・《高校生活は前途多難ですか!?》- 2 -
「で、お前の両親は海外に飛び立ったと…。」
「その通り。僕らふたりを残してアメリカですよアメリカ…。こんなのってある?」
ところ変わって翌日の教室の昼休み。
「まあいいんじゃないか?確かに金は稼がないといけないが、親がいないってのは気が楽だろう。彼女だって連れ込める。」
すました顔で弁当を食べているのは、中学時代からの腐れ縁の男"
両サイドを刈り上げ、ワックスでツンツンに立たせた髪型に、着崩した制服。身長も僕より大きく、目付きが悪い。
態度もでかいため、一部の教師からは目をつけられてるとかなんとか。
不良と言われても仕方のないような彼だが、中身は少なくとも悪い奴ではない。
彼はかなりの人望の持ち主であり、"見た目で敬遠しがちだが、仲良くなれば良い奴"タイプなので、一部の人間からはちょくちょく相談を受けたりしている。
まあただの不良だったら、こうして一緒に飯は食べないだろうしね。
「生憎彼女なんていないからなぁ僕。というか妹がいる時点でその夢すら叶わないけどね…彼女なんて連れ込んだら何言われるか…。」
「まあお前のその顔じゃ彼氏はできても彼女なんて無理だな…。傷つくような事言って済まなかった…。」
「おし、表に出ろ。本当の恐怖というものを教えてやる。」
前言撤回。やはりこいつはクズだ。
今ここで殺しておかなければならない。
お前だって女子から敬遠されてるくせに!
「まあ落ち着けよ望。お前は男にしてはアレだが、女装したらワンチャンあるとおもうぞ?男とかにはモテそうだし。」
「ごめん、それ全然嬉しくないから。慰めにもなってないから。」
「謙遜すんなって。よく女子達が話してるぞ、柊木くんは受けだって。」
「すまない篤志、それはどこの誰が言ってたのかな?僕は今から、その子に大事な用事があるんだ…。」
僕という人間が別の方向に理解されてる事実を知った今、黙ってはおけない。
早く噂の原因は絶たなくては…。
「ただいまー。混んでて遅くなっちゃったわー。」
「ただいま帰ったぞー。」
そんな一触即発の空気に入ってきたのは、ジュースを両手に1本ずつもって現れた女の子2人だった。
一人は"
中学校の頃知り合った、僕より少し背の小さい女の子。
整った顔に気の強そうなつり目、ふわふわのツーサイドアップの髪型。
ピンクブラウンに染めた髪が特徴で、遠くからでもすぐに見つけられる程には目立つ。
うちの校則は髪を染めることも禁止していないので、なんの問題もない。
なお、体の一部分もなかなか出ている。何とは言わないけど。
もう一人は"教授"ってあだ名が特徴的な、"
子供みたいな見た目に、化学の授業用のかなり大きめの白衣をいつも身につけ、大きな丸メガネをかけている女の子。
髪は茶髪がかっていてお下げ。
"科学研究部"の設立者であり、高校1年生にして早くも部長を務め、よくわからない発明品を作ることから"教授"と呼ばれている。
どうやら飛び級でこの学校に来たらしく、帰国子女で天才発明家と謳われている彼女。
なぜ僕らみたいな平凡な人たちと一緒にいるのかは、この横にいる柄の悪い男のせいだろう。
「あ、2人ともお疲れ様。ありがとうね。」
挨拶を返す僕。
相川さんと教授は、僕と篤志の前に1本ずつ、ペットボトルのジュースを置いた。
「いくらジャンケンで負けたからって、女の子2人に買いに行かせる?普通。」
ぶつぶつ文句を言う相川さん。
何を寝ぼけたことを言っているんだ全く。
「僕らは男女平等主義者だからね。公平な手段で勝利したのだから文句は言わせないよ。」
「ああその通りだ望。このメンバーで女だからは理由にはならん。」
「あんたら…いつも通りね…。そんなんだからモテないのよ…。」
呆れ返る相川さん。
「モテないとは心外な!少なくとも篤志よりはモテる自信ある!」
「ああっ!?聞き捨てならねえなぁ!お前みたいな女顔のチビよりは俺のほうがモテるわ!」
「なんだとこの野郎…。地獄を見せてやろうかァ!?あぁ!?」
「上等だァ…表出ろ…!」
「二人共、落ち着くのじゃ。黙って昼食くらい食えんのか…。」
「だって篤志が!」
「だって望が!」
「子供かお主らは…。」
教授、ごめんね。男には譲れないものってのがあるんだよ!
