・《僕らの思いは共通ですか!?》- 1 -
日曜日。
昨日の疲れと貧血によるだるさに見舞われた僕だったが、妹の朝食作れコールによって、見事にたたき起こされてしまった。
僕らは朝食を食べ、しばしの談笑の後に部屋を片付け、妹は自室へと戻っていった。
時刻は11時前。
あの後、朝に連絡が来ており、11時前には向かうと言っていたが。
「そういえば
「はい。中学からの付き合いで、
「んー。じゃあ私は帰ったほうがいいのかな…?」
「いえ、先輩にも関係のある話ですし。いてもらいたいんですが、いいですか?」
「私にも…?それって…。」
「朝から気分を暗くしたくはないんで、あえて言いません。」
「うん…分かった。じゃあ残るね。」
「ありがとうございます…。」
あまり口に出したくない。
話しても、決して気分がよくなる話じゃないし。
『ピンポ―――――ン』
すると、家のインターホンが鳴った。
どうやら篤志達が来たようだ。
玄関を開けると、見慣れた悪友と紙袋。
一瞬、ガラが悪すぎて借金の取り立てかと思ったよ。
「午前中にすまんな。しかもいきなりで。用事が終わったらすぐに退散するからよ。」
「え、ゆっくりしていけばいいのに…?」
「……望。昨日の夜はお楽しみでしたね…?」
「残念ながら財団。君の考えるようなことが起きる前に、僕は貧血で倒れたよ。」
「……さすがとしか言わざるを得ない…。」
「『
「中にいる。とりあえず上がってよ。」
「おう、お邪魔します。」
「……お邪魔します…。」
リビングに二人を通す。
そういえば、高校に入ってからあんまり家に人呼ばなかったから新鮮だ。
でもまさか、その最初の集まりがこれとはね…。
「アンタが白沢先輩か。俺は…」
「矢車篤志君…だね?よろしく!」
「お…おお。望から聞いてたのか。じゃあ話は早い。早速だがアンタに聞きたいことがいくつかある。いいか?」
「うん。なにかな?」
「まず、望とはどんな関係だ?どこで知り合った?」
まずい。いきなり篤志は確信をついてきている。
メイド喫茶の同僚、なんて言ったら、僕の仕事もバレちゃう!どう返す、先輩!?
「うーん、少し長くなっちゃうんだけど。」
「構わない。」
「最初は廊下でぶつかって、その時落とした生徒手帳を拾って届けに来てくれたのが柊木君だったんだ。そのあとは、趣味とかも一緒でいつの間にか仲良くなってたの。」
す、すげえ。
ほぼ嘘偽りなく『のぞみん』に関する情報を伏せてる!
というか、篤志がそのことを知らないってことは、財団はきちんと約束を守ってくれているのか…意外だ…。
「そうか。分かった。じゃあ次の質問だ。『
「生理的に受け付けない人…。心底嫌いな人…かな?」
「見かけによらず言うねえ。じゃあ最後の質問だ。次に伴野に会うのはいつだ?」
「月曜日の放課後。そこで決着をつけたいなって。これ以上、悩みたくないし。」
「質問は以上だ。あんたの信念は固いようだな。人は見た目で判断できないとはこのことだ。良い人じゃないか、なあ望?」
僕のほうを向く篤志。
なんだそのしたり顔。なめてんのか。
「矢車君。君はなんで伴野君のことを?」
「ああ、もともと財団と野球部のマネージャーに相談されたのが発端だ。暴力事件がうんたらかんたらで、その犯人は伴野茂。理由は女に振られたから。で、その女ってのがアンタだった…。」
「それで私のとこに来ようとしたら、柊木君が関わってたってこと…?」
「ずっと気になってたんだ。望がなんでこんな件に関わってるのかって。これでやっと合点がいったよ。」
「でも、私のことは野球部の話とは直接関係ないんじゃ…。」
「望が関わっちまってる以上、あのバカ一人で突っ走らせるのはあまりにも危険だ。望はあまり器用なほうではないからな。」
「そっか…。優しいね君も。」
「長い付き合いのバカを見てられないだけだよ。」
