第13話 瑠奈 恋愛教室
「ハル君にコンドーム買わせたって?」
大教室の一番後ろの席に座っていた優香里が声を上げた。慌てて隣に座っていた瑠奈が制する。
「しっ優香里。声がデカイよ」
何人かの学生が振り返りその視線を感じた瑠奈は、恥ずかしさのあまり教科書で顔を隠した。講義の最中にも関わらず、優香里があまりにもしつこく昨日のハルとの様子を聞くモノだから、つい昨日のハルとの買い物の話をしてしまったのだ。
「それでハル君とは、その後どうなったの?」
優香里は声のトーンを落として聞いてきた。
「別になんにもないよ。喫茶店でお茶飲んで別れた」
「はぁ。そりゃハル君も不機嫌になるわけだわ」
「なっ、なんで優香里はハルが不機嫌だったて判るんだよ」
「わかりますとも。しかし問題はハル君が『天然ショタ』と言うだけではなくて、瑠奈の『残念お子様感覚』にもあったのか」
「その『残念お子様感覚』ってなんだよ」
「これを『残念お子様感覚』と言わずして何と言おうか。大体男の子に避妊具買わしといて、そのままお預けって話は無いでしょう」
「いや、それは冗談だったんだよ」
「デート中にして良い冗談と悪い冗談があるわよ。期待に胸を膨らませてるハル君にしたら冗談じゃ済まされないでしょう」
「そ、そうなのかな……」
「ハル君だって健全な男の子だよ。避妊具片手に何もしないうちに帰らされたら、そりゃ不機嫌にもなるわよ」
「いや、僕の体の方は未だ女性として受け入れる形になってないから、そう言うのは先の話っていうか。第一僕らの間には未だ告白も何もないよ」
「だから瑠奈は『お子様感覚』だって言うのよ。告白云々なんかよりも、避妊具渡すって言うのはね、そう言う事をするよって言うサインなの。大体、瑠奈の体の準備が出来て無いって言っても、今の体だって慰め合うことぐらい出来るでしょうが。それに、女性にならなくても後ろの穴だって使えるんだから」
「後ろ?」
瑠奈は咄嗟に話が分からず怪訝な顔をしたが、直ぐにそれがお尻である事に気が付いて赤面した。
「そ、そんな後ろのって『変』じゃない?」
「人が愛し合う形に『変』ってものは無いわよ!」
優香里は力強く言う。
「でも後ろって痛いくないのかな?」
「私は知らないわよ」
優香里はそう言ってそっぽを向いた。そんな優香里のことを瑠奈は「この耳年増め」と思った。
「とにかくね。ハル君の性欲をもてあそんだのは瑠奈の方なんだから、どっちにするにしてもちゃんと謝っときなさいよ」
優香里のその言葉に、瑠奈は今更ながらに、「慰め合う」だとか「後ろの穴」とかいう話が、ハルと自分との話だった事に気が付き耳まで真っ赤になった。
「でも、僕、自信ないよ」
「誰だって無いわよ」
優香里は瑠奈が気落ちしないように敢えてそう言った。
「そういう事は、お互いに妥協点を見つけてこなして行くものなのよ」
でも性的な妥協点ってなんだろう?瑠奈は自分とハルの場合はどうなるのだろうかと考えた。いずれそういう事をするのを前提に「待って」という話だろうか。それとも体が女性になるまでは「途中まで」で我慢して貰うという話なのだろうか。どうやればハルの方が納得してくれるんだろうか。瑠奈の頭の中で様々な思いが交錯する。
「もしかして瑠奈。拒みつつも嫌わないでいて欲しいとか虫のいいこと考えてるんじゃないでしょうね」
優香里は瑠奈のギクリとするようなことを言う。的確に瑠奈の心の中を言い当てた様な形になるのは優香里の勘の良さからなのだろうか。何も言い返せずに固まっている瑠奈に優香里が言う。
「判った。瑠奈にまだ体を許す覚悟が出来ていないというのなら、ハル君を逃がさないためには後は餌付けしかないわね」
「餌付けって……」
「人間、性欲と食欲が重要って話よ。とりあえず片方は満たしてあげないとね。瑠奈は料理とかちゃんと出来る自信有る?」
「一応、僕は自炊してるよ」
「どうせ作ってるのは中華丼ばかりなんでしょう」
確かに瑠奈の作る料理は中華丼が多かった。
「別に僕が好きなんだから良いだろう」
中華丼を馬鹿にされたと思った瑠奈が少し怒って言った。
「馬鹿。ハル君の好みが問題なのよ。大体、瑠奈は男の子が喜びそうな料理知ってる?」
「にっ肉じゃがとか?」
「あー、何その男の子には取り敢えず肉じゃが出しとけば良いって安い発想は」
「安くて悪かったね。だったらどういう料理が良いんだよ」
「ハル君は寮生でしょう。朝食と夕ご飯は寮で出るんだから、基本、餌付けの勝負は昼なのよ。つまりお弁当が勝負になるの。お弁当に使えそうな料理をマスターしなきゃ」
「なっなるほど」
「もちろん男の子の為の栄養と味のバランスとか、彩りも考えないと駄目よ。中華丼やカレーみたいに、ご飯の上からかけて完成ってわけにはいかないんだから。瑠奈、その辺も踏まてちゃんとしたの作れるの?」
「う、うん」
そうは言ったものの、いきなり男の子の為の栄養バランスだとか彩りだとか、今まで考えもしなかったような指摘に、瑠奈は正直な所全く自信が持てなかった。
不安そうな瑠奈の様子に気が付いた優香里が瑠奈の背中を叩いて言う。
「まぁ少々見てくれが悪かったとしても、媚薬を多めに入れとけばなんとかなるでしょう」
「それって同意なしに使っちゃ違法行為になって駄目なんじゃ…………」
「何言ってるの。カップルのお弁当には大抵入っているもんだし、法定容量さえ守れば大丈夫よ。それにハル君だって魔法使いなんだから耐性が有るはずだよ。少々使いすぎたところで心配する必要ないよ」
「でも、もし効き過ぎたりしたらどうするんだよ」
「その時はその時。覚悟を決めて押し倒されちゃいなさいよ」
そう言って優香里はいひひと笑った。
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