第七章、連戦
渦はいよいよ中心で形を整え、また何者かの登場を演出せんとしている様であった。女は役者の出場を今か今かと待ちわびる観客を演じたが、もう一人の男の方はあまり作法のなっていない客を演じるがごとく、舞台に上る前の役者に花束を渡さんと飛びかかっていた。
「先手必勝!今の内に倒しちまえば何の問題もないだろっ。」
「急きすぎる。」
エマの忠告は既に彼の耳に届かず、誠は渾身の一撃を渦の中心に影が現れたところへ叩き込んだ。だが彼の一撃は影まで届かず、まるで見えない壁に遮られたかのように途中の空間で跳ね返され、反作用が数倍に増幅されたように彼の身体を元来た方向へと弾き飛ばす。
「無茶をしすぎだ・・・馬鹿。」
「全くだ、鬼が出るか蛇が出るかも分からぬ内に飛びかかるとは何事だ、振り下ろされる我の身にもなってみよ。」
突発的で無茶な行動に周囲から総攻撃を受ける誠。そして思わぬ方面から更なる追撃をも受けることとなる。
「やれやれ実にその通りだ、無鉄砲極まりない・・・だが気に入ったぞ、少年。」
渦より姿を現したものは人型をしていた。人の形を成していても先の例もある、人の形をしながら人でないものであろう。想像はできる。何者かは地表に足を下ろした。身の丈二メートル前後といったところか、大きくはあるが人の大きさであり、外見上は人であることを示している。ただ風体は普通と呼べる範疇の外にあった。着流しの出で立ちに伸ばし放題の髪に無精髭、隆々とした腕の太さに見合う大刀を肩に担いで不敵な笑みを浮かべている。特筆すべきは顔にも胸にも腕にも、およそ外から見える部分の身体には歴戦の勲章を並べているつもりなのか、随所に刀傷を背負っている点である。
「まぁた強そうな奴が出てきたもんだな。」
「ふははっ、それは違いないな。」
現れた、敵と思しき男は悪びれることなく誠の評した自分像を肯定した。見た目と等しい豪胆さも内包していると見え、器の大きさも先の妖とは比較できない様子を受ける二人。
「お前、一体何者・・・」
「お、おお・・・この感覚は・・・閣下、閣下。」
エマの問いかけには思わぬ所から回答が届いた。閣下と呼びかけたのはエマ自身が今しがた首を落として屠ったはずの妖の身体からであった。
「な、なんだあ?目も口も耳もないのにどこで喋ってんだよ。」
誠の忌避感は至極当然に起こる感情であった、およそ生物とは思えない生命力に彼は改めて敵の異常さを再確認した。そしてエマはと言うと異なる思考で戦慄を覚えた。
「閣下・・・だと?」
相手を閣下と呼称するからにはある程度の文化的でしかも組織的な上下関係が妖と眼前に聳える偉丈夫との間に存在することになる。これは敵側にも集団としての何らかの纏まりを有していると考えられるのだ。ここまでエマの戦歴は組織だった敵の行動を確認した経験はなく、今回が新鮮な発見を嗜むことになった。
「ふんっ、お主か。」
謎の大男は吐き捨てるように見窄らしい姿を晒す部下を見た。腕は無残な傷を示し、胸は腸まではだけ、頭部はその存在を確認するに首の横運動を必要とする位置に転がっていた。
「閣下・・・閣下、このような姿で申し訳ありません。ですが閣下が御来光されたということは小癪な此奴等を討って、討って下さるのですね。」
「ふん・・・」
「お願いします、閣下、お願いします、閣下。どうぞ私の仇を、」
「鬱陶しいわっ!」
大男が大刀を鞘のまま振るうと突風が湧き起こり、周囲一帯に影響を及ぼした。エマが足元の鉄二を庇う姿勢に転じ、誠は体勢の向きを変え防御の姿勢を取る。すると彼は視線の先に自分が木の根元に寝かしつけていた優子の姿を捉える。
「危ねえ、日高っ!」
彼女の状態に気付くと同時に誠の足は駆け出していた。大急ぎで彼女の前へと戻り、腕の中に抱え込んで暴風を背中で受け止める。
