲しいものというのがどうも分からない。ストレートに聞くのもサプライズ感に欠ける。

 俺は両手をポケットに突っ込みながら、考えを堂々巡らせる。


 「……ん?なんかポケットに……」


 ふと、懐に違和感を感じまさぐってみると、ポケットの中から先程校庭で見つけた黄金の宝石が出てきた。


 「そうだ、これのことすっかり忘れてたなぁ……交番にでも届けるか? 」


 宝石を手に取り、それを指で摘んで空にかざして眺めていた、その瞬間--






 空が、紅く染まった。








※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※



 『何ィ!?無くしたァ!? 』

 「はい、そうなんです……」

 『そうなんですもソーナ◯スもあるか! 早く探せ! 』

 「今探してますよ〜〜! 」


 場面は切り替わり、煇の通う高校--公立北斗高校の校庭。

 涼は煇に渡すはずだった、あるもの・・・・を無くしてしまい、必死に探している最中であった。


 『大事な《Tipherethティファレト》を無くすなんて何考えてるんだ! ちゃんと保管しておけ!! 』

 「おかしいですねぇ……確かにこの木の上でお手玉にして遊んでた時は持ってたんですけど……」

 『お手玉にして遊んでただとォォ!? 』

 「あっ、ごめんなさい!! 出来心だったんです!! 」


 セファーの怒鳴り声に耳を塞ぎながら、涼は心当たりのある校庭の大木の下を探し回る。


 --その時、


 『大体お前はいつもだな……………』

 「……セファーさん? どうかしま……」

 『説教はあとだ、やつら・・・が来るぞ』

 「ッ……! まさか、ここに……!? 」


 嫌な予感に、涼は身を僅かに震わせる。


 『お前がその町にたまたまいたのは幸いか……現れ次第、即時掃討に移ってくれ』

 「はい、了解しました……! 出現予測時刻は!? 」

 『19時53分、約20秒後だ、頼んだぞ! 』

 「はい! 」


 そう言って涼は、雲に覆われた空を見上げる。


 「ここにもとうとう現れますか……忌むべき災厄、《デブリ》ッ……! 」


 数秒後、空を紅く染める災厄を思い浮かべ、涼は忌々しげに、ギリッと歯を噛みしめた。

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