・《優しい先輩はワケ有りですか!?》- 1 -


キーーーーンーコーーーーンーカーーーーンコーーーーーン


今日の終わりを告げるチャイムが鳴った。

ああ、学校はバイトとは別の意味で疲れるよ…なんでだろう。


ゾロゾロと帰宅する生徒がいる中、僕は寝ぼけ眼で机から起き上がった。


いつも授業中にスマホを机の下に入れて授業の時間を潰すのが日課の僕だけど(マネしちゃだめだよ)、今日ばっかりはスマホもいじることなく爆睡してしまった。




それにしても昨日はいろいろと大変な目に遭ったけど、今日は女装メイドはお休みだ。

ゆっくり羽を伸ばして、遊びつくそう。


「ねえ篤志あつし、今日は寄り道でもしていかない?」


ふと、隣の席の悪友に声をかける。

最近何かと忙しそうだが、久々に遊ぶのも悪くはないだろう。


「ん?今からか?」


「うん、最近付き合い悪いからさ。みんな誘って寄り道していかない?息抜きにさ。」


「うーん、そうだな。最近は誘いを断ってばっかだったし、俺も悪いと思ってたんだ。」


「じゃあ決まりだね。」


「あ、でも相川あいかわはバイトだからって先帰ったぞ。」


「あー。相川さんも忙しそうだね。ウェイトレスのバイトって言ってたけど大変だろうなあ…。」


同職と言っていいのか分からないけど、僕も接客業をやっている身だ。大変なのはよくわかる。


頑張り屋さんなところがある彼女のことだ。無理はしないようにしてほしいけど…。


「ああ、あの気の強い相川があんな…大変だろうよ…。」


「ん?篤志、何か知ってるの?」


あんなって、まるで何か知っているような口ぶりじゃないか。


「い、いや…なんでもない…。ただ…。」


「ただ?」


「世の中、世知辛いよな…。」


「何の話…?」


篤志がしみじみとした顔で窓の外を見つめている。

相川さんのこと、この男は知っているのか…?


疑問に思った僕だったが、篤志はそれ以上話す気がないのか、悟ったような顔をして窓の外を眺めていた。


嗚呼、駄目だ。

聞くタイミング逃しちゃったな。


「じゃああとは…財団と教授かな?」


仕方なく、僕は話の流れを戻す。


「財団は呼べば来るだろうし、あとは教授だろう。」


「そうだね。」


「……教授は今日、部活がないから暇だと思う…。」


天井から声が聞こえた。


ん?

天井から…!?


「財団!?」


頭上から聞こえた声の主は、『神出鬼没の擬人化』財団である。

って、教室の天井に張り付いてる!?

最早、どんな意図で行動しているんだ!?


「……こんな格好ですまない。急いできたものでな…。」


「普通、急いでいたら天井には張り付かないと思うんだ…!」


「……ゲーセン行くっていうから…楽しみになっちゃって…。来ちゃった♡」


「何その遠距離恋愛中にサプライズで家に来た彼女みたいなセリフ…。」


忍者もびっくりの身体能力だなアンタ…。

頑張ってしがみついているせいか、手足が小鹿のように震えている。


いや、もう降りて来いよ。


「よし、あとは教授だな。」


「もはや財団の登場に驚いてないのがすごいね…。」


篤志は当たり前のように話を続ける。

慣れって怖い。



「じゃあ望。教授にruinしといてくれ。俺は帰りの準備を…」


待て待て待てい!

出た出た!女心分からないマンがよォ!


「いや、多分篤志が連絡したほうが確実だよ。」


「……そうだな。ここは篤志が連絡しろ。」


僕と財団は同時に身を乗り出して篤志に言う。

やっぱ考えることは同じか。


これで少しでも、教授の気持ちに近づければ……ッ!



「それはいいけど…なんで?」



……………………。



「は?」(キレそうな僕)


「え?」(本当に分かってなさそうな篤志)


「……はあ…。」(思わずため息をつく財団)


なんだコイツ。なめてんのか?


