・《お泊りするのは先輩ですか!?》- 1 -


「お兄ちゃんが…こんな時間に彼女を連れてきた…。」


かなで先輩を連れて帰ってきた僕。

その姿を見た妹の第一声がこれだ。


伸びきった部屋着のTシャツは肩まではだけており下は僕の部屋着の半ズボンを履いている。

僕と同じく茶髪の髪は年頃の女の子とは思えないほどにボサボサ。

折角いつもは綺麗なショートカットなのに、明日が休みだからか完全に油断しきっているスタイルだ。


「いや、というより中学…いや小学生…?まさかお兄ちゃん、ロリコンだったの!?お兄ちゃんのベットの下から小さな子専門のエッチな本があったからまさかとは思ったけど!」


「ま、待つんだ千佳ちか!流れるように僕のプライベートをカミングアウトしないで!というか勝手に部屋入るなよ!人の趣味嗜好は勝手だろ!?」


「小さな子の…エッチな本…?」


や…やばい。

ものすごく、先輩に睨みつけられている。

かつてないほどの殺気を感じるのは気のせいか!?


「で、でも!それを現実でやったら立派な犯罪だよ!こんな可愛くて小さい子捕まえてくるなんて!まさか家族から犯罪者を出すことになろうとは…。千佳悲しいよ…。」


そう言いながら、部屋着のポッケからスマホを取り出す妹。

まさか…。


「おい、泣きながらもしっかりと110押そうとするな!」


「だって!もう、こうするしかお兄ちゃんを救えない!」


「ねえ、柊木ひいらぎくん。私って、そんな小さな子に見えるのかな…?まあ分かってたけどさ…。」


「せ、先輩!落ち込まないで!うちの妹が失礼なこと言ってすみません!」


死んだ目でこちらを見る先輩。

いや、うん。正直見えなくはないけど…。


「ふぇ…?先輩…?この可愛い幼女が…?」


「よ…幼女!?さすがの私も、そこまで言われたことないよ!?」


「こら!こちら、うちの学校の先輩で『白沢しらさわ 奏』さんだ。いつもお世話になってる人なんだから失礼無いように。」


「え…と…年上なんですか!?えっと、初めまして!お兄ちゃんの妹で、『柊木ひいらぎ 千佳』って言います!先程は失礼しました!!」


「ううん大丈夫。自分でも小さいのは分かってるから。よろしくね?千佳ちゃん?」


「で、あの恐縮なんですが…お兄ちゃんとはどのような関係で…?」


「だから、学校のせんぱ――――」


「…彼女です♡」


「――――――いだってば!って言ったーッ!当たり前のように嘘ついたよこの人!」


「へ?本当に彼女?こんな可愛らしい人が、女顔で冴えなくてナチュラルサイコなお兄ちゃんの…彼女…?」


「千佳ッ!信じるなッ!お前は惑わされているだけなんだ!僕たちは付き合ってないし、何なら出会って二週間くらいしか経ってないから!って、実の兄をボロクソに言うなお前!」


「え…出会って二週間で?出会って二週間で家に連れ込んで・・・、どこまでプレイボーイなのお兄ちゃん!?若いからって、持て余してるの!?」


「ちょ、お前ほんとお願いだから黙って!先輩と僕、全然そんな関係じゃないから!というか如何わしい言い方するなよ!?何も持て余してないよ別に!!」


「…………うふふッ…。」


「ちょ、先輩も笑ってないで弁明してください!」


「いやぁごめんね、本当にからかい甲斐があるよね柊木くんって。」


僕たちのやり取りを見ていた先輩が、横で笑っている。

さっきの辛そうな泣き顔が、今は少し柔らかく、暖かくなっていた。


千佳の耳に顔を寄せ、奏先輩には聞こえないように囁く。


「おい、千佳…。」


「な、何?まさか、実の妹にまで手を…!?」


「ちがうわバカ。でもありがとう。初めて、お前のバカさに助けられたよ。」


「え?うん。それはいいけど、夜はあんまりベット揺らしちゃだめだよ?安ものなんだから。」


「前言撤回。やっぱ黙っとけお前。」


駄目だ。うちの妹は年頃のせいか変な知識で頭が上書きされてしまっている。

修正が必要だ…!


