・《僕らの思いは共通ですか!?》- 3 -
「着いた…。」
学校の前に立つ僕。
休日だが、部活の生徒も多いため正門は開いていた。
この学校は私服で来ても何も言われないとはいえ、一応指定制服のある学校に私服で入るとかなり浮いてしまう気がして好きではない。
正門の警備員室にある、来校者名簿を確認する。
部活等以外での休日の登校は、これを書かないと中には入れない決まりだ。
すると、15分前。
『2年1組
と、綺麗な文字で書かれていた。
「やっぱり、先輩ここに来てるのか…。」
現在時刻と氏名、クラスを書き殴り、走って校門をくぐる。
このどこかに、先輩はいるはずだ。
教室棟の裏。
体育館の裏。
木陰のベンチ。
運動場の隅。
体育館の中。
走り回っても、見つからない。
どうやら外にはいないようだ。
教室棟に入り、一階からくまなく探す。
いない。いない。いない。
風が、僕の汗を飛ばしていく。
階段を上る。
二階にも姿は見えない。
あと思い当たるとしたら、二年の教室の三階だ。
急いで階段を上る。
するとそこには――――――。
「あ…
「やっぱり来ちまったか…。」
「……主人公みたいなタイミング…。」
「何言ってんの二人とも!!それより、奏先輩が!!」
「その、お前が探してる白沢奏が、今そこにいる。」
「え…ッ!?」
篤志が指をさしたのは、2年1組の教室だった。
僕ら三人はバレないように中を覗く。
するとそこには、奏先輩と、いかにも意地悪そうな顔をした男が、仲間らしき男たちを数人引き連れて向き合っていた。
しかも無駄に筋骨隆々で腹立たしい。店長ほどではないが。
「あの男が…『
「……そうだ。いかにもって感じだろ?」
「想像よりずっとね…。あの男が、奏先輩を…。」
「おい、なんか話してるぞ。静かにッ!」
僕たちは口を閉じると、会話に耳を澄ませた。
『なんで…お店にも手を出したんですか…。』
『ああ?お前が俺の言うこと聞かなかったからだろ?土曜日には付き合うって、約束だったよなあ?』
『そんな約束した覚えはありません。私は『月曜日まで考える時間が欲しい』と言いました。『付き合う』なんて一言も――――』
『だあーーーーーうるせえ女だ!こうして俺が日曜まで待ってやったんだ、もう答えは出ただろう?もちろん、答えは一つ…だよなあ?』
『……。』
『それとも何か?これよりもっと壊したほうがいいか?お前の大事なものってやつを…。ほら、あの一年。なんて言ったっけなあ。あいつだよ。』
『
『ほらこれだよ…。俺の告白断っておいて、一年とイチャコラしやがってよォ…。俺のほうが金持ちで、スポーツも勉強もできて、今の時点で一流大学に推薦されてるんだぜ?どう考えても、俺のほうがいいよなあ?』
『あなたには…柊木君の良さなんて分からない。』
『柊木柊木ってうるせえんだよ!?いいか、あんな弱くて女々しい奴なんて忘れろ!』
『柊木君は弱くない!柊木君はかわいくて!カッコよくて!一度走り出したら止まらなくて!先輩の私を、こんな私を…ずっと気にかけてくれてッ!あなたなんかより、ずっと強いッ!』
初耳だ。
僕ってかわいくてカッコよくて強いんだ。
自分でも少しくらいは情けないと思ってたんだけど。
『だああああああ!じゃあいいのか!?てめえの裏の顔の写真もばらす!大事な大事な柊木とバイト先はこれ以上に壊れていくんだぜ?お前のせいでなあ!』
『それは……。』
違う。
先輩のせいじゃない。
僕たちは、バイトのみんなの笑顔は、そんな簡単には壊れない。
『どうなんだよ白沢ァ…。お前がこの俺と付き合えばすべて解決だ。悪くない…いや、最高の条件だろう…?』
最高?笑わせるな。最悪の条件だ。
答えはただ一つ…。
『分かりました…。』
そうだ。言ってしまえ!答えは—――――――
『告白、お受けします。その代わり、お店にも柊木君にも、二度と関わらないでください。』
………………。
何を…言っている。
「…何を言っているんだ…ッ!あの人は…ッ!」
「お…おい…望!」
「……篤志。マズい…かも。望の目の色が変わってる…。」
『それでいいんだよ。……ちッ…待たせやがって。』
『ごめんなさい。でも、もう二度と、関わらないでください。あの人たちと。』
『ああそれでいいんだよ!お前さえ手に入りゃ満足なんだからこっちは!』
なに、謝ってんだよ。
なんで好きでもないのに付き合おうとしてんだよ。
告白を受け入れる?
