幕間 敗北


 桜華の候 三十四日目 ベルネ丘陵地帯、帝国軍前衛部隊、中央上空



 私は、負けた──


 身体が地上へと、真っ直ぐにちていく。流星船ステラボードという足場を失った私にはもう、空中で戦う手段はない。無防備に、ただひたすらに墜ちていく。


 私が、負けた──


 ギルバース帝国軍皇帝直轄精鋭部隊『七剣刃セブンス・ソード』。

 あらゆる敵を切り裂く七人の精鋭皇帝の刃。その序列七位である私が、戦争も知らないような国の兵士、しかも女に負けるなどあってはならない事だ。


 私の、負け──


 墜ちていく中、遥か上空で飛翔している敵に視線を向ける。徐々に小さくなっていくその敵影は別の場所へと移動していく。


(くそ──)


 油断はしていなかった。勝つために戦った、そして負けた。その事実が私の顔を歪めていく。


(くそ──っ?!)


 このまま地上まで墜ちていくと思っていたが、横から何かに抱きかかえられる。


「無事ですね?──」


 間近から女の声が聞こえる。幼さの残る顔、風になびく金髪、人形のように整った容姿を持った西方方面軍総司令官、ルナリス・ボナパルトがそこに居た。彼女は私をチラリと見ると、すぐに進行方向へと視線を戻した。



 ✱✱✱


「負けた──」


 会話もないままただひたすらに東へと飛んでいく中、唐突にこの言葉が私の口から飛び出してきた。


「……」


 彼女は何も答えなかった。


 ルナリス・ボナパルト准将。戦闘能力、作戦指揮能力、共に高い能力を持った七剣刃セブンス・ソードの序列二位。戦闘に出れば全戦全勝。無敗の女王、千人斬りサウザンド。数々の異名を持つ軍のエース。私の憧れ。


 そんな彼女の顔に、私は泥をぬった。そんな私にかける言葉などありはしないのだろう。


「ナスターシャ──」


 しばらくの沈黙の後、彼女は私の名を読んだ。視線は前を向いたままゆっくりと口を開き始めた。


「生きている限り、私達に負けはありません。勝者というのは、最後まで生き残った者のことを言うのです。それと、ナスターシャ──」


 彼女は淡々と表情を変えることなく口にするその言葉には、どこか寂しさを感じた。そして、彼女はさらに付け加える。


「今回の任務は西方戦線のですが……この戦争、にいきます──」


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