・《高校生活は前途多難ですか!?》- 3 -


「はぁ…今日も疲れたよ…。このご時世、廊下に立たされる貴重体験を味わうことになるとは…。」


「そんなの、あんたが宿題忘れまくったのがいけないんでしょ?今月で何回目よ…。」


「まあそうなんだけどさぁ…。」


日が落ちるのも段々と遅くなり、夕暮れが眩しい放課後の帰り道。

教授は部活へ、篤志あつしは用事で先に帰ってしまい、相川あいかわさんと僕の二人での下校となった。


「にしても働かないとなぁ…。自分の小遣いは愚か、生活すら危うくなってくる前に何とかしないと…。」


死活問題とはよく言ったもので、今の僕には勉学よりもバイトが欲しい状況だ。

中学生の妹が働けるわけもなく、あの抜けてる両親からの仕送りが増える見込みもない。


財団に頼んではいるが、やはり不安が消える訳では無いのだ。


「うーん、とりあえずは財団の返事を待つしかなさそうね…。」


悩んでいる様子の相川さん。

彼女の言うとおり、今は財団頼りだ。

頼むぞ我が友よ。


ん?そういえば相川さんは喫茶店で働いてるって言ったけど、なにしてるんだろ。

聞いてみるか。


「ところで、相川さんの働いてるところって喫茶店だったよね?接客とかしてるの?」


「えっ!?あっ!うん!!そうね…!一応、ウェイトレス?って感じかな…。」


僕でもわかるあからさまな動揺。


額に汗をうかべ、途端に足が速くなる相川さん。

妙に焦っているが、気にしないふりをして話を進める。


「そこって楽しい?やっぱり働いた事ないから、飛び込んでみるのが怖くって。緊張もするし、不安も一杯で…。」


「らしくもなく何を軟弱なことを…って言ってやりたいところだけれど、その気持ちはものすごく良くわかるわ…。」


相川さんはうんうんと深く頷く。

腕を組んでいるため無駄に貫禄がある。

やはり経験者は違うなぁ…。


「正直、やっぱり厳しい時とか辛い時はあるわ…。私もまだバイトを始めたばっかりだし、まだ給料も一度しかもらってないしね。」


「辛いって?」


「例えば、初めて職場に入った時にミスを繰り返して叱られたり、"ある意味"で怖い先輩もいたりしたし…。」


先を歩いていた相川さんだったが、ゆっくりとその歩を緩め、僕の隣に並ぶ。

彼女にも何かあったのだろう、そう読み取れるほどの横顔だったが、僕は詮索はしなかった。


「でも、やっぱり自分で稼いだお金は大事だなって思えるわよ。親から貰うお小遣いじゃなく、自分が汗水垂らして働いた結晶なんだ!って思うと、不思議とやる気が湧いてくるのよ。」


「そんなもん?」


「そんなもんよ。」


相川さんは僕の方を向くと、すこし頬を緩めニコッと笑う。

普段の彼女が見せないような、とても可愛らしい笑顔だった。


ん?何だろう…。


すごくドキドキする…。

今まで、彼女に対してこんな感情抱いたことはない。


まさか…相川さん…それって…っ!!



「それって、営業スマイル!?」


「ぶっ殺すわよあんた…。」



途端に笑顔から殺戮マシーンの顔へ変貌した相川さん。

ほらやっぱり営業スマイルじゃないか…。


でもまさか、あの強気な相川さんがあんな顔をするなんて思わなかったなぁ…。


少し、勇気が湧いてきたかもしれない。


その日、何故か不機嫌になった相川さんとは駅前で別れた。

彼女の家は僕の家の最寄り駅を地下鉄で二駅過ぎたところにあるので、距離的にはとてもご近所さんなのだけれど、実は今日も彼女はバイトが入っていたらしい。


なんというか、彼女はとても頑張り屋で、とても苦労人だなと感じる。色んな意味で…。


そういえば、なんで僕と一緒に駅前まで来てくれたんだろう?僕が一人で帰れない人だと思われているのだろうか?

本人は『ただの暇つぶしよ』と言っていたけど、どうにも嘘のような気がするのはなんでだろう?


改札前で、彼女のほうを振り返る。

すると、相川さんが不機嫌そうに、小さく手を振っているのが見えた。


別れ際に見えた彼女の姿はやはり目立っていて、綺麗なピンクブラウンの髪が駅前の広場に差す夕日に照らされて、より輝いて見えた。


こうして僕らの平凡な学生生活は、電車の発射音とともに今日も終わりを告げるのだった。


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