第18話 二人 ルームメイト

 瑠奈の部屋から逃げるようにして寮の自室に帰ったハルは、瑠奈に「今日はごめん。いつか理由を話す」と言う短いメールを打った。


 メールを打ち終わると、持って帰った荷物の中に瑠奈に作って貰った弁当があるのに気が付いた。食べかけていた残りを折り箱に詰め直して一つにまとめてみたのだが、とてもハルが一人では食べきれる量じゃ無い様に思えた。

 幾らか食べておこうと思っても、さっき瑠奈の部屋で上手くいかなかったことのショックもあって、ハルには食欲が無く手を付けることが出来なかった。折角、瑠奈が自分に作ってくれたものなのだけれど、しかたなくハルは「おすそわけだ。石田も喰え」と言うメモを書いて、テーブルの上に置いた。ハルには手作りの弁当を石田に自慢したい気持ちも少しあった。


 ハルは瑠奈の部屋でもげた自分のちんちんをしまおうと、この前もげた時のを入れていた保管用のガラス瓶をひっぱりだしてきた。当たり前だが瓶の中身は手元に移転しているので空になっていた。

 その様子を見てハルは、改めてガラス瓶にもげたちんちんを保管していたというのは、小塚の言う「あるべきでないもの」が「あるべきでない場所」にあったという事なんだなぁと思った。もげたという事が間違った状態だったのだ。その事はハルに自分が男性である砦のようにも思えた。

「あれ、入らない」

 ハルはガラス瓶の中に、もげたちんちんをしまおうとしたのだが、いきり立ったそれは、前に保管していたガラス瓶に収まる大きさでは無かった。もう一回り大きなものがいるなと思ったのだが、生憎そんな保管用の瓶は持ち合わせていなかった。

 取り敢えずハルはそれをタオルに包んだのだが、いざしまおうとしたところで、膨張した状態のそれを石田に見つかるのはマズい気がした。確実に冷やかされるだろうし何より恥ずかしい。

 迂闊なところにしまって何かの拍子に見つかる様な事があってはならないので、ハルは自分のベッドに持って入りそこに隠すことにした。

 タオルにくるまれたそれを持って二段ベッドの上段になるハルのスペースに入ると、ハルはなんだかどっと疲れを感じた。まだ夕刻前だったがタオルに包まれたモノを片手にハルはそのままシーツにくるまった。ベッドの端っこで壁に向き合うような体勢になる。


 今日は色々とありすぎた。もしあの時もげなければ瑠奈と思いを遂げられていたのだろうと考えると、どうしても悶々としてしまう。ふと、大きくなった自分のモノを見て瑠奈はどう思うのだろうか気になった。

 ハルはタオルから自分のモノを取り出してしげしげと眺めてみた。まだ瑠奈には見せていないハルの部分であった。

 いざこんなモノを自分の中に入れるとなると瑠奈は怖じ気づきやしないか心配になる。それとも瑠奈は愛おしいと思ってくれるのだろうか。瑠奈はこれを舐めたり口に含んでくれたのだろうか。ハルはそっと自分の口元に持って来てその先端にキスをしてみた。そして舌先で亀裂をそっと突いてみた。不思議な感覚だった。

 ちんちんの方は既にハルの感覚と切り離されているので、単にそういった形のモノを相手にしているという事に過ぎないのだが、瑠奈がこうしてくれていたのかもしれないと思うと奇妙な興奮もあった。さすがに自分のモノを口に含むのにはためらいがあったので、ハルはそれ以上はできなかったが、瑠奈はこれを自分の体の中に入れることを許してくれていたのかと考えるとハルの顔は赤くなった。


 もう少し瑠奈の感覚を知りたいと思ったハルはパンツを下ろして下半身を無防備にした。そしてハルは、自分の男性器を自分の女性器の方にあてがって、先端で軽く突いてみた。

瑠奈は将来自分の体に女性器が出来る事を期待している。それはつまりハルの男性器を受け入れるという事だろう。ハルの方も女性となった瑠奈と一つになりたいという思いが募る。