あんなに嫌がってたのに、僕たちに迷惑をかけたくないから…?
「お、おい望?落ち着けよ?お前が出ていったら―――――」
ふざけんな…。
ふざけんなふざけんなふざけんなッ!
「馬鹿野郎があああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!!!!!!!!!!」
「あ、やっちまった…。」
「……もうこうなったら止められない…。」
気が付くと、僕はクラスの入り口に立っていた。
ああ、イライラする。
もうどうなっても構わねえ。
「って、てめえは柊木か?なんか用か?」
「奏先輩。何やってるんですか。」
「ひ…柊木君!?こ、これは…!」
「何やってるかって聞いてんだよッ!白沢奏ッ―――――――!」
僕の声が、教室の壁に反響する。
空気が、僕の叫びで凍り付く。
構わず僕は教室に足を踏み入れ、奏先輩の前に立つ。
「柊木君…聞いて…私は…。」
「僕や『モフィ☆』に迷惑をかけたくない!?だから好きでもない相手と付き合う!?何言ってんだアンタ!ふざけんな!」
「ひ…柊木君!」
「たかがアンタ一人、迷惑なんて誰も思ってねえよ!傷つく?誰が傷ついたよ!さっきも不良どもを店長達がボコボコにして笑ってて、むしろ楽しそうだったよ!」
「で…でも私のせいで…。」
「僕がいつ傷ついた!?みんながいつ迷惑だと言った!?一番傷ついてんのは、そうやって一人で抱え込んで、自分を不幸にしてるアンタだろ!違うか!?僕たちがこんなクズの考えたやり方で傷つくと思ったか!?舐めるんじゃねえ!僕たちはそんなに弱くない!」
「そ…それは…。」
「思わせぶりなこと言って、僕のこと散々からかって、会って一か月も経ってないのに家にも泊まって、僕も少しは先輩のこと意識したところにこれ!?わけわかんない!バカじゃないの!?僕の純情返して!」
「ご…ごめん…。」
「謝んなッ!先輩は悪いことしてないでしょうが!謝る暇があるなら、目の前のこの脳細胞まで生殖器でできたようなバカ野郎に嫌いなところ全部言いなさいよ!先輩の本当の気持ちを!!!」
「柊木君…私…。」
「さっきから黙って聞いてりゃ、後輩のくせに随分と言ってくれるじゃねぇか、ええ!?痛めつけないとわからねえみたいだなあクソガキがァッ!」
僕の顔面目掛け、拳が飛んでくる。
まあそうだよね。うん、覚悟はしてた。
でも伝えたかった。
先輩は、先輩のままでいい。
殴られる覚悟はあった。さあこい!
でも、その拳は僕のもとには届くことはなかった。
そう、彼女の一言によって。
「私―――・・・本当に生理的に無理なのッ!!!!!!!!」
『ぷッ……』
伴野の取り巻きの誰かが噴き出した。
いや、うん。僕もにやけが止まらない。
「おい誰だ今笑ったの…。」
額に青筋を立てる伴野。
取り巻きは誰も言い出さない。
「まず顔が嫌い!進化し忘れた人類みたいで本当に無理!あんまり言いたくないけど気持ち悪い!!見てるのも辛い!吐きそう!」
『クスッ……。』
また別の誰かが笑う。
「あと、態度も言動も、バックボーンがあるから成り立ってるのに、自分には何にもないことに気づかないでイキがってるの、正直見てて恥ずかしい!痛いの!親がPTA会長やってる子供みたい!精神年齢小学生以下!」
『ぷっ…』『ブハッ…!』『…あははッ!』
続々と吹き出す取り巻き立ち。
そうだよな。伴野から呼ばれたと思ったら、こんなにも情けない振られシーン見せられてるんだもん。
笑うよ。全部正論だし。
「クッ――――――!」
って、おお!?伴野先輩どうしたんですかァ~?顔真っ赤でちゅよ~?
