第1章 お飾り聖女と半人前騎士ー1
キャスリーン・トルステアは聖女である。
代々続く聖女の家系。手を
……というのが代々伝わる聖女の務めだ。だが、なかなかどうして
「またヘイン
そうキャスリーンが隣に立つ母ナタリアへと訴える。
だがそれを聞くナタリアは平然としており、それどころか「また始まったわ」と言いたげな表情を
「私知ってるんだから、ヘイン伯は
「そうねぇ。あらキャスリーン、
大変ねぇ、と間延びした声でナタリアが
聖女の癒しを求める者達の救済願。
だが内容はどれも急を要するものではなく、前日に無理をしたら体が痛い、日に焼けて
ナタリアがそれらを読み上げれば、キャスリーンが
聖女の正装は布をふんだんに使っており、そのせいで重すぎるのだ。
それらを取っ
「あら見てキャスリーン、ヘレナ夫人は
「お母様……いえ、ナタリア様、残念ですが私もうキャスリーンじゃありません!」
キャスリーンが胸を張ってナタリアに告げる。
先程まで着ていた聖女の正装やベールは
見せつけるようにクルリと回ればレイピアが先を
その姿に、ナタリアが小さく溜息を
「そうね、それじゃ第四騎士隊所属のキャス、お務め
「はい、ナタリア様!」
母からの言葉に、キャスリーンが腰から下げたレイピアに手を添えて騎士らしく返す。
次いで行って参りますと元気良く告げ、扉へと向かいそのまま飛び出し……はせず、少し開けると顔を出して
この
「元気なのは良いことだけど、見つからないようにしなさい」
「分かってます。では行って参ります!」
「ただいま参りました!
そう声を上げながらキャスリーンが向かったのは、王宮横にある
一角に集まっている騎士達の中に飛び込むように合流すれば、彼らの前に立っていた一人の青年が一瞬にして表情を明るくさせた。
「キャス。間に合ったな」
「間に合いましたか。よかったぁ」
肩で息をしながらキャスリーンが
並の少女であれば
「どこから来てるかは知らないが、いつもギリギリだもんな。もっと近い場所に部署を異動してもらえないのか?」
「そ、それはその……色々と込み入っているので、異動は難しいかと……」
「そうか。俺は王宮内のことは分からないから、何もしてやれないな」
すまない、と謝罪されキャスリーンが
「アルベルト隊長が謝ることではありません。それに、走れば準備運動にもなりますから!」
「それなら良いが、もし
【画像】
「はい、ありがとうございます!」
いざという時は
なんて優しいのだろうか……! という感謝の気持ちが胸に
キャスリーンが謁見の間から来ている事、今の今まで聖女として務めを果たしていた事を彼は知らない。いや、彼だけではない。キャスの正体がキャスリーンであるという事は、聖女に
(だけど、王宮の奥で聖女やってました……なんて言えるわけがない)
そうキャスリーンが
「いつも言うけど、話してる最中にやめてよ」
不満を
「ロイ、離して」
「お、当たり。キャスは察しが良いな」
楽し気に笑い、ロイがパッと手を離す。
ようやく自由になったとキャスリーンが安堵の息を
まるで焼き直しのようではないか。今回も同じように見上げれば、またも楽しそうに笑う青年。ロイ……ではない、なにせ彼は今キャスリーンの目の前にいるのだ。
「ローディス!」
キャスリーンが声を
そんな双子に対してキャスリーンが文句を言えば、やりとりを見ていたアルベルトもつられるように溜息を吐いた。
「お前達、キャスを
「隊長、キャスは噓ついてるんですよ。家業の勉強なんて真っ赤な噓、俺知ってるんです」
得意気に話すローディスの言葉に、彼の腕の中に居るキャスリーンが「えっ」と声をあげた。
ローディスがニヤリと笑っている。見れば
そんな二人の表情を
(知ってるって、私が聖女だってこと……? もしかして謁見の間から出てきたのを見られた? それとも誰かがばらした!?)
「し、知ってるって……。ローディス、なにを?」
焦りを露わに問えば、その態度もまた
「俺は知ってしまったんだ、キャスは午前中……」
「午前中……?」
「
「ネズミと
「
「エビとも違うから!」
二人を交互に見やって文句を言えば、金の三つ編みがぶんと揺れる。まるでキャスリーンの
聖女の時は
キャスリーンが失礼だと怒りながら三つ編みを押さえれば、そんなキャスリーンを
「キャスは家業を
「え、えぇ……そうです。あまり
「いいさ、騎士として立派に戦ってる。それだけで仲間として受け入れるには十分だろ」
「……アルベルト隊長」
アルベルトの
藍色の瞳が優しく見つめてくる。その瞳には
その重みに、そして
この際「後でチーズ買ってやるから許してくれ」と謝ってくるローディスや、「後でシーフードサラダ
今はアルベルトに宥められていよう、そう考えてキャスリーンが頭を撫でられる
キャスリーンがキャスとして所属するのは、アルベルト率いる
四部隊ある騎士隊の中で
扱いも回される仕事も末端に等しく、
当然だがそんな扱いの第四騎士隊が国宝とされている聖女に近付けるわけがなく、
(誰も私を……キャスリーンを知らない。ここでだけは私は聖女じゃない……!)
そうキャスリーンが意気込み、手にしていたレイピアを
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