・《バイト仲間を紹介ですか!?》- 1 -
ここは店内から中は覗けない位置にあるため、教授や財団の言っていたような『夢を壊す』ことはないのだろう、普通に男の人も働いているのが見える。
「はえー。やっぱメイド喫茶でも、キッチンはしっかりしてるんですねぇ。」
「まあそうだワン。メイド喫茶とはいえ、ある程度料理は提供するから、キッチンはしっかりしてないといけないワン。」
「オムライスとかよく見るんですけど、やっぱりケチャップでハートとか描いたりするんですか?」
「たしかにそれが一般的だとは思うワン。私の場合は、私の好きなドクロのマークを描いたり、ワンちゃんを描いたりしたりするワン。」
「なんでもありなんですね。」
「ここはお客さんも働く側も楽しめるのがモットーのお店だから、何かと不自由はないワンね。私も、働いてて楽しいと思うことが多いワン。」
『ケモミミメイド喫茶 モフィ☆』という名前からして、コテコテの萌え萌え系メイド喫茶だと思っていたが、どうやら僕の勘違いだったようだ。
たしかに王道メイド喫茶要素は残しているものの、なんというか暖かい感じがするのは何故だろうか。
可愛い服を着て、接客して、お客さんと喋ったり、同僚と喋ったりする。
色んな『たのしい』を秘めたのが、このお店なのかもしれない。
「お?君が噂の男の娘かい?」
そんなしみじみとした僕の気持ちをぶち壊す、妙に飄々とした声が僕と
顔を上げる。
正確には、顔を上げなきゃならないほど身長が大きい。
僕の身長は165とまあ高校生にしては小さいわけだが、それにしてもこの男は大きい。185くらいあるんじゃないか?
髪型は金髪のショートカット。
目が細いながらも整った顔つきがむしろ目をミステリアスに見せており、身長の大きさと相まって余計に魅力を上げている。
「…
「いやー望君かぁ…。メイド服すごい似合ってるねえ!俺が女装するよりも可愛いんじゃない?」
「なぜ評価基準が自分なんですか…。」
「え、だってほら。俺、イケメンだし?」
「は?ころ…」
おっと危ない危ない。
自分でも無意識にムカついてしまった…。
「今、殺すって言おうとしたよね!初対面なのに!」
「い…言ってませんよ。」
「のぞみん、この絶妙にムカつく人が
「奏ちゃん!?なんで1回罵倒を挟んだの!?というか、奏ちゃんもムカつくって思ってたの!?」
「正直、初対面から生理的に無理だったワン…。」
「一年前から思われてたのかよ!俺、イケメンだし性格いいし、モテる要素はあってもムカつかれる要素はないでしょ!?」
「「それですよ(だワン)」」
この人、まじで理解してないのか!?
奏先輩がこんなゴミを見るような目をしてるの、昨日から合わせてもみたことないよ!
嘆く柳瀬先輩。
その後ろから、また少し大きな影が現れた。
「おい、柳瀬。サボってるんじゃない…って、…おお、新人の男子か。」
現れたのは、腰まで長く伸びた黒髪が特徴的なお姉さんだった。
身長が僕より高く、キッチン担当の名札をつけているのにメイド服を着ている。
頭にはヘッドドレスと鳥の羽のようなものを付けており、目は鋭いツリ目。
まさに、かっこいいお姉さんって感じだ。
そしてなにより………。
「乳がでかい!」
「の、のぞみん!?いきなり何を言い出すワン!?」
そう、乳がでかいのだ。
そりゃあもう、はちきれんばかりにメイド服のエプロンが盛り上がり、バインバインしている。
なんだろう、今まで奏先輩のロリ体型ばっか見てきたからだろうか、余計に大きく見える。
「またこの顔、私に失礼なこと考えてるワン…。」
「なあ『かなかな』。この新人君は、少しおバカさんなのか?」
「普段は普通なんですワン。ただ、不慮の事態には弱いワン。」
「そ…そうか。可愛いじゃないか。おい、新人君。自己紹介をしよう。」
手を差し出してくるお姉さん。
女性経験が乏しい僕にとっては、かなりドキドキするシチュエーションだ。
「え、あっ!?はい!?えっと、柊木望と言います!よろしくお願いします!」
「望か…いい名前だな。私は
どうやら握手を求めてきているようで、僕は困惑する。
おいおい大変だよ!見た目だけじゃなく名前すらもかっこいいよ!全然名前負けしてないよ!
