幕間 敗北
桜華の候 三十四日目 ベルネ丘陵地帯、帝国軍前衛部隊、中央上空
私は、負けた──
身体が地上へと、真っ直ぐに
私が、負けた──
ギルバース帝国軍皇帝直轄精鋭部隊『
あらゆる敵を切り裂く
私の、負け──
墜ちていく中、遥か上空で飛翔している敵に視線を向ける。徐々に小さくなっていくその敵影は別の場所へと移動していく。
(くそ──)
油断はしていなかった。勝つために戦った、そして負けた。その事実が私の顔を歪めていく。
(くそ──っ?!)
このまま地上まで墜ちていくと思っていたが、横から何かに抱きかかえられる。
「無事ですね?──」
間近から女の声が聞こえる。幼さの残る顔、風になびく金髪、人形のように整った容姿を持った西方方面軍総司令官、ルナリス・ボナパルトがそこに居た。彼女は私をチラリと見ると、すぐに進行方向へと視線を戻した。
✱✱✱
「負けた──」
会話もないままただひたすらに東へと飛んでいく中、唐突にこの言葉が私の口から飛び出してきた。
「……」
彼女は何も答えなかった。
ルナリス・ボナパルト准将。戦闘能力、作戦指揮能力、共に高い能力を持った
そんな彼女の顔に、私は泥をぬった。そんな私にかける言葉などありはしないのだろう。
「ナスターシャ──」
しばらくの沈黙の後、彼女は私の名を読んだ。視線は前を向いたままゆっくりと口を開き始めた。
「生きている限り、私達に負けはありません。勝者というのは、最後まで生き残った者のことを言うのです。それと、ナスターシャ──」
彼女は淡々と表情を変えることなく口にするその言葉には、どこか寂しさを感じた。そして、彼女はさらに付け加える。
「今回の任務は西方戦線の防衛ですが……この戦争、勝ちにいきます──」
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