奇怪・雑『見聞』録

むむ山むむスけ

第1話 水の中の仏さん


もう何十年も前のお話です。


私が生まれて9ヶ月の時に亡くなった

おじいちゃんは小さな漁港の

漁師だったそうで。


今日久々に実家に帰った時に

ひょんな事から母と二人で

思い出話に花を咲かせる事に

なったのですが、


ふと母が語りだした話の内容が

あまりに衝撃的だったので

ここに書き留めておく事とします。


私の祖父は漁師という仕事柄、

漁に出た際に

水死体に遭遇することが

とても多かったそうだ。


漁の帰りならまだいいのだが

いざ今から漁をするという時に

さすがに船にあげてあげることは

出来ないので


おじいちゃんはいつも

出逢ってしまった仏さんに対して


「ごめんな~

ワシは今から魚を獲りに行かにゃならんから、帰りにまた会えたら必ず連れて帰ってやるからな。」


と言って手を合わせて

その場を去っていたそうだ。


夕方から船に乗り、

夜中まで漁をして

港へと帰る。


先ほど仏さんにはそう言ったものの、

もちろんおじいちゃん自身には

当然その仏さんに会うつもりなどは

さらさらなく…


わざといつも通る航路を避けて

その仏さんに出逢わないよう

遠回りをして帰るんだそうだ。


しかし不思議な事に

どの仏さんも

帰りには絶対に

もう一度出逢ってしまうそうで。


どんなに遠回りしても

どの場所を通っても

必ず行きに出逢った仏さんには

再び出逢ってしまう。


きっと約束通り

きちんと連れて帰ってもらえるよう

おじいちゃんの漁の帰りを

ずっと待ってるんでしょうね。


『海で仕事をする以上、

いつか自分もあぁなってしまうかも

しれんからな。』


おじいちゃんはいつも

お母さんにそう語っていたそうだ。

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