「とにかく奏先輩。どうぞ上がっていってください。何にもないところですが…。」


「どうぞどうぞ!お兄ちゃんが掃除してるだけあって無駄に綺麗なので、安心してください!」


「えっと、じゃあ、お邪魔します…。」


先輩に来客用のスリッパを出し、リビングに通す。

リビングには妹の脱いでほっぽり出した制服や、学校のカバンが散乱していた。


「おい、千佳。お前ほんと何度言ったら…」


「違いますー!今片付けようと思ったんですー!はぁー、やろうと思ってたのにお兄ちゃんに言われたからやる気なくしたわー!」


「お前は何かと理由つけて勉強サボろうとする小学生か!先輩も来てるんだし、早く片付けろよ!」


「はーい、分かってますよー。」


渋々片付け始める千佳。

あー、せっかくアイロンかけたのに、また制服がシワだらけになってる…。


「すみません先輩、あのバカのせいで汚くて。ご飯、すぐに作るんで適当にくつろいでてください。なにか苦手なものとかアレルギーってありますか?」


「ううん。特にはないよ。私に手伝えることってある?料理以外ならできるからさ。何もしないなんて出来ないし。」


「じゃあ、後で食器出すの手伝ってもらえます?」


「うん、分かった。あと、柊木くん?」


「なんですか?」


「さ…さっきはすぐに来てくれてありがとう。本当に嬉しかった。」


「あんな電話がきたら、そりゃ心配になってダッシュしますよ。」


「ごめん…。ほんと、お姉ちゃん失格だ私。柊木くんに迷惑ばっかかけて…。」


「迷惑じゃないですよ。ただ、先輩が辛そうなのが僕は嫌なだけです。」


「あの…その…。きちんと話すから。何があったのか。」


「その前に、まずは腹ごしらえです。すぐに作り始めますから、待っててください。」


「うん…。」


嬉しそうな顔を浮かべ俯く奏先輩。

よかった、さっきよりはだいぶ元気になったみたいだ。

僕も嬉しさのあまりか、顔が少し緩くなった。


すると…


「ねえ、お二人さん。早速妹の前でイチャイチャですか?」


「…おぉ!?千佳!?いつから後ろに!?」


「い…イチャイチャはしてないよ!?全然!」


「いや、なんかあったんだろうなーって言うのは分かったんだけど、にしては白沢さんの顔が赤いような…。」


「ふぇっ!?そ…そんなことないよね!?ね、ねえ!?柊木くん!?」


あからさまな動揺。

確かに言われてみれば顔が赤いような…。

まさか先輩…


「熱?ですか?」


「あーだめだ。これだからウチの兄は…。」


「え、なにが?」


「お兄ちゃん、分かってたけど残念だよ。とりあえず料理でも作っておいで?」


「え、なんだよ。教えてよ!」


「私は白沢先輩とゲームでもしてるから、料理は任せたよ!」


キッチンに追いやられる僕。

千佳は奏先輩の手を引き、テレビの前のソファへと連れて行った。


「さて、じゃあ作るか。」


冷蔵庫を開くと、僕が朝のうちにヨーグルトに漬け込んでおいた鶏肉があった。

そうだ、今日はカレーにしようと思ってたんだった。


いつもは健康のため、サラダ油ではなくオリーブオイルを使っているが、今日はバターだ。

生クリーム、トマト、スパイス各種。

さて、準備は整った。


今日のメインは『バターチキンカレー』にするか…。


僕はフライパンにバターをひくと、料理を始めるのだった。


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