 どうして自分のちんちんがもげた上に、瑠奈が欲しがっている女性器が自分の方に出来てしまったのだろうか。ハルは大きなため息が出た。考えれば考えるほど、ハルの気持ちは落ち込み、そのままふて寝をする形でハルは眠ってしまった。


 ベッドの端で小さくなって寝ていたハルは不意に部屋の明かりがつくのを感じだ。ぼんやりと石田が帰って来たのだと思ったが、めんどくさくなってそのまま動かずじっとしていた。

 するとテーブルの弁当とメモを見たのか、石田は弁当の残りを猛烈な勢いで食べ始めている気配を感じた。

 運動部に属していて体格の良い石田ならば、すっかり平らげてしまうかも知れないと思い、少しは残しておけよと声を掛けようと思ったが、それも少しケチ臭いような気がしてハルは何も言わずに黙っていた。

 今日の所は好きに食べさせてやって、明日にでも石田に「恋人が作ってくれたお弁当」だったと自慢してやろうと思った。

 しかしそこでハルは瑠奈のことを『恋人』って言っても良いのだろうか不安になった。確かにお互いに気持ちを確かめ合ったのだけれど、さっき自分は瑠奈の部屋から逃げ帰ってきてしまっている。世間的には『破局』した感じになってしまうのでは無いのか。そう考えると不安になって来る。ハルは石田には瑠奈のことは相談出来ないやと思って再び枕に顔を埋めた。


 そんな事を考えながら一人悶々としているハルをよそに、弁当を食べて満足したのか石田は大きなゲップをして呑気に「喰い切れねえや」と独り言を言った。

 暫くすると石田はおもむろに立ち上がり、冷蔵庫に弁当の残りをしまう気配があった。ハルは、結局石田も食べ残したのかとぼんやりと考えながら再び眠りについた。


 ふと目が覚めると部屋が電灯の明かりになっているのに気がついた。石田がいる気配がある。暫くすると石田は部屋のドアに鍵を掛けて、つっかい棒もしている様子があった。

 ふて寝中のハルはぼんやり石田は何をしているのだろうと疑問に思ったのだが、面倒くさくなって枕に突っ伏したまま別に声は掛けなかった。

 程なくハルは下段のベッドでなにかごそごそという動きを感じた。石田が何かをやっているんだと思ったが、最初のうちは取り立てて気にも留めなかった。

 しかし石田の動きは段々とはっきりしてきて、激しい息づかいの合間に吐息の様なモノが混じり始めたので、ハルは石田が懸命に自分を慰めている事に気が付いた。


 自慰をするときは一人を確認するのがルールだが、石田は今日はハルが帰ってこないと思い込んでいたようだ。「全くしょうがないなぁ」と思ったハルは、武士の情けで気が付かないふりをしてやり過ごそうと思った。その時、ベッドの下から石田の切なそうな声が聞こえてきた。

「ハルぅ」

 ハルは自分の耳を疑った。まさか石田が行為の最中に自分の名前を呼ぶわけは無いだろう。何かの聞き違いだと思い、真相を確かめるべくハルは聞き耳を立てた。

「くっハルっ」

 吐息の中、石田ははっきりとハルの名前を呼んだ。石田は自分の事を思いながら自慰を行っているのだ。どうしよう。ハルは嫌悪感と言うよりも戸惑いを覚えた。石田は男の僕をそういう対象として見ていたのか。いや、いや。それはないだろう。

 ハルは先日、石田に女性の部分を間近に晒した事を思い出した。石田は女性としての僕を、そういう対象として捉えたのだろう。男同士は抵抗があるが、女性としては男性の石田からそういう対象に見られるというのは、ごく当たり前のことな気もする。

 自分だって、偶々目に入った別に好きでも何でも無い女の人の体を思い浮かべてすることだってある。その偶々が僕の下半身だったと言うことではないのか。そう考えると、ハルは楽になった様な少し物足り無い様なおかしな気持ちになった。


 もし石田が、性的な面を含んだ好意を自分に向けていたらどうしよう。一瞬ハルの頭の中に、男性としてのハルが瑠奈と結ばれて、女性として石田に愛されると言う妄想がよぎった。それは余りにも自分に都合が良すぎる気がした。しかしすぐ後で「都合が良い」っていうのは、自分が女性として石田に愛される事を望んでいる見たいな感じになってしまう事に気がついた。

