・《バイト仲間を紹介ですか!?》- 3 -
「おかえりなさいませだニャン♡ご主人様!のぞみん、頑張ってご奉仕するニャン♡」
ホールの真ん中。
多く並ぶ4人がけのテーブルを周り、元気いっぱいに挨拶をし、招き猫のポーズをして接客する『のぞみん』こと
私はその光景を前に、ただただ唖然としていた。
「な…何が起こってるんだワン…。」
私、
胸の痛みを訴え、倒れた柊木くんこと『のぞみん』が、目を覚ました途端に様子が変わったからだ。
柊木くんは見た目はアレだけど男の子。
もちろん女装メイドなんか嫌なわけで、彼自身かなり仕事には消極的だった筈なんだけど…。
「のぞみんの特性オムライスだニャー!ご主人様は、ケチャップで何を描いてほしいニャン?」
「じゃ、じゃあ『かまつちゃん』で…///」
「かしこまりましたニャー!のぞみん、頑張ってお絵描きするニャン♡」(カキカキ)
「ぐへ、可愛え…ぐへへ……って、ケチャップの使い方上手いなおい!?」
「のぞみんはぁ…お絵描きには自信があるんだニャン♡褒めてもらえて嬉しいニャー♡」
赤面しながらも接客には全力の のぞみん。
「あのノリノリのメチャクチャ可愛い猫メイドさんは誰なんだワン!?!?」
思わず声に出してツッコんでしまったよ!!!
のぞみんが接客しているお客さんも鼻の下伸ばしまくりだし!
オムライスにかけるケチャップのイラストは物凄く上手いし!!
というか、本当に女の子にしか見えないよ!
もう何がどうなってるの!?
「もうダメだワン…。私の常識が…唯一まともだと思ってた『のぞみん』まで、私は救えなかったワン…。」
だ…誰か!
誰か私に、色々と説明を!
そんな困惑する私の方に、ポンと手を置いてきたのは店長だった。
「奏ちゃん。アレがのぞみんの本当の力よん♡」
「て、店長…?」
「あれを見なさい♡」
店長が指をさしたのは、元気いっぱいに働くのぞみん。
一見、普通に見えるこの光景。
しかし…問題は『のぞみん』ではなかった。
「な…なんだワン…。これ…。」
「どうやら、分かってしまったようねん♡」
私が驚愕したのは、のぞみんの後ろだ。
ガラス張りの自動ドアの先、『ケモミミメイド喫茶モフィ☆』の前の通りである。
そのガラスの壁一体に、大勢の男性客が集まり、そのすべての目線が『のぞみん』に向けられているのだ。
それはまるで、ショッピングモールに群がるゾンビの様な…。
はたまた、餌を求めてさまよう亡者の様な…。
壁の向こう側の人たちは皆、鼻息でガラスが曇り、血走った目で『のぞみん』を見つめていた。
「こ、これは…どういうことだワン?今まで、こんなお客さんの量なんか見たことないワン!?しかも今日は平日の夜だワン!?」
「これが、『のぞみん』の『覚醒』って訳ね♡私達はどうやら、彼の力、『男難の相』を見くびっていたようねん…♡」
「これが…のぞみんの覚醒…?でも、彼にいきなりなにがあったか…全然分からないワン…!」
「更衣室に、こんなものがあったわ♡」
店長が取り出したのは、ドリンク剤の空のビンだった。
えっと、なになに…?
「これは・・・。『マエムキナール』って書いてあるワンね。というか店長?いくら店長でも更衣室は女性用じゃ…。」
「情報屋の財団ちゃんに聞いてみたところ、このマエムキナールは
「私の指摘はスルーだワンね…。前舞ちゃんっていうと、あの白衣の子だワン?私はあまり関わりないけど、昔色々話したワンね。可愛い子だったワン。」
昔、オドオドしながらお店に入ってきて、何やら不安な表情だった彼女を放ってはおけずに、話しかけたことがあった。
その時に名前も聞いたんだけど、そういえばそれ以上のことは私は聞いてなかったなぁ…。
クラスに馴染めないとか、帰国子女だから日本のことがわからないって、色々相談されたっけ。
今でもちょくちょくお店に来てくれていて、顔を見かけることも多い、常連さんだ。
「それがね、これを作ったのが前舞ちゃんなんですって。これはまだ試作品段階らしくて、誰かが『前向き』って言った途端に意識を失って、目覚めた後は人が変わったように前向きになるって聞いたわよん♡」
前舞ちゃんが作った!?
一体彼女は何者なの!?
「え…。のぞみんの現状に酷似してるワン。」
「そうなのよん♡ねえ、奏ちゃん?のぞみんに、『前向き』って言わなかったかしらん?」
「のぞみんが倒れる前?言った覚えはないワンね…。」
私は、柊木くんとの事務室での会話を思い出してみる。
〜回想〜
『そうだワン!これは『ポップ♡ガシャドクロ』っていうアニメ作品のイベントに行った時に撮った着ぐるみさんの写真だワン。』
『へぇ、上手く撮れてますね。雑誌の写真みたいです!』
『でしょでしょ!これ、「1枚撮ってもいいですか?」って言った手【【前、向き】】とかポーズとかにこだわっちゃって時間かかっちゃったんだワン!あれは中の人に迷惑かけちゃったワン…。』
〜回想終了〜
「あっ……。」
言ってる。
私、思いっきり言ってる!
「その様子だと、奏ちゃん言ったみたいねん♡」
「不慮の事故ですワン…。でも言ったことには変わりないですワン…。」
「あらあら♡やっぱり言ってたのねん♡ほんと、のぞみんはついてないわ♡」
「え、えっと!私、どうしたら!?なんとか彼を正常に戻さないとダメだワン!」
「いいわよん♡気にしないで?マエムキナールの効果は三十分程度で切れるらしいから。」
「…三十分?ちなみに、効果が切れたらどうなっちゃうんだワン?」
「脳の容量がオーバーしてぶっ倒れるらしいわ♡」
「なんでそれを早く言わないワン!?…えっと。のぞみんが起きてから、もうあと一分もないワン!?」
「奏ちゃん!急げ♡先輩の見せ所よ!」
「こんな所で見せ所は欲しくないワンね!今行くワン!のぞみん!」(ダッ!)
「あっ!奏先輩!僕、やりました!やりましたよ!これで………キュウ……。」
「のっ…のぞみいいいいいん!!!」
獣が首を絞められた時のような声とともに、白目を向いて倒れる柊木くん。
私はその体をなんとかキャッチし、その場はなんとか収まったのだが…。
よく倒れたり、意識なくなったり、女装させられてたり、手のかかる後輩だよ柊木くんはっ!
でも心のどこかで、そんな頑張ってる彼を可愛がってしまってる自分がいるのも、また事実なんだけれど!!!
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