風が彼女達に危害を加えるために放たれたものではないのが幸いした。優子はもとより胴丸に守護されている誠にも傷一つ付かず風は峠を越えた。そして風の姿を借りた刃は、地に転がり無念を喚く妖の身体を襲う。
「閣下、何を、うわあああああああああっ!」
妖がこの世に残した最期の悲鳴であった。大男の起こした風は妖の体を粉々に粉砕し残っていた生命力の全てを奪い去った。離れた位置に転がっていた頭部も体が消滅するとともに粉と化し消滅した。
「お、お前!何やってんだよ。仲間なんだろ?」
優子を抱えたまま誠は激高した、仲間なのか部下なのか相手の関係性が正確には掴めていないながらも、閣下と崇めるものを手に掛けるという冷酷な行動が彼を猛らせていた。
「弱い者になど生きる価値がない、ただそれだけの事だ。」
「何だとっ!」
弱肉強食を体現した台詞を誠は許容できなかった、彼の正義感は弱い者いじめを黙認できるほど弱々しいものでもない。エマにしても思わず槍を握る手に力が篭もる。
「そういきり立つな、まあ落ち着け。」
「落ち着けだと?お前、何様のつもりだ!お前に指図される覚えはないっ!」
「そうだ、お前が大人しくしろ。」
二人が殺気を飛ばす姿を示しても、非道な男は眉一つ微動だにさせなかった。動かざること、鍛え上げられた感のある立派な体躯がまるで大地に根をしっかりと下ろす巨樹を想起させる。
「まあ待て待て、儂はお前たちとやり合うつもりでここまで出向いたわけではない。」
「何を世迷い言を・・・」
「お嬢、女子にしては見上げた心意気と槍働き、しかと見せてもらったぞ。それに少年よ、お主は今はまだその女子よりは腕は劣る。」
「なんだとっ。」
自分では理解しているし認めていることでも他人から指摘されると腹立たしいことがある。年上だがそうは見えないエマに実力が劣る事実が誠にはそれに当たった。女性に優しくしろとの父の教えは、男はいつも女より強いから守ってやらねばならぬのだという実力差の定義を誠の中に生み出していた。この反作用が今湧いている腹立たしさに繋がっている。
「だが、」
男は一呼吸置いて更に続ける。
「だが・・・そう。だが、お主はまだまだこれからが楽しみな男だ。今お主の剣を受けてそれがよく分かったわ。」
「なっ、馬鹿にしてるのか?」
剣を構えたまま誠は持ち上げられた思いを少々感じる。男の台詞の目的が奈辺にあるかまで考えが行き届かないため、褒められて振った尻尾は心の中に隠す。
「故に、お主達は合格だ!」
「はあっ?」
「お主達は儂の配下に相応しい、と言ったのだ。分からんか?そこな、ああもう儂が消してしもうたが、そこな転がっていた負け犬などよりお主たちのほうがよほど使い物になるわ。儂の大望のためには強い手駒が何人いても足りぬくらいだ。ましてや神の力を扱える者とあっては是非にも及ばん。」
「お前、何言ってんだ?」
「そうだ。お前、私達を引き入れて何がしたいんだ。」
「決まっておろう、世界中の国盗りだ。がっはははは。お主達の力があれば人など無力も同然。この手に、天下を握ってみとうはないか?」
この台詞に誠は気宇壮大さを思いつつも、本やテレビの世界では陳腐の域に達するほど出現する世界征服という文字を初めて聞いた新鮮な驚嘆と、世界という範囲の中で最も大それた野望を口走る目前の男に対する畏怖の様な愕きを抱いた。
またエマもこの台詞に吃驚を禁じ得ないでいた。今まで偶発的事象と思い戦ってきた相手が実は大いなる野望を抱いた集団ということで危機感を強める。
「お前、本気か?」
話の大きさについて行けていない誠は改めて質問する。
「本気も本気、大本気じゃ。酔狂で物を言うほど酔うてはおらん。」
「いや・・・酔ってる。」
男の物言いに気に障る点を見出したエマが眉をしかめつつ反論する。
「はあ?儂は白面だぞ。」
「違う・・・血の色に酔ってる。」
「血の色にか、それは間違ってはおらんな、ははははは。」
エマは落ちや笑い話をするために言ったのではなかった。きっと睨んだ目で相手を凝視し、内に秘めた何かを燃焼させるような決意の眼差しを向けていた。