 慌ててハルは「石田とは、ただ親友として気まずくなりたくないだけなのだ」と心の中で言い訳をした。そもそも、僕がこんなことを考えなくちゃならなくなったのは、みんなあの石田の馬鹿の性欲のせいだ。ハルは悩むこと自体馬鹿らしくなった。

 ハルは手にしていた自分の怒張した男性器を見た。


 改めてもげた自分のモノを見ながら、今の石田のものもこうなっているんだと思うと、怖いような気もするし、必死さが可愛らしいような不思議な気持ちになった。だいたいあの馬鹿石田は、こんな状態になった自分のモノを僕の女性器に入れたいのか、それとも後ろの方に入れるつもりなのか。口に含んだりもてあそんだりしてほしいのか。石田はどういう想像をして自分を慰めているのだろう。やっぱり石田も相手のを触ったり舐めたりしたいのかな。ハルは石田に触られることを想像して自分の下半身に手を伸ばした。


軽く触れただけで自分の女性器の部分が濡れている事に気がついた。まさか僕は石田を受け入れようとしているのか。いや、コレはさっき瑠奈を抱きしめたときの興奮が未だ冷めやらないからだ。別に僕は女性器をどうこうされる事を望んでいないし、触られたって感じるわけじゃ無いはず。そう思いたくて、ハルは自分で自分の女性器の縁に指を触れた。ほら大丈夫だ。変な気なんて起こらない。そう思って動かした指が敏感になっていた突起に触れて、ハルの体はびっくと脈打った。こんなの感じているんじゃ無い。ハルはそう自分に言い聞かせて、もう一度その部分に指先をゆっくりと触れた。ハルの指は今まで知らなかったその感覚を追い求めて動き、吐息が出そうになるのを必死にこらえる。


 夢中になっているハルの耳に石田のせつない息づかい届き、ハルは自分の顔が熱くなるのを感じた。布団の下数十センチの所にいる石田も同じように自分を慰めているのだ。そう思うと初めて知った感覚を求めるハルの指先は、もう自分では止めることが出来なかった。声が漏れそうになる所をハルはシーツを噛んで必死にこらえた。


「好きだ」


 下段から聞こえてくる吐息の合間で石田が小さくそういった様に聞こえハルの体に緊張が走った。それは僕を「好き」だと言う事なのだろうか。それとも単に愛し合う行為の妄想の中で「甘いささやき」を行っただけで、深い意味は無いのだろうか。ハルは石田の妄想の相手が自分では無ければ気が楽かも知れないと思った。そもそも石田は自慰をする為に手当たり次第に性の対象になりそうなものを見繕っていただけで、その中の一つとして偶々目にした僕の下半身を思い浮かべたに過ぎないのかもしれない。ハルはそう考えて納得しようとした。


 大体、僕の名前を口にしたって事も単なる勘違いで、もしかすると「ハル」というのは、石田のお気に入りのグラビアモデルとか、AV女優か何かの名前で、ノートパソコンなんかを持ち込んでヘッドフォンで動画とか見ていてつい口に出してしまったというオチもありえるのではないか。そう思ったハルは、石田の様子を確認しなければならいないという思いに駆られた。

 ハルは音を立てないように慎重に身を起こし、恐る恐る上段のベッドのふちから顔を出して下段の石田の様子をのぞき込もうとした。ベッドには転落防止の手すりがあり、かなり身を乗り出さなくては下の段のベッドの様子が見えないようになっている。ハルは石田の姿を見ようと手すりに掴まり前のめりの姿勢を取ろうとした。その時、左手に持っていた自分のもげた男性器が手から溢れ落ちた。慌ててそれを追いかけたハルは、姿勢を崩して二段ベッドから派手な音を立てて落下してしまった。

「はっハル!」

 幸い防御魔法が間に合って怪我はしなかったが、上から落ちてきた春に驚いた石田が声を上げる。石田はベッドの上で膝立の姿勢で自分の大きくなった下半身を握っている。シーツの上にはハルの写真があった。


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