お昼休みの古今東西

 昼休み。

 体育館、ハーフコートで3on3が展開している逆サイド。

 敷居で囲まれた卓球台が数台。


 その一つに、星組の三人が居た。

 ラケットを握るのは剣持芳樹と中島十兵衛。

 ジャッジに星宮朋也。


 芳樹はピン球がある掌を軽く卓にあて、バウンドの感覚を確かめている。


 朋也が試合開始を宣言する。


「古今東西、いえぇーい。

 戦争の火種」


 芳樹のサーブ。


「国力増大主義」


 カコンッ


 十兵衛のリターン。


「王権の継承問題」


 カコンッ


「領土の主張」


 カコンッ


「宗教の伝播」


 カコンッ


「資源の確保」


 カコンッ


 ちらっと十兵衛が朋也を見る。

 審判がストップをかけないので、ゲーム続行。


「隣国同士が戦争を始めたから」


 カコンッ


 リレーが続く。



 その間に、顔をこちらに向ける朋也。


「説明しよう!

 古今東西とは、自分の手番にお題に則した言葉を出すゲームである。

 ボールが返せても、言葉が出なければアウト。

 元のゲームのルールはそのまま適応されるので、純粋に難易度が上がった競技となる。

 先程十兵衛が俺を見たのは、言葉の意味重複を確認するためだ。

 既に出た言葉がNGの対象となるのは、無限ループを防ぐため。

 この辺りはしりとりと同じである。

 古今東西では、どうしても意味合いの似通った言葉が多く出る。

 その判定をするのも審判の役割だ。

 ちなみに、俺のジャッジはゆるゆらである」



「食糧問題」


 カコンッ


「文明レベルの履き違い」


 カコンッ


 芳樹が強気にでた。


「カルピスの濃さ」


 カコンッ


「デコケーキの板チョコ」


 カコンッ


「貧乳キャラはコスプレに優しい」


 カコンッ


「唐揚げにレモンを搾る」


 カコンッ


「カップリングのリバ」


 カコンッ


「ヲタワードの意味変調」


 カコンッ


 にやりと笑う芳樹。


「男の娘の定義」


 カコンッ


 苦しい十兵衛の返し。


「チートの意味」


 カコンッ

 甘いコースに入った。


 好機を掴んだ芳樹がスマッシュ。


「アニメの名作駄作認定!」


 カコーン!


 見事な一本。


「くっ、負けたか」


 悔しがる十兵衛。


 負け残りルールなので、芳樹と朋也が交代する。


 ジャッジ芳樹によるお題。


「古今東西、いえーい!

 パワーワード」


 サーブは十兵衛から。


「右に左折」


 カコンッ


「光の速さで匍匐後退」


 カコンッ


「自分へのご褒美」


 カコンッ


「ハーフパンツしゃぶしゃぶ」


 カコンッ


「フランケンシュタインズハムスター」


 カコンッ


回転飛び肘蹴りサイクロンエルボーキック!」


 パキーン!


 朋也が言葉通りの肘蹴り(?)で撃ち返した。

 驚きにピン球を取りこぼした十兵衛が突っ込みを入れる。


「脚と腕を付け替えるな!」


「付け替えたんじゃない。

 こう、肩口から股下までを薄く外にスライドさせて、脇下あたりを軸にくるんっと」


 朋也の腕と脚が見事に上下を入れ替える。


「なっ。

 付け替えじゃなくて変形だろ」


 ジャッジ芳樹が判定する。


「実演しなくていい。

 どっちにしろ、ラケット以外での捕球は反則だ。

 よって十兵衛の勝ち」


「おうふっ。

 つい熱くなってしまったぜ」


 朋也は背中を開いて放熱板を出し、物理的にもクールダウン。


 十兵衛と芳樹が交代して、ラストゲーム。


 審判十兵衛が出題。


「古今東西、いぇーい。

 元素名を、日本語以外」


 朋也のサーブ。


「フランシウム(87番:ラテン語)」


 カコンッ


「ニホニウム(113番:英語)」


 カコンッ


「イドロジェーヌ(1番:フランス語)」


 カコンッ


「シリコン(14番:英語)」


 カコンッ


「コーレンストッフ(6番:ドイツ語)」


 カコンッ


 朋也の悲鳴に近い叫び。


「そっちは英語ですらないのかっ!

 フローリン(9番:英語)」


 カコンッ


 こちらは余裕の芳樹。


「2外以上は実用性が低い趣味の世界だからな。

 アルセーニコ(33番:イタリア語)」


 カコンッ


「アイアン(26番:英語)」


 カコンッ


「ニッケル(28番:オランダ語)」


 カコンッ


 窮地に立たされた朋也が起死回生のスマッシュ。


「モチモッチ(第五元素:古代妖精語)」


 シュパーン


 これに対し芳樹は禁断のスマッシュ返し。


「クケトケケケ(虚数元素:上位銀河汎用語)」


 パキーン


 衝撃に耐えきれずピンポン玉が割れ落ちた。


『さすがにやるな』

『お前もな』


 視線で通じ合う二人。


 主審の十兵衛が判定する。


「先にボケな答えをした朋也の負けだ」


 こうして昼休みはオチもなく平和に終わる。

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