第1章 お飾り聖女と半人前騎士ー3
周囲を気に
事情を知る
そんな中、屋敷の奥からゆっくりと歩いてくるのはナタリア。
「おかえりなさい、キャス。無事で良かったわ」
「お母様ってば、屋敷の中ではもうキャスリーンって呼んでも良いのよ」
日中のやりとりを思い出しているのか、わざわざキャスと呼びながら
そうして無事を喜んでくれる彼女に
ナタリアは相変わらず
「
「そりゃ動き回ったもの」
「汗くさいうちはまだキャスよ。早くお
「
「それじゃ、私の部屋で待ってるからね」
ほほ……と
その背中を見届け、キャスリーンは「汗くさくない……よね?」と
そうして入浴を済ませ、金糸の髪をタオルで
三つ編みにした時こそ
聖女の現状には不満はあるが、それでも聖女の正装と己の金糸の髪の
そんな髪をいじりつつナタリアの部屋の
「キャスリーン、入りなさい」
「……何かあったの?」
いつもの雑談ならばお茶を用意してくれているのだが、今夜はその様子はない。それどころかキャスリーンの問いかけに対して困ったような笑みを浮かべるだけだ。
普段とは違うその様子に、キャスリーンの胸中に言いようのない不安が
だが話を聞かないことには不安も解消しようがない。そう判断し、ナタリアのもとへと向かい……そしてギュウと強く抱き
自分の髪と同じ金色が目の前で揺れる。
「……お母様?」
「出来ればもう少し、あとほんの少しでも、
そう遠くないと分かっていた、
それでも胸の内に湧いた『そんなまさか』という僅かな希望を
返ってくる言葉など分かりきっている。それでも別の回答を望んでしまうのだ。
だがそんなキャスリーンの願いも
「
と、はっきりと告げてきた。
それを聞き、キャスリーンがゆっくりと瞳を閉じる。
それを思えばキャスリーンの胸が痛むが、その痛みに
『儀式』とは、聖女に課された試練である。
といっても難しい試験を受けるわけでもなければ、不合格になるわけでもない。
ただ数人の護衛をつけて国の外れにある聖堂に行き、そこで一晩過ごすだけだ。
もちろんその道中には危険もなく、聖堂での一晩だって司祭の話を聞き
つまり儀式と言えどもただの旅、『お
それでも聖女が一人前になるための通過儀礼であり、これを無事に終えれば
「……でも、そうなったらもうキャスとしては居られなくなる」
自室に
枕が言葉を吸い込んでくれる。だが
いっそ何も聞かなかったふりをしてしまおうか……そんな事すら考えてしまう。
酒場で酒を飲んで
それだって問題をたった一日先延ばしにしただけにすぎないのだが。
「もうお別れなのね、キャス……」
そう呟き、部屋の
剣の重さに負けてふらついていたキャスリーンを
『これなら動き回れるだろう。でも
そう優しく微笑みながら
おかげで彼のようにとまではいかずとも、自分の身は自分で守れる程度にはなれた。聖女として育てられ、レイピアどころか剣も
だがそれも
儀式を終えれば、今よりもっと
今は謁見の手配を
そもそも、身分を
「いつか終わるって分かってたけど、その時には晴れやかな気分でいられると思ってた……」
前線で戦う者達の実情を知り、彼等を
だが現状はどうだ。思い描いていたものの足元にも
その
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