「笑うな。何がおかしい。」
「いや、なあに。お主の比喩があまりに的を得ていたものでな。」
「比喩じゃない・・・真実だ。」
「エマ、お前、何かおかしくないか?」
エマの様子が殺気立っていくのは誠の目にも映っていた。彼女の気配に感情が色濃く乗るのを見ること初体験たる誠には違和感が勝っていた。
「どうもしない、私は私だ・・・」
エマの瞳が甲冑の色と同化するように赤味がかる。鉄二を受けていた手を解き、グングニルを両手に力を込めて握りしめ、今にも全力で襲いかからんとした。
「だから落ち着けと言うに。」
「五月蝿い!私は十二分に落ち着いているっ。」
今に一歩を踏み出さんとしたエマの手から槍は輝きを失った。正確には槍が自ら輝きを封じていた。
「!?どうした、グングニル。」
「奴の言う通りだ、エマ。今のお前は奴の術中に囚われて冷静さも判断力も欠いている。そのような状態でお前を危険にさらす訳にはいかない。」
「いいから私の言うとおりにしろっ、グングニル!」
「落ち着くんだっ!」
誠は初めて彼女と会い、初めてグングニルの声を聞いて以来、初めてそれの怒鳴り声を耳にした。かの声は血気に逸っていたエマの顔を洗うに十分な冷水を浴びせかけた。
「グ、グングニル・・・すまない。」
「分かれば良いのだ。いいな、頭を冷やすのだ。」
「あっはははははは。武器に諭されるとは、お主もまだまだ尻の青い赤子じゃのう。」
「何っ!」
「安すぎる挑発だ。乗るな、エマッ!」
舌打ち一つ置いてエマは足を引き下がらせた。
「挑発でもないのだがのう、つい本音が出てしまったようじゃな。」
男は笑って返した。それは好々爺が自宅へ遊びに来た近所の子等にお菓子を配る時の笑顔の印象とは正反対の心証を受けるものであった。
「憎らしい奴だ。」
「そう邪険にせんでもよかろう、せっかく誘いの手を伸ばしに来てやったというに。」
「その居丈高な態度で人が誘えると思うな。」
「おうおう、手厳しいのう。ではお主だけでも来るか?」
「お、俺かよ。」
エマの頑なな態度に此方には諦めの念を抱いたのか、男の誘いが誠に集中してきた。そして誠は質問に暫しの沈黙を唱える。
「ぬう?おい、誠。お主あのような愚かな誘いに乗るのではあるまいな。」
天叢雲剣の呼びかけにも返答はなかった。更に暫くの黙秘の後、彼は前に一歩足を進めた。誘惑に乗ったのかと見たエマは例え誠を害してでもこのような愚かしい話から脱却させねばと今まで轡を並べていた彼へと槍先を向ける。
「待てよ、エマ。」
やっと誠の口が開いた。
「俺、相棒にも馬鹿にされるくらい頭が弱いけどさ・・・アンタの言ってることは俺が目指したいものにはなりそうにないや。」
男の誘いには乗らなかった。彼は自分に正直に考えた結果、国盗りなどという物騒な野望に己の希望や期待を見出しはしなかった。
「何を言う、せっかく持ったその力、存分に振るうには儂の言う位の舞台でないと釣り合いが取れんというものだ。」
「俺は・・・俺は、別にそんな事したくはねえよ。」
「では何だ?お主がその力で成し得たい事は何だというのだ?」
「俺が成し得たいこと?」
「そうだ、申してみよ。」
「そうだな・・・俺は別に何かしたいわけじゃない。ただ、俺はアンタみたいな連中がいるなんて夢にも思わずに生きている大事な人達を守れればそれで十分だ。その為にこいつの力、使わせてもらうんだ。」
誠は高々と天叢雲剣を掲げて男に見せつけた。
「よく言ったぞ、誠。学のないお前のことだ、内心彼奴の口車に容易く乗りはしまいかと肝を冷やしておった。」
「へへへ、見くびるなよ。俺だってそのくらい何が正しくて何が間違ってるか分かってるつもりだぜ。」
「大事な者達か・・・その、お主の腕に抱かれている女子もその一人だと申すのか。」
「・・・ああ。」
