・《メイド喫茶は採用ですか!?》- 1 -
そして昼休みである。
僕らはいつものメンバーで席を囲み、いつものように弁当を広げていた。
「へぇ、
「しかも噂によれば、そのノゾムに告白した後輩はひどく変わり者で、友達も少なかったようじゃ…。」
「教授はなぜそこまで知ってるの!?…っていうか、だれが『男難の相』の持ち主だこの野郎!『チベットスナギツネ』みたいな目しやがって!」
「あぁ!?だァれが『チベットスナギツネ』だこらァ!?入浴中のカピバラ位は目があるわ!この女顔チビ!朝のボディーブロー忘れてねえからなァ!?」
「はァっ!?上等だこのカピバラサンドバッグが!僕の全身全霊を持って貴様を殺してやる!歯ぁ食いしばれ!」
「アツシよ…お主はカピバラでいいのか…。」
「いいのよ教授…。バカふたりは放っておいて。私、これから委員会で集まりあるみたいだから、この場は任せるわね。昼休み終わる頃には帰ってこれると思うから。」
「ヒメノも忙しそうじゃのう…。」
「そんな大層なことじゃないわよ。すぐ帰ってくるから、よろしくね?」
「了解したのじゃ。…では財団かもーんじゃ!」
パンパン
「……………参上。」
教授の小さな体の背後から、ヌッと現れる財団。
いや、まじでどーゆー原理なの?
空間移動魔法でもつかってんの?
「………仕事、いくつか持ってきた。本人の要望に従って、喫茶店を中心に。」
「ありがとう財団。これ、報酬のカード。好きなの三枚選んで。」
「………これと…これと、これ。」
「やっぱり相場押さえてるのね…一万以上の損失だよ…。」
財団が選んだカードは、どれも今高値で取引されているカードばかりだ。
流石は情報屋、色々抑えているな…。
「………その代わり、確実性のあるものを持ってきた。」
紙をバッと机の上に広げる財団。
1枚1枚が丁寧にプリントされており、とても見やすく纏められている。
プレゼンの資料みたい。
「へぇ…色々あるのじゃな。スターバフォメットのスタッフから、メイド喫茶まで、結構幅も広そうじゃ。」
財団によって置かれた紙の枚数は15枚程度。
客層や時給、店内の雰囲気などなどが事細かに書かれており、とてもイメージしやすい記事だ。
なんでこんなもん持ってるんだ財団…。
「そういや望。お前ってたしか料理得意だったよな?掃除とかも。」
「まあね、苦手ではないしむしろ好きかな。それが活かせるなら越したことは無いね。」
「それならこれとかどうだ?(ピラッ」
「どれどれ?」
『時給最大2000円!メイド募集中♡可愛くコスプレして、キミもコスプレメイドに!!』
「よし、篤志来い。今からお前を冥界に案内してやる。」
まともに考える気がないな!?
やはり貴様は今ここで殺しておかないとダメだ!!!
「というかなんでこんなの混じってるのぉ!!財団!!」
「………ユーモア。」
「笑えないよ!!!」
「さすがにメイドはアレじゃが、メイド喫茶のキッチンなんてどうじゃ?これなんてどうじゃろう、時給1300円とはこのご時世、破格ではないか?さすが財団の裏ルートじゃ…。」
「時給1300円!?どれどれ?『けもみ…みメイド喫茶…モフィ』??、のキッチン募集のお知らせ…か。こんなお店あるんだ。」
ケモ耳メイド喫茶ってなんだ…?ケモノの耳つけたメイドさんが働いているのか?
