・《優しい先輩はワケ有りですか!?》- 2 -
するとふと、僕を違和感が襲った。
何だろう…なにか…。なにかを忘れてる気が…。
「……
「そんな子供じゃないんだから…。違うんだ、なーんか忘れているような気が…。」
「……忘れ物…?」
「え、忘れ物…?あっ!」
そうだスマホ!机の下に入れっぱなしだった!
感じた違和感って、ポケットに物が入ってない違和感か!
あーすっきり!
「ごめん!スマホ忘れてきちゃった!取ってくるから、先下駄箱行ってて!」
「……別にいいが、自分だけ逃げるなよ?」
「逃げないよ、それに言い出しっぺは僕だしね!」
「……そういうことなら了解した。先、下に行ってる。」
「ごめんね!すぐ戻ってくるから!」
そういえば朝から机に入れっぱなしだったよ!
バイトの連絡もあるし、何より奏先輩との唯一の連絡手段だ。忘れるわけにはいかない。
急がないと―――――・・・!
一気に階段を駆け上がり、廊下を突っ切って教室へと戻る。
「よかったあ…気が付いて。」
教室の中には、ほとんど生徒は残っていなかった。
暖かい夕日が差し込むオレンジ色の教室は、なんだかとても幻想的だ。
僕の机からスマホを取り出し、ポケットに入れる。
そうそう、この異物感。
これがないと落ち着かないんだよね…。
誰もいない静かな教室を後にし、僕は来た道を戻る。
さっきは急いでいてわからなかったけど、廊下もきれいなオレンジ色だ。
窓の外の景色を見ながら、ゆっくりと歩く。
見慣れた学校からの街並み。高くそびえるビル群。
ガラス張りのビルの側面が夕日を反射し、輝いている。
暖かくて、やさしい。
こんな都会の中にも、こんな光があるんだなぁ…。
らしくもなく、そんなことを考えていると…。
「きゃっ!?」
「うおッ!?」
聞こえてきたのは可愛らしい女の子の声。
景色に魅入られていたからか、前も見ず歩いていた僕。
どうやら思いっきり女の子にぶつかってしまったようで、女の子は尻もちをつき、転んでしまっていった。
「だ、大丈夫ですか!?」
すぐに駆け寄る。ああ!本当に申し訳ない!
「…大丈夫です…。私、前見てなくて…。」
「そんなそんな!僕だって前を見てなくて!すみません!」
すぐにしゃがみ、怪我がないか確認を…!
確認…を…。
「―――—え?」
僕は、目を疑った。
その女の子は、オレンジ色の髪をしていた。
いや、正確には透き通るような白というべきか。
夕日が美しく伸びた白髪へと反射し、オレンジに見せている。
髪は両側でお下げにしており、大きな赤眼鏡。
その眼鏡の奥の目はどこか虚ろで、暗い印象を受けるものだ。
一見地味で暗い文学少女。
しかしその髪の色は彼女を隠すことはせず、彼女の絶対空間を作り上げていた。
でも、僕はこの人を知っている。
初対面のはずなのに、僕は知っている。
でも、どうして…!?
「
「ひ、人違いですッ!すみません!急いでいるのでッ!!!」
焦って様子で立ち上がる女の子。
彼女は顔をできるだけ下に向け、全速力で駆け出した。
「せ…先輩!待っ―――・・・ッ!」
追いかけるため、僕も走り出そうとする。
が、なんとタイミングが悪いことか、ポケットのスマホが鳴り出した。
篤志から電話か…乗り気じゃないけど、待たせちゃってる。出るしかない。
「もしもし?」
『望、何やってんだよ。スマホ回収したなら早く行こうぜ。教授もきたしさ。』
「ん、分かった。今行く。」
『どうした?なんかあったのか?』
「いや、何でもないよ。すぐに行く。待たせてごめん。」
『お…おお。何があったかはわからんが、とりあえず待ってるぞ。じゃあな?』
「うん…。」
こっちから、通話を切った。
ごめん篤志。
僕は今、色々と考えがまとまってないんだ。
「黒髪じゃ…ないじゃないか…。」
まだ、確証があるわけではなかった。
雰囲気は似ても似つかない。でも、どうしても別人だとは思えない。
もし奏先輩の言ってたことが嘘だとしたら…。
でも、なんでそんな嘘を?
「ああ、なんでだろう…。もやもやする…。」
頭をかきながらスマホをポケットに戻す。
今は考えても仕方が無い、とりあえず篤志たちのところに戻らないと。
そう思って歩き出そうとしたとき、偶然にも彼女が尻もちをついた場所に何かがおちているのを見つけた…。
「これは…。」
生徒手帳だ。
この学校の生徒手帳。
僕はそれを拾い上げ、顔写真が貼ってある裏面にひっくり返した。
「やっぱり…そうなんですね…。」
その瞬間、僕の疑問は確証へと変わった。
もう僕は驚きもしなかった。
その事実を淡々と受け止め、考える。
『彼女』について。
記されていた事実はたった二つ。
『先程の地味な少女の顔写真』と
その横に記された『2年1組
たった、それだけ。
たったそれだけの『事実』だ。
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