・《メイド喫茶は採用ですか!?》- 4 -
「撒いた…か。」
地獄の鬼ごっこから三十分くらい経ったであろうか、僕は店舗の裏路地に隠れ、街の様子を見ていた。
あの怪物の気配もない。どうやら上手く撒いた様だ。
裏路地を抜けて、パソコンのパーツや小さな電気屋がならぶ通りへ出る。
僕の肉体的にも精神的にもそろそろ限界だ、今日はそのまま帰ろう…。
「………何をしている?」
「!?!?」
「………なぜ、戦闘態勢をとる…?」
「なんだ財団か、脅かさないでよ…。」
「……別に脅かしたつもりは無いんだが…。」
いざ帰ろうとした矢先、背後から声をかけられたため、とっさに僕は戦闘の構えに入ってしまった。
するとそこには、見覚えのある紙袋にジャージ姿の財団が立っていた。
「というか財団!君の紹介してくれたあそこ!僕、随分酷い目にあったんだけど!」
「……?酷い目って…たとえば?」
「あそこの店長、キッチンのバイトなくなったからって僕にメイド喫茶でメイドやらせようとしてきたんだよ!流石に酷いよ!」
「……まさか教授の言った通りになるとは…さすが男難の相の持ち主…。」
「なにブツブツ言ってるの!僕が変態女装メイド高校生になる所だったじゃないか!財団の情報なのにキッチンのバイトも空いてなかったし、どーゆー事なの!?」
「……いや、ワタシの情報は完璧だった。キッチンのバイトも、新しい人物を採用するような素振りも見えなかった。ただ、一つ考えられるとしたら…。」
「考えられるとしたら?」
「……
「え、これって運が悪い悪くないの話なの!?」
「……先程も言ったが、間違いなくキッチンのバイトは空いていた。ワタシも確実性があって望に勧めたからな。望は教授の思惑通りになっていると言うことか…。」
「教授の思惑?まあとりあえず僕は、このまま家に帰るよ。上手くあの店長も撒けたみたいだし。財団、またバイト良さそうなところあったら教えてよね。今回みたいなのはもうコリゴリだよ…。」
「……望。」
「ん?なに?」
「……すまない…!」
「そんな謝らなくて―――フゴッ!」
謝罪するのかと思ったら、こいつ!
俺の口に謎のハンカチを当てやがった!!!
広がるのは不思議な薬品の香り、これ教授の発明か!?
「財団…貴様ぁ……。」
「……すまない望。私は今、仕事のために君を止めなければならない…。」
「仕事…それは……なんの…。」
「……それは言えない。」
「財団……君は…それでいいのかい?」
「……?」
「友達が…女装変態メイドになっても…いいのかい?」
薄れゆく意識の中、僕は財団に問いかける。
思い出してくれ財団!
君はそんな奴じゃないはずだ!
「……望…ワタシは……!」
「財・・・団ッ・・・!!」
財団が僕を見る。
紙袋越しでも、しっかりとした意志を持っていることが分かる。
そう、僕らは友達同士、どうやら分かってくれたみたいだ。
「……君がケモミミのメイドコスで働いてる姿が…正直見たい……!」
「ちくしょおおおおおおおおおおおおお!」
やっぱりな!
お前を信じた僕が馬鹿だったよ!
僕の意識はそこからゆっくりと途切れ、道路のアスファルトの妙に生ぬるい感覚を、頬に味わうこととなった。
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