「ねえ篤志。本当に気が付いてないわけ?」


「何がだ。」


ああもうだめだ。

わからない顔してる。


鈍感もここまでくると哀れだよ!


「……望。折角チャンスを作っても、この馬鹿には無意味だ。」


「待つんだ財団、それじゃあ余りにも教授がかわいそうだよ…。ここは意地でもッ!」


「……ううむ、そう…だな。ここは二人で、協力するぞ。」


そう。

教授の気持ちを僕らは知っている。


直接教えてもらったわけではないが、余りにもあからさまだ。


だからこそ、僕らはこの男に気づかせなくてはならない。

それが、友達としての義務であり、知ってしまった代償だ。


財団、君と手を組むのは不本意だが…。


超協力プレーで、気づかせてやるぜ!



「どうしたんだお前ら…?」


疑問顔を浮かべた篤志。

それに構わず僕は篤志に聞いた。


「ねえ、教授って篤志とよく連絡してるんじゃない?」


「いきなりなんだよ?」


「いいから!どうなの!?」


「ん?まあ、人並み以上には連絡してるとは思うぞ?教授の実験がうんたらで…。」


教授ってやっぱり積極的だな。


予想通り、僕の考えは当たった。

人並以上と篤志は感じている、ということは『一般よりは特別な位置にいる』証明だ。

教授を意識させるには、まず周りと差別化しないと!


「……それに、趣味の話もよくしてる…。」


僕に続くように財団も口を開く。


ナイスだ財団!

趣味の共通点はより意識を向けられる!うまい!


「ああ。俺が好きなゲームとかの話すると、教授が興味持ってやってくれるんだよ。共通の趣味できるのは楽しいよな!」



そこじゃねええええええ!

気が付けこのバカ!


目を輝かせて『楽しいよな!』じゃねえよ!

どう考えても教授がお前の好きなものを理解しようとして行動してるでしょ!?

なんで気が付かないかなぁもう!


「ねえ財団…こいつ駄目だよ…。教授、相手間違えちゃってるよ…。」


「……こればっかりは教授の問題だ。ワタシには、このバカの息の根を止めるくらいしか…。」


やはり、俺たちでは力不足なのか…。

教授が悲しむ。そんなのを見るくらいならいっそ、このバカを―――・・・


「死こそ、救い…。」


「……死こそ救い…。」


「お…おいお前らどうした!?すっげえ禍々しいオーラが見えんぞ!?」



殺るしか…ない!



「オアアアアアアアアアアアアアア!!!!」


「の…望待て!人が出しちゃいけない声が出てるぞ!?」


「……篤志、今すぐ教授に連絡をしろ…。さもなくば…」


「財団!?いつの間に後ろに!?わ、分かった!するから!」


「オワアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」


「って、うるせえ!お前は落ち着け!」


「……10…9…8…」


「財団はカウントダウンするな!えーっと『いまからゲーセン…』っと。送信!」


「……4…3…2…」


「おい!カウントやめろって!(ピロリ♪)…お?教授行くってよ。にしても返信早いな…。」


僕たちにruinの画面を見せてくる篤志。

えーと、なになに…。




『いまからゲーセン一緒に行かないか?迎えに行くぞ。』(既読済み)


『まってふ』




「あっ…、ふーん…。」(何かを察する僕)


「……最悪の未来が見える…。」(頭を抱える財団)


これ、絶対勘違いしてるでしょ。

教授動揺して誤字ってるじゃないか!


「もうこれ、今日は僕ら行かないほうがいいのでは…?」


「何言ってんだ望。言い出しっぺはお前だろ?ほら、今日は遊びつくそうぜ!」


「………望…。ワタシはパスで…。」


「逃げることは許さんぞ紙袋。貴様も道連れだ。」


「……気が重い…。」


「何つべこべ言ってんだ。先、教授迎えに行くからなー。下駄箱で待ち合わせするぞ。」



荷物をまとめ、教室を出ていく篤志。

それを追いかけるようにして、僕と財団も教室を出た。


ああ、キューピットも大変だよ…。


このキューピットの矢が殺傷能力さえあれば、嫉妬と怒りに狂って奴を射抜く(物理)できるのに…。


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