教授の静止により落ち着きを取り戻し、相川さんが買ってきてくれたジュースに手を伸ばす。
よくよく見ると、これは僕が好きな"ドクドクペッター"だ。相川さんにはなんでもいいって言ったはずなんだけど…エスパーなのか?
「ところで教授。今度は何作ってるんだ?」
そんな疑問を抱く僕には構わず、突然篤志が切り出す。
すると教授が、何やらゴソゴソと机の上で作業を始めていた。
「アツシ。よくぞ聞いてくれた!これは一時的に人間を超前向きにさせる抗鬱剤。マエムキナールじゃ!」
ダボダボの白衣の袖で掴んだ栄養ドリンクの瓶を高々と掲げて叫ぶ教授。
無駄にラベルとかが凝ったデザインなのも流石である。リポダビンDみたい。
「ほう…それなら被験体の望には丁度いいんじゃないか?バイトやら家庭やらで悩んでいる奴には持ってこいだろ。」
「誰が被検体だ。」
「む?なんだノゾム。家でなんかあったのか?」
「あぁ、まだ話してなかったっけ?それがカクカクシカジカでさぁ…。」
僕は、わが身に降りかかった突然の災難を説明する。
「そんなことが!大変じゃないあんたの家!」
「ふむぅ…たしかにそれは一刻を争う事態じゃな…。」
驚きの声をあげる2人。
「でしょ?で、すぐに働かなきゃ行けないんだけど、なんかいいバイトないかなぁ?」
これは現在の僕にとって、本気の悩みである。
親からの仕送りはあるというものの、バカ親父と天然母からの仕送りはお世辞にも多くはなく、バイト生活を余儀なくされるものだった。
「たしか相川はバイトしてるんじゃなかったか?どんなバイトかは知らないが。」
篤志が相川さんに尋ねる。
「そういえば…。僕も前に聞いたなぁそれ。相川さんはなんのバイトしてるの?」
「えっ、わ…私!?私はその……アレよ!喫茶店よ!」
ひたいに汗を浮かべ、手を振って慌てる相川さん。
ん?なんか妙に焦ってない?
疑問に思ったのは篤志も同じようで、無慈悲にもコイツは相川さんに質問で畳み掛ける。
「こうして望が困っているんだ、なんとかお前が働いてるところに誘ってやるのはどうだ?」
「むぅ…。たしかにノゾムは働いたこともないじゃろう。ヒメノと同じところなら心強いのではないか?」
そこに乗っかる教授。
「僕としても、相川さんと一緒なら心強いんだけどなぁ…。」
「そ…そんなこと言われても!多分うちのお店は店員いっぱいだろうし!雇うほど余裕があるわけでもないし!そんなに大きい店でもないし!」
必死に弁明をする相川さん。
「んー…そこまで言うなら…。やっぱり僕ひとりで探すしかないか。」
「安全は保証せんが、ワシの研究の被検体なら募集中じゃぞ。」
「ごめん、それは遠慮しておく。」
命がいくつあっても足りないわそんなん。
「ごめんね…柊木。」
「え?」
珍しく謝ってくる相川さんに、僕は少し驚いた。
普段は何かとツンツンしてる彼女が、素直に謝るなんて思わなかった。
「良いんだよ相川さん。僕も僕で、自力で何とかするから気にしないで!」
「うん…。」
本当に申し訳なさそうに頷く相川さん。
そこまで気にすることないのになぁ。
とは言ったものの、初めてのバイトともなれば緊張するし、慎重になりたいのは当たり前だ。
なにかいいバイトはないだろうか…。
悩む僕。
しかし篤志は構うことなく、また会話を切り出した。
「相川がダメなら…やっぱりあいつに頼るしかないようだな。」
「え?あいつって…。」
「おい。いるんだろ?」
パンパンと手を鳴らす篤志。
すると…
「………呼んだか?」
「「うわぁ!?!?」」
篤志の横からヌッと現れたのは、全身にジャージを纏い、穴が空いた紙袋を被った人影。
「な、なんだ財団かぁ…ビックリさせないでよ。」
「心臓が止まるかと思ったわ…。」
「ワシはもう慣れてしまったな…。神出鬼没の財団らしい登場じゃ。」
この"財団"と呼ばれている全身ジャージ姿に紙袋をかぶったの謎の人物。
性別不詳、名前すらも誰も知らない。
もちろん、友達の僕らでさえ、知らない。
しかもこの紙袋が無駄に高性能であり、ボイチェン機能も付いている。
もうわけがわからない。
え、じゃあ財団はどうやって学校生活を送ってきたかって?
