幕間 増援
桜華の候 三十四日目 ベルネ丘陵地帯、第一次防衛線後方上空
「まもなく戦闘空域に到達、各員ブースターを破棄して戦闘隊形へ移行せよ」
後を追走している部下に指示を飛ばしながら、足下へと手を伸ばして、裏面に追加で装備されていた
帝国が開発した新兵器、細長い楕円形をした板状の魔導兵器、
この
「准将閣下、前方に羽根つきのドラゴンを確認。数は二十……半数は地上へ降下、残りは緩やかに飛行しています」
一人の部下が接近してくる。その双眼鏡を向ける先には、無数の黒い影が浮いていた。
事前の報告では、翼のある
北方では圧倒的過ぎて、この
「第二、第三中隊は地上支援。残りは敵空中戦力の足止めを……グレイス少佐?──」
「……ルナリスは、撤退指揮──」
一人の少女が先頭を行く私の前に出る。灰色の短髪をなびかせながら、その華奢な身体には似合わない、
「砲身……展開──」
背負っていた武器を肩に背負うようにして構え、囁くように呟くと、円筒形の武器の両端が伸びるように変形した。長さは倍ほどに長くなり、小柄な彼女の背丈を上回る大きさとなっている。
「……私が、落とす──」
自分の持つ武器の具合いを確認し終えた少女が、振り返り私を見つめる。
「ナスターシャ。任せていいのね?」
振り向いた少女に近づき声をかける。ナスターシャ・グレイス少佐、
「分かりました、ここは任せます。私は、本陣で撤退の指揮を取ります」
「……了解」
その言葉と共に、ナスターシャは薄く微笑む。私にしかわからないその微かな変化を見届けて、本陣に向かう為に高度を落とす。その間に、眼下の戦場を見下ろす。
あまりにも酷い有様だった。両翼は既に崩壊し、中央が崩れ落ちるのも時間の問題だろう。いくらドラゴンが強力であっても、それに応じた戦い方をするべきだろう。なのに今の司令官は、物量に任せた作戦をとっているようだ。このような指揮しか取れない無能なのかと思うと、ため息しか出てこない。
「アレが……ドラゴン」
敵陣の最奥、そこには遠目からでもその姿形が分かる、巨大な紅い竜が鎮座していた。ほかとは比べ物にならない大きさだが、あの一匹が特別な存在だというのは一目瞭然。あれさえなんとか出来れば、この戦いにも勝機があるかもしれない。
「早くしないと……ん?」
降下の途中、何故か自軍左翼の位置が無性に私の視線を引き付けていた。何も無いはずなのに、何かがあると告げるように、私の心が波風を立て始めている。
(……今は作戦が最優先──)
抉られた地面しかないその光景を横目に本陣へと降りていく。
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