第2話 トイレの片隅に…


またもやお母さんの思い出話から。


何故母親がここまで私に

怖い話ばかりを聞かせたがるのかは

いまだに不明であるが、

忘れてしまわないうちに

引き続きこちらへと

書き込んでみる事にする。


私の母親は、

就職するまで私の祖父母の家で

暮らしていた。


祖父母の家は、

私も何度か行った事があるのだが

すでに使っていない井戸を囲むように

4軒の平屋が連なっており

まるで時代劇の長屋のような作りだった。


もちろん風呂などなく、

お風呂に入る時は近くの銭湯に行ってたし

何より衝撃的だったのは

外に設置してあるトイレは

その4軒で共用だった上、

平成の年号に時代が移り変わってからも

今だにポッチャン便所であった事。


幸いその4軒の中で

実際に人が住んでいたのは

私のおばあちゃんだけだったので


私達はみんな

おばあちゃんの家に集まっては

気兼ねなく庭や畑で遊んだりしてた。


これは私が生まれる随分と前の

まだお母さんが子供だった頃の話。


お母さんは夜中にふと目が覚めて

外のトイレに行く事にした。


現代だったら絶対に嫌だけど

当時はそんな家ばかりだったので

たとえ子供時代だろうが、

当時のお母さんにとっては何の事はない

ただの日常的な動作だった。


お母さんがいつも通りトイレのドアを

開けた瞬間…


夏だというのに真っ黒なコートに

身を包んだ男の人が

便器にまたがる事なく

トイレの隅で体育座りをして

ジっと佇んでいたそうだ。


お母さんはビックリして思わず扉を閉め、

そのまま自宅に走り戻ったそうなのだが、


「あれはもうこの世のモノなのか、

あの世のモノなのか

全く分かんなかった。」


と言っていた。


真夏の夜中にロングコートで

トイレにジぃっと佇む男の人が

いるだなんて…


この世の人だろうが、

あの世の人だろうが、

どっちにしろとにかく怖すぎる事には

違いない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る