第三節 魔導機工学
「さて、ヴァーリ君。魔導機工学において一番重要なものは何だと思う?」
いきなりマティスが問いかけてくる。唐突に始まった特別講義、魔導機工学のこととなれば、子供のようにはしゃぐのがマティスだ。恐らく彼は、自分がどんな表情でいるのかも分かっていないだろう。目の前の小さな青年は、楽しそうな笑顔を見せながら、俺の返答を待っている。
「えーと……」
こうなると彼からは逃れられない。
「正解は、このコアと呼ばれる魔導石だ」
「まだ何も言ってねえよ……」
十秒も経たないうちに答えを明かしながら、マティスは作業台の上にあった丸い宝石を手に取って俺に見せる。その宝石の内部には紋章のようなものが刻まれているのが見てわかる。
「これは原石を加工してあるが、この鉱石には魔力を吸収する働きがあることが判明している。研摩して成型することにより、その効率を最大限高めているんだ。この石を見つけたことが、帝国の進化の始まりだ。ところで、魔力に関しての知識は?」
手の中で魔導石を弄びながら、マティスが質問をしてくる。
「まぁ、一応はな。目には見えない生命の源ってやつだろ。至るところに流れていて、それで──」
「そう! そしてそれは人間の中にもある。基本的に魔力は消費されるだけで、何か特別な用途があった訳では無いと推測されているが、そこに俺達技術者が目をつけた訳だよ!」
マティスは俺の言葉を途中から奪い、自慢げに腕を組みながら胸を張っている。
「ついでに言えば、魔力が宿るのは生きているモノだけだ。人工的に作られたものには存在しない。ならもし、この人工物に魔力を宿すことが出来たら……どうなると思う?──」
マティスは作業台の上に置かれていた短剣を手に取る。左手に
「
マティスが呪文を唱えるようにそれを口にする。すると短剣にはめ込まれた魔導石が光を放ち、刃の部分を青白い光が包み込んでいく。そしてその短剣を逆手に持ち替え、木製の作業台に突き立てる。するとその短剣は吸い込まれるように深々と台に突き刺さった。
「こんな感じで起動させて物質に魔力を注ぎ込んで、その物の性質を高めることが出来るようになったわけだ。刃であればより鋭く、銃弾ならより貫通力が上がる。盾なら強固になるわけだな。あとは性質付与ってのもあるが、面倒だから今は省くぞ──」
マティスが短剣を引き抜くと、発光現象は収まっていた。
「こいつは初期型だから、石内部に内包された魔力の分だけの魔力しか使えない。これまで何十年と、魔力を使ってはまた溜め込んでの繰り返しをしていたが──」
マティスは短剣を置き、俺の腕を指さす。正確には、俺の両腕についている肘から掌まで覆われた
「俺の考案したそのガントレット! 体内の魔力を魔導石に充填する新機構を搭載した新装備が、長時間使用を可能にしたわけだ! あ、でも防御に使うなよ、壊れるからな」
言い終わると、作業台から飛び降りてさっきまで弄っていた
マティス・リールという名を、帝国中に知らしめたのがこの
「だがそれにも問題があったんだよヴァーリ。それは君が壊し屋と呼ばれている理由でもある物質の──」
「物質の急激な劣化だろ。それは充分理解してるさ」
言葉の続きを奪うように答えてさっきのお返しをしたつもりだったが、マティスは理解を得られたことに感動しているのか、さらに瞳を輝かせている。
「その通りだ! 元々魔力のない人工物に無理矢理付与させてる訳だからな、当然負荷もかかる。だけど──」
そう言ってマティスは、手に持った円盾を軽く掲げてみせる。
「お前は特に劣化速度が早い。それも他の奴らとは比べ物にならない程にな。そこで、俺はお前に目をつけたわけだよ、ヴァーリ」
「え?──」
「当然だろ? お前にも壊せない武器を開発すれば、それはこの劣化の欠点を克服したのも同然じゃないか!」
「いや……別に好きで壊してるわけじゃないんだけどな……」
少し興奮気味に、円盾を放り投げながらマティスは声を上げた。きっと克服した未来を想像してしまったのだろう。頬が少しばかり朱に染まっている。
「というか……話が逸れてるぞ、少し落ち着けマティス。で、魔導機工学の真髄ってやつを教えてくれるんじゃなかったのか?」
「おうとも! よく聞けよヴァーリ、この技術はな! 剣や盾だけじゃなく人体への応用も──」
「ヴァーリ様! いらっしゃいますか!」
マティスの興奮気味の声は、激しく開け放たれた扉の音と、緊迫した女性の声にかき消されていった。
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