それが先生ですら、彼(彼女?)のことを"財団"って呼ぶし、本人もそれで当然みたいな感じだから深くはわからないんだけど、財団は相当のお金持ちで、賄賂で黙らせてるとかなんとかって噂もある。ホントかどうかは分からないけどね。
初めは財団と僕の趣味が合って仲良くなり、今では僕らの情報屋みたいな扱いになってる。本当に何者なんだ?
「……それで、ワタシに用か?」
「あぁ、この女顔の迷える子羊にバイト先を勧めてやってくれないか?どうやら色々あって悩んでるらしい。」
「女顔は余計だろ!」
「……大体は事情を知っている。望にあった職場を探せばいいのか?」
「そーゆーことだ。報酬は望のコレクションの"
「あっ!おい!それ僕の大事なコレクショ—―――」
「……乗った。明日までには探しておく。」
「ノオオオオッ!!!!」
「いいじゃない柊木。おもちゃ一つでバイト先見つかるんだし、また買い直せば。」
相川さんがジュース片手にとんでもないことを言う。
これだから価値のわからないやつは!
「分かってないね相川さん!あれは定価八千円でも、今ではプレミアがついて四万円は下らない超レアものだよ!もう手に入んないかもだよ!」
「四万!?そ、そうなのね。オモチャって株みたいなものなのね…。」
「そうじゃぞヒメノ。ワシらがやっているカードゲーム『
「高騰ってどれくらい?」
「そうじゃな…。時期やカードの流行りによってじゃが、一枚1000円のものが5000円になったり…とかじゃな。」
「い、1枚1000円!?それでもバカバカしいのに、5000円って…。さすがにそれは無駄遣いなんじゃ…。」
「娯楽の世界というものは、本来そんなもんじゃからのう…。」
「他人から見たら、原価に見合ってないものかもしれないが、ファンはそこに付加価値を見出すからな。そこは仕方ないと思うしかないだろう。」
「一枚1000円…。それがあればうちの食費何日分に…。」
何やら、指折りの計算を始めた相川さん。
ブツブツと何かを言いながら、彼女の顔は驚きを露わにしていた。
「それでじゃが。結局、財団が仕事を持ってくるってことでいいのかの?」
教授が話を元に戻す。
と、いうより、僕のコレクションは人質のままなんだけれど!?
「財団なら信用できるだろ。なにせうちの自慢の情報屋だ。ほぼ当選確実で、普通じゃ体験できないような仕事とかもあるかもしれんぞ。」
篤志がこういうのも分かる。
たしかに、どこと繋がってるかもわからない財団の仕事、案外変わった内容が多そうで楽しみではあるが。
「まあそれは一理あるけど…なにも僕のコレクションを引っ張り出さなくても…。"御面ドライバー"グッズだけは…!」
「…………、なら他に報酬を用意してもらおう。」
財団はクルッとこちらを向くと、顔を近づけてくる。
おいおい、普通に怖いからやめてくれ。
「それなら…この前出た"冥☆土☆王"カードなんてどう?3枚ずつ集めたから好きなカード3枚までなら…!価値ある提案じゃない!?」
前に大人買いと称して貯めていたお年玉を使い、コンプリート達成までしたカードがあった。
財団の欲しがりそうなものがあるし、悪くない提案だろう。
「……仕方ない。今回はそれで手を打とう。友達サービスだ。」
「ありがとう財団!」
「……ワタシと望の仲だ。礼などいらない。」
「そう言うなら出来れば無料が良かったよ…。」
自分から提案したものの、少し重い代償に思わず俯く。
「……仕事は仕事だ。では、ワタシはこれで。仕事内容の要望があったら明日までに連絡をくれ。」
「あっ、待って財団!やっぱり別の―――・・・ってもういない!?」
顔を上げると、既に財団の影はなく、そこにはまるで人がいなかったかのように、静けさだけが残っていた。
「いつものこと過ぎて慣れてしまったのじゃが…あやつどんな原理で消えておるのじゃ?」
「教授に分からないなら私たちにも分からないわよ…。」
「同感だ…。財団は謎が多すぎる。まあ悪い奴ではないと思うが…。」
「まあとにかく、財団のお陰で一段落つきそうでよかったよ。」
それぞれの思いを口にしながら、僕らの昼休みは終わりを告げるのであった。
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