・《ウラの事情は大変ですか!?》- 3 -


「先輩、今どこにいるんですか!?」


『秋葉原の駅前…。ごめんね、仕事で疲れてるのに…。』


「いいんです!今すぐそっちに行きますから!」


『私、どうしていいかわからなくて…。柊木ひいらぎ君しか、頼れなくて…。話せる人もいなくて…。』


時刻は十時になろうとしている。

こんな時間まで一人で何やってんだよあの人はッ!危ないでしょ!


「先輩、今すぐ行くんでそこにいてくださいよ?」


『うん。分かった。待ってる…。』


その言葉を残し、先輩のほうから切られた電話。

一体何だってんだよもう!


「ごめん相川あいかわさん!僕、行かないと!」


「分かってる、片づけは任せてくれていいわよ。なんか危なそうだし…。でもきちんと着替えて行きなよ?」


「流石、察しの良さには助けられるよ!じゃあ行ってくる!ありがとう!」


「行ってらっしゃい。任せたわよ、柊木。」


「うん!」


更衣室に入り、着替える。

かなで先輩が待ってるんだ。久しぶりに走るとしますか!


鞄に荷物を詰め込み、ダッシュで店の裏口から出る。


外はとても暗かった。

最近は日も長くなっては来たが、もう時刻は夜。

秋葉原の町は、店を閉めようとする家電量販店や電子機器店のシャッターを閉める音が響いている。


人々の間をかき分け、走る。


ゲーセンやパチンコ屋の狂騒。

コスプレをした居酒屋のキャッチ。


それらを全て振り切って、ただひたすらに僕は駅を目指し走った。


『魂の鼓動!輝け!オメ―――ン!ドライバあああああ!!!!!!♪』


すると、またポケットから着信音。何だこんな時に!



相手を見るとそこには我が悪友、篤志あつしの文字。

僕は走りながらも、通話を開始する。


「なに!?今忙しいんだけど!」


『悪いが俺も忙しいんだ!簡潔に聞くぞ!?』


「だからなに!?」


『お前と白沢しらさわかなでは、付き合ってんのか!?』


「…僕と先輩が付き合って―――・・・はあ!?」


『重要なんだよ!どうなんだ!?』


「なんで篤志が奏先輩のこと知ってるの!?付き合ってないよ!まあドキドキするそぶりはあるけども!なんでそんなこと聞くの!?」


最早付き合っててもおかしくない距離感で先輩がぐいぐい来るだけであって、僕らは付き合ってるわけじゃない!

そもそも、なんで僕と奏先輩が話してたことまで知ってるんだ!?


『白沢奏には彼氏がいるって聞いたんだ。それに過剰なまでに嫉妬している奴がいてな!相手は女顔の一年って聞いたから、お前しかいないと思ったんだが…。』


「過剰なまでの嫉妬!?それって、伴野ばんのって先輩のことじゃないの!?」


『…!?おまッ!?どこでそれを!?』


「やっぱりまた伴野か!で、ほかに用はある!?無いなら切るよ!?」


『ま…待て!まさかお前、白沢奏のところに向かってるのか!?』


「そうだよ!多分、僕の嫌な予感が当たってると思うんだけど!」


『白沢奏に何らかがあったってことか…。あんのクソ伴野、どこまで執着心が強いんだよ!』


「とりあえず、僕が先輩と話すから!切るよ!いいね!?」


『わ、分かった。そっちは任せたぞ!』


「言われなくてもッ!」


電話を切る。


気が付くと、僕は駅前についていた。

身体は火照り、汗はダラダラ。

額から垂れた雫が、僕の視界を邪魔しようとする。


それでも僕は、目を凝らした。


「奏先輩…。」


いた。

駅の掲示板が内蔵された柱に体を預け、静かに俯く先輩の姿がそこにはあった。

今日は学校が休みだというのに、なぜか制服姿のまま。


僕は急いで駆け寄る。

すると、奏先輩もこちらに気が付いたのか、ゆっくりとこちらに向かってきた。


「先輩…何があったんですか?」


「…………。」


答えない。

ただ、何か考えているような、悩んでいるような、そんな不思議な表情をしている。


「先輩?」


「……どうしていいか、分からないの。」


「何が…ですか?」


「……写真見せられて、脅されて、ばらすぞって言われて…。」


ボロボロと涙を落とす。

俯いた彼女の眼鏡に、大粒の雫が落ちてゆく。


「このままじゃ、柊木君も、お店も、私の居場所も…。全部、全部なくなっちゃう…。」


「……。」


先輩が僕の服をギュッと掴み、泣いている。

僕はただ、そんな彼女の頭を撫でることしかできなかった。


なにがあったのか。

その全てを理解することは今の僕には不可能だ。


でも、今の時点でわかることは一つある。


それは『奏先輩が傷ついた』という事実だ。


僕にできること。

何かきっとあるはずだ…。

奏先輩を、少しでも元気づけられるように、僕にできることが—―――


「先輩…。ここじゃ何ですし、僕の家に来ませんか?おいしいご飯、食べましょう?」


「え……?」


「何があったのか、話せるようになるまで、僕がそばにいますから。あ、家には妹もいますし、いかがわしい意味ではないですからね?」


「分かってる、分かってるよ…。」


涙を指で拭きながら、見上げてくる先輩。

僕の取り柄なんて、このくらいしかないからね。


「迷惑かけてごめんね、柊木君…。」


「大丈夫です。ほら、行きましょう?電車、来ちゃいますよ?」


「うん…。」



奏先輩には何かがあった。

篤志も、相川さんも言ってた『伴野』って男が絡んでるとみていいのだろうか?


何より、さっき先輩の言っていた『写真』とか『脅す』とか『ばらす』って、どういうことだ…?


謎は深まっていくばかりだ…。


奏先輩の家は家と同じ路線の二つ先の駅らしく、方向も同じらしい。

僕の家の最寄り駅が定期範囲だったのは、少し驚いた。


僕たちは、帰宅途中の疲れ果てたサラリーマンだらけの電車に揺られ、帰路に就くのだった。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る