【メニュー2】ケモミミメイドの初仕事!

・《初のバイトは女装ですか!?》- 1 -


「ちょっと財団!?君のせいで酷い目にあったよ!というかこれから酷い目に会い続けるよ!」


僕の叫びは、ホームルーム四十分前の静かな教室に響きわたる。

教室には幸い人は少なく、しかもいつものメンバーの中では教授と財団しかいなかった。


「……まあ落ち着けのぞむ。」


「これが落ち着いてられるかぁ!君のせいで僕は、僕はァ…!」


「………いや、ワタシも6割くらいは済まない思っている…。」


「残りの4割は?」


「……正直楽しみ。」


「畜生!やっぱり味方なんていないじゃないか!」


「……それにしても、働き口が見つかってよかったな。これで望の妹も安心だ。」


「貴様はメイド喫茶で女装して働く兄がいても安心なのか!?」


「……正直ドン引きじゃすまない。」


「なるほど。やはり僕とお前は戦うことでしか分かり合えない!」


「……そう怒るな望。店長も先輩も、悪い人ではなかっただろう?』


「まあそうだけど。ねえ教授?財団に仕事頼んだのって教授でしょ。」


「な、何のことじゃ?わ、ワシは何も…。」


あからさまに動揺している教授。

いや、もうバレバレですよ。


「財団が僕を眠らせるときに使った薬品然り、一連のモフィ☆に対する執着然り、教授が絡んでいるとしか思えないよ。」


「……。」


黙り込む教授。

すると突然教授は深々と頭を下げ


「…ノゾムよ!すまなかったのじゃ…!」


謝った…って、ええ!?


「え!?いや、謝ることはないよ!?僕自身、お金には困っていたし!」


「し、しかし!ノゾムには嫌な思いを…!」


申し訳なさそうな教授。

そ、そんな顔しないで!そんなつもりで言ったんじゃないから!


「まあ確かに、地獄のような逃走劇があったりはしたけどね…。でも、時給もいいし仕事仲間も優しい人が多いから、あながち悪くないかなって割り切り始めてはいるよ。なにより、制服のことを除けば得意分野だし…。」


「ノゾム…。」


「僕が聞きたかったのはね、教授の真意だよ。なんでそこまでして、僕を『モフィ☆』に連れて行きたかったのかって。友達の仲だし、教えてくれてもいいんじゃない?」


そう。

僕が知りたかったのはそこだ。

なぜ、教授があの店をそこまで推すのか。

教授の本当の考えを知りたかった。


「そ、それは…。」


重々しく口を開く教授。


「それは?」


「お主が…。」


「僕が…?」


「お主が、理想のメイドだからじゃ!」


「………は?」


拍子抜けとはまさにこの事。

僕が理想のメイド?

まるで意味が分からんぞ!


「そりゃまたなんで?」


冷静に聞き返す僕。

その会話に首を突っ込んできたのは財団だった。


「………望の家事スキルは完璧だ。」


「まあ苦手ではないね。」


「それにノゾムの整った女顔。これを理想と言わずしてなんというのじゃ。」


「いや待つんだ教授。その理屈はおかしい。」


「ノゾムよ…。頼む。ワシの願い、聞いてくれんかの?」


「僕の女顔に対するツッコミはスルーなの!?」


気にしてるんだからせめてツッコミくらいは拾ってよ!

整った顔って言われるだけならうれしいのに…。


すると、静かに近づいてくる紙袋の顔。


「……望。教授はただ、あの店が好きなだけではないんだ。」


頭を抱えている僕にかまわず、財団は切り出す。


「それってどゆこと?」


「それがじゃな…。ノゾムはワシが帰国子女なのは知っておるじゃろ?」


「うん。そういえば教授が転校してきて一年くらいだね。早いもんだなあ…。」


教授は僕らが中学三年生の頃転校してきた帰国子女だ。

最初の彼女はかなり距離があったが、それも無くなり、今ではこうして仲良く過ごしている。

でも。それと『モフィ☆』に何の関係が…?


