・《高校生活は前途多難ですか!?》- 4 -


「で、何事もなくノコノコと帰ってきたわけ?」


「うん、こうして無事に帰ってきて、今夜の晩御飯を作ってるよ。」


「はぁ…お兄ちゃんは何にもわかってないんだね…。」


「え、なにが?」


「何でもないよ…で、バイトは見つかったの?」


「いえ…まだです…。」


あれから間もなくして、僕は家へと帰り晩御飯の準備を始めていた。

千佳ちかは既に家に帰っており、溶けかけのアイスキャンディーを咥えながら、Tシャツとパンツのみのワイルドなスタイルで、リビングのソファーに座り込んでいた。まだ春だけどいいのか?


「お兄ちゃんに非がないのは分かってるんだけど…そろそろお金何とかしないとね…。」


「ほんとだよ…なぜ僕らがこんな目に…。」


何度ついたか分からないほどのため息。

料理をしながらでも、財団に頼んだとはいえ、やはりバイトのことは頭を離れなかった。


ちなみに今日の晩飯はオムライスだ。

ドン・クボーデでたたき売りされてたソーセージと、有り合わせの野菜。

そしておひとりさま1点限りの格安卵。


育ち盛りの僕らにとって、食事は質より量である。


「なにか働く場所の目星は付いているの?コンビニとか本屋とか…って、今日オムライスじゃん!やったー!」


アイスを食べ終わり暇になったのか、千佳がキッチンの方へやってくる。


そんな愚妹を優しくどかし、僕はフライパンに溶き卵を落とす。


「目処っていう程じゃないんだけど…友達に相談して、探してもらってはいるよ。」


「お兄ちゃんの友達って、まさかあの紙袋の?」


「財団ってまさか中等部でも知られてるわけ?」


初耳だ。

僕らの間でも都市伝説レベルで存在が怪しい奴だぞ。


「有名だよあの人。だって紙袋被って年中ジャージだよ?しかもそれを誰も、先生ですら指摘しないし、そりゃ有名にもなるって!」


「で、ですよねぇ…。」


確かにまあ、どこからともなく現れたり、と思ったら消えたりするし、あんな学園七不思議みたいな存在、話題にならない方がおかしいか…。


「でもお兄ちゃん、バイトできんの?やりたい事とかを仕事にした方が長続きするって聞くよ。」


「まあそりゃやりたいバイトがありゃあいいんだけどねぇ、特にやりたいってもんも…。」


「家事全般と料理しか取り柄無いもんねお兄ちゃん。メイドさんとか似合うんじゃない?ちょうど女顔だしー!」


「あのなぁ?僕が女顔を気にしてるの知ってるだろ?冗談はよしてくれよ。」


「ごめんごめん。でも、お兄ちゃん料理の腕はピカイチなんだし、キッチンとかやったらどう?それがダメでも喫茶店とかさ?"スターバフォメット"とか"ドトールン"とかの店員さんも似合うんじゃない?」


「喫茶店、かぁ…。」


そういえば、相川あいかわさんも喫茶店で働いてるって言ってたな。


その時、僕の脳裏に彼女の営業スマイルが浮かんだ。

いつもはツリ目でツンツンしている彼女が、屈託のない笑顔を向けてきたあの時、不思議と心がときめいたのは事実だ。


営業スマイルとはいえ、あの気の強い彼女があんな顔をするとは思わなかったのだ。


喫茶店…いいかもしれない。

案外、僕の料理の腕も活かせそうだし。


「よし決めた。僕、喫茶店でバイトする。」


完成したオムライスとケチャップを食卓に運び、ケチャップの蓋を開ける。


「どしたのいきなり?その気になっちゃった?」


いつの間にかスプーンを用意している千佳。

さすが、食意地だけは誰にも負けない我が妹。


「まあね。ちょっと色々あってさ。」


「ふぅん。まあいいけど。あ、お兄ちゃん、オムライスにケチャップで"かまつちゃん"描いといてー。」


"かまつちゃん"とは、妹の好きなアニメのメインヒロインである。

ケチャップで萌えキャラの女の子は無理でしょ…。


「まあでも、お兄ちゃんだけに無理させるのは悪いから、お仕事見つかったら私がご飯作るよ。」


「大丈夫?また暗黒物質作らない?」


「失礼な!私だって練習すれば上手くなるもん!花嫁修業だとおもってさ!」


「あ?花嫁?なんだ千佳、彼氏出来たのか?何処の馬の骨だ、ぶっ潰してから話を聞いてやろう。」


「お、お兄ちゃん!?顔が怖いよ!?じょ、冗談だってば!?冗談!私に彼氏なんていないよ!そもそも作る気もないし!」


「そうか…それならいいんだけど…。」


柊木ひいらぎ家の夜は、こうしてゆっくりと更けていくのであった。


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