・《メイド喫茶は採用ですか!?》- 7 -


「ひどい目にあった…。」


帰宅と同時に漏れた一言。

あの逃走劇(逮捕劇)のおかげで、僕の身体は疲労感がMAXであった。


「お、いいもんある…。」


冷凍庫を開けると、妹が買ったであろう『ガロガロくん黄金ソーダ味』があった。

それを容赦なくとり出すと思い切りかぶりつく。

疲れた体に、冷たく嘘くさいソーダの味が染み渡る。

あぁ、幸せ。


リビングのソファーにドカッと座り、テレビをつけ、番組表を確認し始めた頃。

二階から、聞きなれた声が聞こえてきた。


「あーー!お兄ちゃん!また千佳ちかのアイス食べてるーーー!ダメって言ったのにー!」


「えー、ガロガロくんの一本や二本恵んでくれよぉ。色々あって疲れてるんだよ??」


「ダメ!これは、お父さんの仕送りで買ったアイスなんだよ!」


おー怒ってる怒ってる。

それでもなお、僕はガロガロくんにかぶりつく。

定価60円程度で怒るなって


「んー、わかったよ。ごめんね。あとで一緒にコンビニに行こう。好きなアイス2つまで買って上げるから。」


「むぅ…。二つなら…許す。」


相変わらずちょろいな。我が妹よ。


僕は、千佳の頭をポンポンと軽く叩いて、彼女をなだめる素振りをした。


すると妹は、僕の方を向いた後に、何事もないかのように自然にこんなことを聞いてきた。


「で、結局お兄ちゃんはどこでバイトすることになったの?」


ギクギクゥーーーー!


こ、この質問はまずい!


実の妹に、

「お兄ちゃんは、メイド喫茶でケモミミつけてメイドさんをやるんだよ♡」


なんて言えるわけがない!


どうする!?どうする僕!?

この、無駄に勘の鋭い妹に、なんて言い訳をするべきなんだ!?僕!!


「あっ、あー・・・。それがだな。ほら、この前話してたキッチンのバイトあっただろ?ほら、財団に相談してたやつ!」


「え、うん。そういえば言ってたね。喫茶店がどうこうってやつ。」


「そうそう!で、財団に勧められたところに行ったんだけど、中々いい所だったから働くことに決めたんだ!」


「じゃあ面接受かったの?」


「ああ!受かったよ!そりゃもう、トントン拍子で受かったよ!」


「お兄ちゃん?なんか焦ってない?」


「あああああ焦ってないよ!?お兄ちゃん、千佳のために頑張っちゃうぞー!なんつって!」


やばい、焦って早口になってしまう。


どこか疑った顔をした千佳だが、彼女は納得した顔を浮かべてこちらを見ている。


「なんか色々と怪しそうだけど…。千佳も応援してるから頑張ってね、お兄ちゃん?」


千佳が満面の笑みで応援をしてくれた。

妹よ、すまん…。

お兄ちゃん、明日から女装して働く変態になるんだ…。


千佳の尊厳のためにも、この事実は固く心の扉に閉ざしておくことを誓おう。


こんな真実、妹には重すぎるよ!


「お兄ちゃん、そんなことよりお腹が減ったよ…。今日、帰ってくるの遅かったし…。」


あぁそういえばこんな時間か…。

飯を作りたいのは山々なんだが、今日は少し肉体的にも精神的にもきついなぁ…。


「じゃあ、コンビニでもいく?ついでにアイスも買ってあげるよ?」


「え、 お外で買うの?」


「確かにお金は少ないけど、正直今日はご飯を作るほど気力がないよ…。アイスも買いに行くし丁度いいでしょ。」


「んー、わかった!じゃあ私、バーゲンダッヅ2個ね!バニラと抹茶!」


「いや、お前…。ガロガロくんからバーゲンダッヅにランクアップとかどんだけ進化するんだよ…。どこぞの希望皇でもそこまでランクアップしねえよ。」


「ん?なんか言った?お兄ちゃん♡」


目が怖い。顔は笑ってんのに目だけが怖いよ。


「なんでもない…。さぁ、行こうか。」


妹の笑顔には勝てない。

いや、正確には妹の笑顔の奥にある恐怖には勝てないなぁ…。


はぁ、これからどうやってバイトのこと話そう…。

まさかほんとにメイド喫茶で働くことになるなんて思わなかったしなぁ。


この事実が、妹にバレないことだけを願うよ。


「火の元確認よーし!電気よーし!出発だー!!」


「何買う?晩飯」


「千佳はミートソースのスパゲッティがいいなー。」


「え、僕もそれにしようと思ってたんだけど…。」


そんな何気ない会話をしながら、僕たちはコンビニを目指して、家を出るのであった。


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