・《高校生活は前途多難ですか!?》- 5 -


「おはよーう」


「おー、おはようじゃノゾム。」


「おはよう。あんたにしては早いじゃない?」


1年1組のドアを開けると、そこには既に教授と相川あいかわさんが、タブレットを片手に談笑していた。ふたりで画面を覗き込んでいるところから見ると、なにか動画でも見てるのかな?


「なにやってんの?2人とも。」


「これじゃこれ。今流行りのメイド喫茶ランキングサイト『メイドリア』を見てたのじゃよ。」


教授がダボダボの白衣の袖でタブレットをつかみ、画面を僕に見せてくる。


「メイドリア?なにそれ。」


聞いたことない。

流行りとかに疎いからなぁ…僕。


頭にハテナを浮かべる僕を見て、相川さんが横から説明を入れてくれる。


「メイド喫茶を格付けしてランキングにするサイトよ。メイド部門、店部門、総合部門で勝ち上がったメイド喫茶のみ、殿堂入りとして名誉ある称号を貰えるの。評価基準はクチコミや五段階の評価、応援コミュニティまで作れるようになっていて、そこそこ人気なのよ?」


「ず、随分詳しいね相川さん。」


「…え?あっ!ま、まあね!私も興味無いこともないし!!」


メイド喫茶の名誉ある称号ってなんだ…?

ポカンとする僕に構わず、教授が続ける。


「しかもここ、秋葉原はメイド喫茶激戦区!まさに戦国時代とも言えるほど熱い戦いが、今!繰り広げられているところなのじゃよ!」


「ふぅん、でもメイド喫茶ってあんまり行かないんだけど、そこまで没頭するもんなの?」


「分かってないのじゃな…ノゾムは…、メイド喫茶と言えば、ミニスカでキャピキャピした女の子が萌え萌えしている場所だと思っとるじゃろ?」


「まぁ…偏見ではあるかもだけど、そのイメージは少なからずあるね。」


「しかーーーし!今、メイド喫茶は多方面に幅を広げておる!例えば、本場を追求したクラシックメイド喫茶!和風をモチーフにした和風メイド喫茶!中華とメイドの夢のコラボ!チャイナメイド喫茶などなど!もうそりゃ堪らんものばっかりなのじゃ!」


なるほど。

言わばメイド喫茶界の異種格闘技戦の頂点を決めるサイトがメイドリアってわけか。


「たしかにそう聞くと種類豊富で面白そうだね。」


クラシックメイド喫茶とか行ってみたいな。

落ち着いた雰囲気そうで正直気になる。


「教授はほんとにメイド喫茶が好きなのよね。この話してる時、いつも別人だもの…。」


たしかに相川さんの言う通り、教授は興奮してるのか鼻をフンフン言わせ、顔も赤くなっている。


「当たり前じゃ!そんな中、このメイドリアというサイトは、格付け機能が搭載されておる。これはまるで、自分の推しのアイドルを育てているような、そんな気分になるのじゃ!ワシも、今ハマっているお店を応援することによって、プロデュースしている気分になっているんじゃよ!」


「あーなるほどねー。それはわかるかも。好きなメイドさんとか、好きなお店に投票すれば、そこがもっと景気良くなるものね。」


頷く相川さん。

まあ景気良くなるのはいいことだよね。


「でも、僕としてはあんまり有名になりすぎるのも好きじゃないかも…なんて。」


「なぜじゃ?」


「ほら、自分が密かに好きだったものとかがさ、大々的に人気になっちゃって、手を出しづらくなって、挙句嫌いになることってない?僕結構あるんだよね。」


マンガとかアニメとか、よくあるんだよなぁ…。


「まあ分からなくはないけど…。もしかして柊木ひいらぎって、独占欲強い?」


「ノゾムは自分だけが知っておきたいタイプか…。こりゃ将来の嫁さんは苦労しそうじゃの…。」


え、なにこの微妙な空気。

僕、変な事言った?


「ほら、変な事言った?みたいな顔してるわ。柊木はこれが自然だから怖いのよね…。だからモテないのよ。」


「も、モテないとは話が別でしょ!?というか、ぼ、僕だってモテてるし!告白だってされるし!」


「へぇ…?いつあんたが告白されたの?教えてごらんなさいな。」


「ワシも気になるのう。」


相川さんの鋭い目付きと、教授のやる気のないジト目が近づいてくる。


「え…あっ、えーっと…。」


やばい!勢いに任せて喋りすぎた!

ここはなんとか切り抜けないと…。


とりあえず、嘘を固めればなんとかなる!


「じ、実はこの前、クラスの女――「………この前、望は中学1年の男子からラブレターを貰っていた…。」――子に告は…って、なんでこのタイミングで出てくるのさ財団!てかなんで知ってんの!?!?」


「………壁に耳あり、障子に財団ありだZE☆。」


「昨日しかり今日しかり、うまいこと言えてないよ!あーもう!僕の一生の黒歴史をこんなところでバラされるなんて!ちくしょー!」


「柊木…。」


「ノゾム…。」


「な、なに!?なんでそんな、2人とも僕を哀れむような目で見るの!?」


「「ご…ごめん…(なのじゃ…)」」


「謝らないでくれよぉおおおお!!!」(ダッ!!)


悔しさのあまり、僕は泣きながらクラスを飛び出した。


「あっ、ちょ!柊木!?授業もう始まるわよ!」


後ろの方で相川さんの声が聞こえたがそんなもの知らない!知らないもん!


「ん?望どうした?朝から走っ———クボアッ!!!」


腹いせですれ違った篤志あつしにボディーブローかましたけど、知らない!知らないもん!


「うわああああああああああん!!!!」


溢れ出す涙を拭い、僕はただただ走る。

まるで心の汚れを、吹き飛ばすかのように…。


ただひたすらに、走るのだ。


その日、僕が遅刻扱いになったのは、今でも解せないが、その日の僕のメンタルは、そんなことも気にならなくなるくらいにズタボロだった…。


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