「もうほんと色々無理だし!というか良いところ一つもないし!関わったら損だし!関わらなくても損だし!同じ空気吸いたくないしッ!」
って、先輩!?ちょっとそれは言いすぎじゃない!?面白いからいいけど!
『あはははははははは!!!!』
大爆笑の取り巻き。
伴野は成功すると思って連れてきたんだろうけど、むしろ自分の醜態を見てしまう人数を自ら増やしてて笑いをこらえられない。
「あーーーーーーはははははは!ひでえ言われようだ!流石は白沢奏!あーーーははは!はらいてえええええ!」
「……さッ…さすがに…フフッ…これはッ…可哀そう…ブッフ…だ…。」
入口の向こうからでも聞こえる声で、二人も大爆笑している。
伴野の顔、もう業火の如く赤いよ!?死ぬんじゃない!?
「もうとにかく、生理的に無理なのーーーーーーーーーーッ!」
『あははははははははははははははははは!!!!!!』
大事なことなので二回言いました!
さっきまで静かだった教室は笑いに包まれた。
取り巻き達は、伴野を指差し笑い転げている。
ほら、やっぱり嫌いじゃん。付き合わなくていいよ。
「こ…このクソアマあああああああああ!コケにしやがってええええええええ!」
「…!?」
すると突如、伴野が叫んだ。何こわッ!?
体をプルプルと震わせ、拳が赤くなるほど握っている。
これは—―――ッ!
とっさに僕の体が察知し、動く。
恥ずかしさと怒りが混じり、伴野が腕を振り上げた先は先輩だった。
「一回痛い目見ろや!このクソ女がァーーーッ!」
誰がクソ女だ。
そんな汚れた手で、僕の大事な教育係に――――――――ッ!
「僕の先輩に触るんじゃねええええええええええええええ!」
「―――――――――ッウゴァ!!!!!」
…。
……。
――――――――あ、やっちゃった。
先輩目掛けて飛んだ伴野の拳は届かず、割って入った僕の拳が伴野の右頬を抉っていた。
いわゆるクロスカウンターってやつだこれ。
「あのバカ…やりやがった…。」
「……しかし、正直グッジョブとしか言いようがない。」
おいお前ら、外で見てないで助けてくれよ。聞こえてるぞ。
「こ…このクソガキがァ…!てめえら、絶対に痛い目を見せてやる…。絶対になァ!」
地面に倒れこみ、僕を睨みつける伴野。
その口元からは血が流れていた。やっべ…。
「先輩…今のうちにッ!」
「…ふぇ!?う…うん!」
僕は先輩の手を取ると、急いで教室から走り去る。
篤志と教授?置いていくに決まってる!
後ろのほうでなんか叫び声が聞こえたけど、構わずに僕らは走った。
その時先輩の見せた笑顔は、今までにないほど明るいものだった。
さりげなく繋いだ手を放すのは、少しもったいないと感じるほどに。
走り続ける僕たちの道の先は、綺麗な夕暮れが照らしていた。
「ねえ、柊木君?」
「なんですか!?」
「さっきの話、どこから聞いてたの…?」
「さあ?忘れちゃいましたね!」
「あ、意地悪だ!覚えてるくせに!」
「全然、覚えてません!それよりどうです!?今日も家でご飯でも食いません!?」
「うん!是非!今日はなんだかいっぱい食べちゃいそうだよ!ってごまかさないで!」
「んー!?なんのことですかねえ!?」
「あと、さっきの『僕の先輩』って…どういう意味…?」
「え…?だって学校とかバイトの先輩じゃないですか?」
「あ、うん。分かってた。分かってたよ…。」
「なんで露骨に落ち込むの!?」
何気ない会話が、何気なく続いていく。
僕たちの今日は、いつもよりは少し、良い終わり方をしたかもしれない。
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