何だろう。
小声で聞こえないんだけど、ものすごくバカにされてる気がする…。
「……じゃあ作戦会議に入ろう。期限が明日なら、早急に対策を組まねば…。」
「財団、対策って何をすれば…。」
「……決まっている。伴野には自白してもらうだけだ。なるべくダメージのある方法でな。」
「でもどうやって…。」
「おいおい望。うちの自慢の天才を忘れてないかい?」
「え、それって…教授?」
「……そうだ。教授には、超強力な自白剤『スベテハクーン』を作ってもらっている。」
「もう何でもありだな教授…。」
「問題は、どうやってそれを忍ばせるかだ。そこまでは俺も考えついてない。」
「ダメじゃん!」
「とりあえず、教授は作成までに三日はかかると言っていた。明日が期限となっちゃあ、こっちも他の手を考えざる負えない。問題は…」
「……白沢奏。アナタがどうしたいかだ。」
財団が先輩の肩をポン、と叩く。
「そう…だよね。うん。分かってる。」
「明日までに覚悟は決めといてくれ、とりあえず俺らは対策を―――・・・」
『御面ドライバ――――!ホワイト!DX!!!—――♪』
篤志が話している途中に鳴り響いたのは、言わずもがな僕のスマホだ。
相手は…相川さん?どうしたんだろう…。
「ごめん、ちょっと出ていいかな?」
「ああ、かまわないが…。」
画面をスライドし、通話を開始する。
すると―――――――
『もしもし柊木!?大変なの!『モフィ☆』がッ!』
尋常じゃない焦り声の相川さん。
いったいどうしたのさ!
「『モフィ☆』がどうしたの!?』
『そ、それがよくわかんないんだけど、白沢先輩を出せって!客が店内で暴れ始めて!』
「わかった。とりあえず、そっち行くから!待ってて!」
『うん!とりあえず、こっちも何とかしてみる!』
通話を切り、みんなのほうを振り向く。
「おいおい、どうしたんだよいきなり。」
「……尋常じゃない感じだった。」
「「モフィ☆」が…。ぼ・・・いや、奏先輩のバイト先が…荒らされてるって…!このままだと相川さんが!」
「相川?まさか、『モフィ☆』って教授のお気に入りだって言ってたあそこか!とりあえず急ぐぞ!財団、ナビを頼む!」
「……承知…。」
ダッシュで玄関から出ていく二人。
しかし、この空間でただ一人。奏先輩は呆然と立ちつくしていた。
「私のせいで……みんなの、お店が……。」
完全に、力を失ってしまっている。
先輩の体は、膝からゆっくりと落ちていった。
ああ、またこの感覚だ。
触れるだけで、壊れてしまいそうなほど、脆くなってしまった先輩の顔。
もう、こんな顔させたくなかったのに…。
「私の…私のせいで…お店の人たちが…全部…私の…。」
「違う…」
違う。先輩は悪くない。
悪いのは伴野だ、先輩だって分かっているはずだ。
「私が付き合わなかったから…。言うこと、聞かなかったから。」
「違う…違う違う!」
伝えるべきじゃなかった。
間違えたのは僕だ。奏先輩には聞こえないように、
不慮の事態に弱い、そんな自分をここまで恨んだことはない。
「私が…私がぁ…ぁああああああ!」
先輩からこぼれた大粒の涙が、フローリングの線をなぞっていく。
なんで…なんで先輩が泣かなきゃならないんだ…。
なんで…。
「お兄ちゃん…?どうしたの?って、奏さん!?」
物音に気が付き、上から降りてきた千佳が、地面に蹲る先輩にかけよって背中をさする。
「お…お兄ちゃん?何があったの?」
「
「なに…?」
「先輩を…頼んだ。」
「ちょっと!待ってお兄ちゃん!まだ千佳は何もっ――――!」
僕はもう、玄関を飛び出していた。
もう、自分でも抑えることは出来ない。
今僕は、多分本当に怒っている。
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