銀河英雄は、自己分析をする

 さて、読者諸君に改めてご挨拶だ。俺の名前は銀河英雄ぎんがひでお。世界を破壊して創造することも可能系な主人公だ。元の職業は大学生兼ヒーローで、年齢は22歳。地元小学校へ内定をもらい、今年の春から教鞭をとる予定だった。


 ……まぁ、その前に世界ごと消されたが。


 暗い話は置いといて、とりあえず俺のスペックをご覧に入れよう。まずは魔力!うん。俺魔力あるんだよ、底なしの。実際は枯渇しても瞬時に回復するタイプの魔力だけど、一番すごいタイプの魔法を9つ同時展開しない限りは枯渇もそうそうしないレベルではあったよ。


 肉体的には、国崩壊クラスの攻撃を食らっても、ケガしないレベルの超防御力と、どんな敵でも負けることのない、文字通り無敵の攻撃力を有している。これは、俺がかつて異世界に転生した時に特典で貰った、いわば前時代チート系の名残だ。


 そんでもって、異世界から直接元の世界に飛ぶという、恐ろしい荒業をもってして世界に戻り、ヒーローをやり始めた。

 このヒーローに変身した後のスペックもまた、チートじみていて、最終スペックだけをさらすと、腕からの光線は空間をき、一蹴りで次元を繋ぎ、どこからともなく取り出す超絶武器で敵を屠る。そんなヒーローだった。防御力はごらんのとおり、宇宙誕生のエネルギーをも耐えきる。


 


 さて、いま上につらつらと並べたこと、現在の状況に当てはめると、ぜぇぇぇぇぇぇんぶ意味がない!ということに、皆さんお気づきであろうか。


 たくさんの魔力?無双の攻撃力?誰と戦うんだよ。


 空間を割る光線?何に使うんだよ。


 どこからともなく出てくる武器?不意を衝く相手もいないぞ?


 ビッグバンを耐える防御力?防御したからこそ、この絶望があるんだが?


 よおし、正直に言おう。絶望だ。ああそうだとも、それこそ文字通り世界を股にかけて救ってきた、この俺もさすがに絶望くらいするさ。だってそうだろう?絶望しなきゃおかしいよこんな状況。


 なんでったって神様は、こんな終わった物語の中に、俺をとりのこしたのだろうか。そんなことをセンチメンタルになりながら考えてもみたが、そもそも世界を作り直したがために、暫定的にこの世界の神様は俺じゃないかと気づき、さらにこの状況に俺を追い込んだのもまた、俺自身じゃあないかと思い当たった瞬間、俺は思いの限り叫んだ。


「俺のぉぉ!馬鹿野郎がぁぁぁ!!!」


 のども裂けよといわんばかりの大絶叫は、今日も何もない宇宙へ、多大なる攻撃力とともに放たれていったのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る