世の中にはなんでもあるなぁ。
「そうじゃ。さっきのメイドリアの話があったじゃろ?」
「あーそういえば言ってたね、格付けランキングのサイトがどうとかって。」
「うむ。ワシの最近の推しが、このお店なのじゃよ!店の雰囲気も良く、メイドさん一人一人もレベルが高く、今はまだそこまで人気ではないが、この店は可能性が秘められておる!」
「へぇ…教授がそこまで熱く語るなんて、そこは本当にいい店なんだね。」
「………参考までに…。」
横からヌッとパソコンの画面を見せてくる財団。
「………『ケモミミメイド喫茶 モフィ☆』二年前にオープンしたメイド喫茶で、動物の耳と尻尾を付けたメイドが特徴的なお店。接客、店内の雰囲気ともにそこそこの人気があり、メイドリアの裏掲示板でも話題になっている…。ワタシとしても、この店はオススメだぞ望。」
「く、詳しいんだね財団も…。」
紙袋の顔をグイグイと近づけてくる財団。
教授と財団はこのお店を随分と気に入っているようだ、行ってみる価値はありそうだな。
「とりあえず、気に入ったのを選んで早く始めちまえよ。あまり時間もないわけだし、財団の紹介なら当選ほぼ確実だろ。」
「うーん、まあそうだね。とりあえずは、ここのキッチンに応募してみようかな。喫茶店で働きたいとは思ってたし。時給が高いのも魅力だしね。」
「………いい選択。」
「ワシもいいと思うぞい。」
ん?でも一つ疑問がある…。
そういえば…
「ねえ、メイド喫茶の料理とかって、メイドさんが作るんじゃないの?」
「………『モフィ☆』の場合、キッチンはホールから見えない所に配置されている。そうすることで、客の夢を壊すことは無い。」
「へぇ、そこら辺しっかりしてるんだね。」
「しかし、ノゾムよ…。それは言ってはいけないのじゃ。そこは夢と理想で補完するものなのじゃよ。」
「たしかに、お客だったら可愛いメイドさんが作ったって思いたいもんね…。」
「お前の場合、そのまま出てっても女の子扱いされるから心配すんなよ望。」
「黙れ。廃れた田舎のヤンキーみたいな顔しやがって。目つき悪いんだよこのバカ!」
「誰が馬鹿だ!お前みたいなちんちくりんに何言われてもなんとも思わねぇわ!このハゲ!」
「おう、上等だよ!てめえの毛根も今日が命日だこの野郎!」
お互いがお互いの胸ぐらを掴み合い、またまた一触即発の空気の中。
「まぁた懲りずにやってるわね、あんた達・・・。」
いつの間にか、僕達の背後には相川さんが立っていた。
委員会、早めに終わったみたいだ。
「で、結局
「うむ、一応喫茶店のキッチンで働く方向で決まったのじゃ。」
「……望にとっては天職。」
「キッチンなら、僕でもできるしね。決められた料理を作るならわかりやすいし。」
「へえ、まあ柊木は料理得意だもんね…。女子力なんかで片付けられるレベルじゃないくらいに。」
褒められていると思っていいのだろうか。
まあ、悪い気はしないけどね。
「んじゃあ決まったことだし、さっさと飯食っちまおう。もうすぐ昼休みも終わるぞ。」
「え?あっ、もうこんな時間か!早くご飯食べないと間に合わないよ!」
あと5分で予鈴がなる!
弁当を広げ、一気にかき込む僕。
「ワシはこの錠剤でいいから便利じゃな。」
教授は胸のポッケから怪しげな薬を出すと、それを飲もうとする。
しかしそれを見た篤志は、その手を掴み思わぬ行動に出た。
「おい、教授。育ち盛りなんだから飯をきちんと食え。いっつもそんなもんばっか食ってたら栄養取れねえぞ?ほら、これやるから。」
箸でつまんだ唐揚げを教授の口に伸ばす篤志。
は?
なんだこれ。
なんでこいつら、昼間からイチャイチャしてんの?
「ふぇっ!?あっ、アツシそれはお主のじゃ…。」
「いいんだよ。とりあえず食え。食事っつーのは体を作るんだよ、ほら口開けろ、あーん。」
「えぇ!?あっ…えっと、あーーん、じゃ…。」
篤志が箸で運んだ唐揚げが、教授の中にすっぽりと入る。
それを見て頬を緩ます篤志と、幸せそうに唐揚げを食べる教授。
なにこれ、僕らは何を見させられてるの?
(ね、ねえ柊木。なんでこの二人、いきなりイチャつき出したの、怖いんだけど。)
(相川さん、ああ見えて篤志は何もわかってないよ。あんだけ教授が顔真っ赤なのになんにも気がついてないよあのバカ!善意でやってるつもりなんだよこれ!)
(……殺意が、湧いてくる。)
(それには全く同意だよ財団!あんな可愛い教授が、あんな馬鹿に
いつか、いつの日か篤志を殺し、教授の目を覚まさせてあげないと!
あんなバカに付き合ってたら一生をダメにしてしまう!
(で、でも見て!あの教授の満更でもなさそうな顔!いつもダルそうな顔の教授が、今は目を輝かせているわよ!)
(中学生の時から思ってたけど、篤志はなんで教授の気持ちに気が付かないんだろ?あまりにも鈍感すぎなんじゃ…。)
(……望。お前が言うなスレが立つぞ…。)
(アンタにだけは言われたくないわね。)
(え、な、なんで!?僕、結構そこらへん敏感なつもりなんだけど…。)
(は?)
(……は?)
(なんでそんな目で僕を見るのおおお!?)
今日の昼休みは、そんな幸せそうな教授の笑顔と共に終わりを告げたのであった。
何はともあれ職場に目星がついてよかった。
これで何とか、働くことができそうだ!
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