・《バイト仲間を紹介ですか!?》- 2 -
「の、のぞみん?体が震えてるワン?大丈夫かワン?」
事務室に入ると、僕らは昨日僕が寝ていたソファに2人で座り、息を整えていた。
「だ…大丈夫です。昨日も、こんな事ありましたから。」
この異常な状況に、完全に適合し始めてしまった自分が怖くなってきたよ…。
「いや、それは普通の人間があまり体験することのない恐怖だと思うワン。」
おっしゃる通りです。
「で、次は何をすればいいですか?今、丁度シフト半分終わったくらいですけど…。というかほとんど僕は仕事してないんですけど!」
なんやかんやあったが、変人ばかりのこのお店のせいで僕は、初仕事だというのにそれらしいことは全く出来ていない。
メイド服を着て、先輩に撫でられて、キッチンの人達に自己紹介をして、逃げてきただけである。
むしろこれでお金をもらうのが申し訳なくなってくる…。いや、僕に非があるわけじゃないけどさ!
「大丈夫だワン。今日は人も少ないしなんとかなるワン。」
「すごい楽観的だぁ。」
このお店、本当にどんなにシステムでやっていけてるんだろう…。
「この後は少し休憩を挟んで、あとは店内の掃除とか洗い物とか裏方の作業だワン。いきなり接客はさすがに難易度が高すぎるから、今日は掃除をしっかりやっていくワン!」
「掃除なら、なかなか自信ありますよ?」
「ん?のぞみんは家事が得意なのワン?」
「まぁ、両親がアレでして…。人並み以上にはできるようになってしまいました。その両親のせいで、僕もバイトを強いられてるんですけどね…。」
「詳しくは聞かないけど、のぞみんは本当に苦労人だワンね…。お姉ちゃん相談なら乗れるからいつでも言ってね?」
「あはは…ありがとうございます。あ、先輩、相談ついでにひとつ聞いてもいいですか?」
「なんだワン?」
「先輩の髪の色って、ものすごく綺麗な銀髪、というか白髪?ですけど、それって地毛なんですか?ピンクのメッシュはエクステってのは分かるんですけど…。」
「ん?あーこれ?もちろんウィッグだワン。地毛は黒髪だワンよ。真っ黒だワン。」
え、そうなの?
先輩の黒髪って、想像出来ないんだけど!
でも日本人でこの髪色っていうのもいるわけないもんな…。
「あーやっぱりですか?あんまり自然で綺麗だからビックリしましたよ。」
「最近のウィッグはなかなかよく出来てるワンねー。本物の髪と見分けがつかないことがなかなかあるんだワン。何なら、ウィッグ取ろうかワン?」
「え?いや、なんかそれは夢が壊れそう…というか、先輩はそのままのイメージでいて欲しいのでいいです!」
「そう?それならいいけど…なんだか少し照れるワン。」
頬を少し赤らめる先輩。
怖いもの見たさでウィッグを取った姿も見てみたくない訳では無いが、なにより今の先輩が壊れてしまうのが恐ろしい。
今度、バイト外で会ってみることにしよう。
ん、そういえば…。
「あ、そうだ。先輩、連絡先今のうちに交換しておきます?」
先程の連絡先がどうたらという件を思い出し僕はスマホを取り出す。
「それはいいアイデアだワン。私も店長から『接客はいいからのぞみんの面倒を見てやってあげてん♡』って言われてるんだワン。連絡先は知っておかないと困るワンね。」
「じゃあQRコードで…。」
「あ、わかったワン。これだワンね。」(ピロリン♪)
「よし、これで交換できました。ありがとうございます。」
「いえいえ、こちらこそこれからよろしくだワン。あ、のぞみんのアイコン『
先輩、結構サブカルとか詳しそうだもんね。
でもこれ『御面ドライバー』のなかでも、ネット配信しかされてないマニアックなやつなんだけどよく分かったね…。
「あ、バレちゃいました?小さい頃から大好きで、いまでも特撮好きが抜けなくてですね…。先輩はこれ、着ぐるみですか?先輩がつけてる、ドクロのキャラクターですねこれ。」
「そうだワン!これは『ポップ♡ガシャドクロ』っていうアニメ作品のイベントに行った時に撮った着ぐるみさんの写真だワン。」
「へぇ、上手く撮れてますね。雑誌の写真みたいです!」
「でしょでしょ!これ、「1枚撮ってもいいですか?」って言った手前、向きとかポーズとかにこだわっちゃって時間かかっちゃったんだワン!あれは中の人に迷惑かけちゃったワン…。」
奏先輩、結構行動力あるよなぁ。
こーゆーイベントとかに行く所とかもそうだけど、抱きついてきたりとか撫でてきたりとか、かなり積極的で・・・その…、勘違いしちゃう。
あれ…?
なんか胸が痛い………。
心臓が…どんどん早くなってきて…。
「分かります…こだわりたいですよね…ポーズと………か………うっ!!!」
「ん?ど、どうしたワン!?のぞみん!?」
「わ、分からないですけど!なんか、心臓が早くっ!なって……!」(ドクンドクン)
「だ、だだだ大丈夫!?と、とりあえず落ち着いて!お水!お水持ってくるから!」
「す…すみません…お願いしま……。」
あぁ、体に力が入らない。
なんでいきなり…こんな…ことに…。
「
どんどんと、意識が遠のいて行く。
奏先輩の声も、どんどんとフェードアウトして行き…。
「柊木くんっ!!!!」
そして僕の意識は、完全な闇の中へと落ちた。
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