「ワシがまだ、友達もできず日本にも慣れてはいなかった頃。気まぐれで入ったのが『モフィ☆』じゃ。」


「え、そうなんだ。」


「その時はまだできたばかりで、私もあのような明るい雰囲気の店が苦手だったのじゃが、食わず嫌いはよくないと思い、入ってみたのじゃよ。」


「まあ確かにメイド喫茶はハードル高いよね…。」


現に僕も昨日、入るのにかなり勇気が必要だったし…。


「うむ…。しかし、日本慣れしていないワシにも店員さんは皆優しくての。その時は運よく客も全くおらず、店員さんや、たまたま奥から出てきた店長と話したのを覚えておる。」


「え、あのガチムチ店長と?」


「うむ。あの時は不安も多かったのじゃが、一人の店員さんは客が増えても、最後まで熱心にワシの話に付き合ってくれていた。白髪のかわいらしい子じゃったなあ…。」


あの店長、無駄に人がいいからなあ。

悩んでいる女の子がいたらほっとけなくなったんだろう。

仕事は大丈夫なのか?なんて思うのは野暮ってもんか。


あの店で白髪って、白沢しらさわ先輩ぽいな…。



「店員さんも楽しそうに働き、男女問わず楽しく過ごせる。そんなあの店を、ワシはもっと広く知ってもらいたい。それが、メイドリアをやっている理由でもあり―――」


「……理想のメイド像と一致する望を、メイドにした理由。」


なるほどね。

教授は僕の家事スキルを見込んで、信じてくれた上であの店に誘導したわけか。

適当な理由だったら腹いせに篤志あつしを殴り殺してやろうと思ってはいたけど、教授なりに考えて行動したようだ。


いいお店だからこそ、それを広めたい。もっと知ってほしい。

そしてその店にいて力になるメイドが必要だった。


教授の純粋な感情が嬉しい気持ちと、何故そこまで僕じゃなきゃいけないのかという気持ちが混ざり合いなんとも複雑ではあるが、教授の真意はよく分かった。


「頼む!どうかあそこに、お主の力を貸してやってほしい!」 


あぁ……。

なんて断り辛い空気なんだ…。


働くことになったとはいえ所詮はバイト。

すぐに他を見つけて働こうと、少しは思っていたが…。


「……望。ここで逃げたら男じゃないぞ。もう覚悟決めて女装しろ。心も体も『のぞみん』になるんだ。」


「黙れ紙袋。お前には後でじっくり話がある。」


財団が余計なことを耳打ちしてくる。

教授は純粋だが、こいつは殺っておかないとだめだ。

ていうかなんでその名前知ってんの!?


「ノゾムよ…頼む。お主が、ワシの知る最高のメイドなんじゃ!」


また頭を下げる教授。

あーもうやめてってば!そーゆーの弱いんだよ!


「わ、分かったよ教授。僕にできることはするから、顔を上げて?」


「ほ、本当か!?」


嬉しそうに顔を上げる教授。

そんな顔されて、断れるわけないでしょ…。


「そのかわり!」


「む?」


でも条件は付けさせてもらわないと、割に合わないよね!


「教授も財団も、僕の秘密を隠すのを手伝ってもらう。それならいいよ?」


「……報酬は?」


「おい財団。お前も共犯だぞ。出るわけないだろ。」


「……ちぇー。」


「可愛く拗ねても紙袋で顔は見えないからね!」


「して、ワシらは何をすればいいのじゃ?」


「二人にやってもらいたいのは『のぞみん』の正体をできる限り隠すこと。そして教授には、発明品でも協力してもらいたい。」


「なるほど。ワシに作れる範囲なら協力するぞい。」


腰に手を置き、胸を張る教授。

なかなか頼もしい仲間が増えたじゃないか!

財団はいまいち信用できないが…。


「じゃあまず、こんな感じの―――――」


いくつかの要望を教授に伝え、僕ら三人は後からやってきた相川あいかわさんと談笑をした後、始業のチャイムと共に席に戻っていくのだった。(ちなみに篤志は今日も遅刻した)

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