第21話 魔法の対価

「で、改まって頼みって何だよ」

 小塚がハルに向かって聞いた。土曜の夕刻のファミレス。混み合っている店内の中、ハルに向かい合う形で小塚が座っていた。


 土曜日の今日は寮の夕食が無いので、寮生達はそれぞれに外食なり店で出来合のモノを買ってくるなりして食事をしていた。スーパーで弁当でも買ってこようかと考えて居た小塚は、ハルに誘われてこのファミレスにやってきたのである。

「いや。まぁ、とりあえず注文してよ」

「本当にハルのおごり?」

「う、うん」

「そしたら「Tボーンステーキセット」はライス大盛りにして、飲み物は「ドリンクバー」に「クラフトビール」でいいか。あと「シーザーサラダ」と「熱々マルゲリータピザ」。それから「ジューシー唐揚げ」に「粗挽きフランクフルト」だな。それに「たこ焼き」と「皮付きポテト」ぐらいか。後、デザートは何にしようかなぁ……」

「えっ、そんなに?」

 流れるような大量の注文にハルが驚いていると、小塚は済ました顔で言う。

「ハルに遠慮しても仕方ないだろう。で、ハルは何を注文するんだ?」

「僕は「ドリンクバー」で良いよ」

「馬鹿。目の前のハルが飲み物だけって、俺が喰いにくいだろう」

 ハルは、小塚は僕におごられるのには遠慮が無いくせに、そんなところは気にするのかと呆れたのだが、今日は特別な頼み事があるので文句は言えなかった。

「じゃ、ポテトとかシェアさせてよ」

 実はハルにはこの後瑠奈と食事をする予定があった。こんな所でお腹をいっぱいにしてられない。そんなハルに小塚はさらに言う。

「ふーん。そしたら俺は追加で「牡蠣フライ」と「ワイン」を…………」

「ごめん。もう止めて。僕にも予算があるんだから、これ以上はおごれないよ」

「はは。この辺りがギリギリか。どうせハルの「頼み」って魔法の話だろう?これぐらいでなきゃハルが望んでいる魔法の対価としては役不足だよ」

 一般的に支払う対価が大きければ大きいほど魔法の効果が大きくなったり、また反動を小さく抑える事が出来る事ができるのは魔法を学ぶ者の常識だった。この対価の大きさは絶対的な大きさで決まるのではなく、その人にとっての相対的な大きさが重要視されるのも魔法の特徴であった。例えば同じ千円にしても、大富豪と貧乏学生のハル達では、魔法の対価として考えた場合には、その価値に大きな違いがある。

「あっ、小塚は僕が魔法の事で相談したいって知ってたの?」

 ハルは小塚があえてハルの財布に無理をさせようとしていた事に気がついた。

「どうせ、この前やったハルの下半身を元に戻す魔法をしてくれって言う話だろう?ハルの方から「おごる」って言って来るなんて、何かあるなって直ぐに判るよ」

「じゃ、お願いしていいのかな?」

「一応道具の用意もしてきてはいるけどさぁ。はっきり言って気が進まない」

「えっ?」

「だって使う予定があるって事なんだよな?」

 小塚はハルに、下半身を取り戻して、いかがわしい事をするつもりなのかどうか聞いてきた。

「いや、予定はどうか判らないけど……」

「相手は瑠奈様にだよな?」

「お、小塚には関係無いだろう!」

「馬鹿。関係あるよ。いくら俺の属している『瑠奈様を愛でる会』が、見守ることに徹するのが原則だっていっても、ハルに奪われるのを黙って見ていろってのは、いい気がしないわけさ。さりとて瑠奈様の意思は出来るだけ叶えたい」

「ま、まだ奪うとか、そういう話じゃないから……」

「でも、そういうコトは見越しているんだろう?」

「いや……どうなるかはまだ判らないけど……」

 ハルが恥ずかしそうに口ごもる。


「良いよなぁ。畜生。癪だから食後にチョコレートパフェも注文する!」

「ホント勘弁してよ。もうお金無いよ!」

「わかった。それは貸しにといてやる」

 そう言って小塚は笑った。 なんだかんだ言いながらも小塚の協力で、とりあえずハルは下半身を取り戻すことが出来た。

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