アニメのキャラクターかよあなたは!?
「は…はい!よろしくお願いします!」
僕は差し出された手を握る。
すると御剣先輩は優しく笑い、また手を握り返してきた。
ん?
なんか、手つきが…変だな。
「み、御剣先輩?」
「ん…?あぁ!すまん!痛かったか?」
急いで手を離す御剣先輩。
なんだろう。僕の身体が、店長と出会った時みたいに震えている。
僕の本能が、逃げろと叫んでいる気が…。
「と…ところで、望は
「え?ruinですか?まあやってますけど…。」
「あ、御剣先輩ずるいワン!私だってまだ交換してもらってないのに!」
「え、待って奏ちゃん。俺がruin聞いた時、やってないですって言ってなかった?」
「柳瀬先輩。時に、人はやさしい嘘をつくものだワン。」
「それ遠回しに『お前には連絡先さえも知られたくない』って言ってるよね!?流石に酷くない!?」
「正直、こうやって接するのも嫌だけど、今回は仕方なくのぞみんのために来ただけだワン。ほんと、お願いだから勘違いしないでほしいワン…。」
「ツンデレとかではなく本気の拒否だよ…。なにが君をそうさせてしまうの…。」
正直、奏先輩の気持ちが分からないでもない。
柳瀬先輩、ruinとかめっちゃ送ってきてうるさそうだし…自慢話とかされそう…。
「で、望!どうなんだ?こ、ここ、交換してくれるのか!?」
「え、まあいいですけど。」
なんだこのお姉さん。やけにグイグイ来るなおい。
「わ…私も、のぞみんの連絡先は知りたいワン!ほら!仕事用に、ね!?」
「わ、分かりましたよ。じゃあ、柳瀬先輩以外には後で教えますから…。」
「なんで俺だけハブられてんの?」
「なんか…ムカつくから…ですかね?」
「なんで初対面なのにこんなに嫌われてんの?」
ほら、人の印象は出会って数秒で決まるって言うし…。
「の…望!じゃあ私と、繋がろう!な!?」
それに割って入ってくる御剣先輩。
もうすでに、色々察せるほどの食い付きだよ!
「なんでわざわざそんな意味深な言い方を!?」
やばい。登場時は普通かと思ってたけど、御剣先輩の目が血走ってきているし、ヨダレもダラダラ垂らしている。
やはりこのお姉さんからは、ヤバイ匂いがプンプンする!
「のぞむっ…!ハァ…ハァ……、望ぅ…!」
怖えよ!
こいつが一番まともじゃないよ!!!
「か、奏先輩。御剣先輩ってまさか…。」
「そうだワン。御剣先輩は年下の男の子が大好きな人だワン。しかも女装男子がどストライクの特殊性癖の持ち主だワン。」
「それ僕が格好の餌じゃないですか!?」
「話には聞いていたけど、ここまでとは私も思ってなかったワン。のぞみんの敵は店長だけじゃないことは、否定はできないワン…。」
とりあえず、こんな状況になった時、どうすればいいかはよく知っている。
己の持つ、全身全霊。
すべてを使って―――
「逃げましょう!!」(ダッ!)
「それは賛成だワン!」(ダッ!)
「あっ、待ってくれ!せ、せめて!下着の色だけでも!」
誰が教えるか!
「なんで俺だけ…。なんで…、俺はイケメンなのに…俺だけ…。」
事務室に逃げ込む私たちの背後で、御剣先輩の叫びと共に、柳瀬先輩のムカつく独り言が聞こえてきたが…。
そちらはあえて聞こえないふりをした。
というか、よくこんな人たちで経営できてるなこの店!色々大丈夫なのか!?
というツッコミは、もうするまでもないだろう。
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