少々どもりは発生したが、誠は明言した。とりわけ大事かと問われればそうとも言い切れるのかは自分でも分からない。だが大事か大事でないかと質されれば大事だとはっきり言える、それが彼の結論だった。
「そうか・・・お主達二人とも儂とは相容れないと申すか。」
「ああ。」
誠は威勢のいい返事を返し、エマは黙って頷き、双方は男との決別を表明した。
「つまり儂の大望を阻む、ということだな。ならば敵対する者としてこの場で成敗するが、よいのだな?」
「ああ。だけどよ、俺達がそう簡単にあんたの思い通りに殺されると思うなよ。なあ、エマ。」
「無論、こんな所で死ぬつもりは毛頭ない。お前も、その女を守るためには死ねないな。」
「当たり前だ、日高は俺が守ってみせる!」
力強く誠は答えた、しかしエマはそれが些か気に障ったかのように反応を返さずにいた。
「ならば仕方あるまい・・・増上慢共め、後悔せんことだな。」
男はゆっくりした動作で、肩に乗せていた大刀を回して左手で鞘を握った。
「この剣を抜けばもはや後戻りはできん・・・いくぞ。」
男の目から笑みが消え、冷たい瞳だけが残された。彼は尚もゆっくりした所作で刀身の輝きを二人の前に見せびらかせた。
「あれは!お主・・・何をしておる。」
男の輝ける剣に真っ先に反応したのは相手の剣の事を承知らしい天叢雲剣であった。
「何を、だと?見て分からぬか、貴様。」
男が天叢雲剣に答えて口を動かしていた、大刀が口を利いたわけではなかった。
「お前、あの剣の事知ってるのかよ?」
誠は神器がまた増えるのか?という思いで剣に問うた。
「ああ、あの剣は間違いない、間違いなく我の知る剣だ。しかしあれは・・・あのように凶々しいものではなかった、なかった筈。」
「ふっ、貴様が千年眠っている間に事情というものはいくらでも変わっておるのだ。我はこの人間と出会い、我の力の使い道を知ったのだ。それが世界の国盗りよ!」
男の口調は剣を抜いてから明らかに変化していた。変化自体が二人と槍、それに剣に奇妙な感覚を覚えさせる。
「あの剣だな・・・剣があの人間の口を伝って放しておる。」
「お前みたいに自分で喋ればいいのに面倒くさい事するんだな。」
面倒くさい事案に懲り懲りの感がある誠は皮肉のエッセンスを混ぜて剣に語るつもりで口走った。
「面倒くさい、か・・・それだけで話が済めばいいのだが、事態はもっと深刻であろうな。」
「まさか、今度は神器が人を取り込んだというのか。」
はっと気付いたグングニルが声を荒げた。人同士には意味が分からなかったが、神器同士には思い当たる節があったらしい。
「その様だな。」
「それって、何か不味いことなのか?」
「我等にも禁忌というものはある。その一つが人を取り込み一体化することだ。あれ、あの『天之尾羽張(あめのおはばり)』は我らに課せられた戒めを破ったのだ。」
天叢雲剣は自分達の事情を語った。
「あ、あめのおは・・・?」
「天之尾羽張、あの剣の名だ。つまりは、あれは破戒神ということになるな。」
天之尾羽張、神話では、伊邪那岐命が火の神、迦具土神を斬った剣とされている。今その剣は戒めを蔑ろにしたために破戒神の諱を送られようとしていた。
「左様。我は十束剣が一振り、天之尾羽張なり。ふはははははは。」
そして破戒神は悪名を付けられることもまるで光栄かのように不敵な笑い声を上げる。その声が地の底から響くような不気味さを持ち誠は恐怖感を刺激される。負の感情を抑制しようと彼は剣への質問を続ける。
「で、あのよ・・・人を取り込むことの何がいけないんだ?」
「考えてもみろ、先程の妖もそこな鉄二なる者達を取り込むことで力を増したであろう。我ら神器が同じことをすればどうなると思う?」
「どうなるんだ?」
「お主は考えんのう・・・見れば分かる。」
毒を吐こうとして、天叢雲剣はそのような状況でないことを柔然に理解して口を止めた。取り込まれたという男は自らの意志であるように剣を構える。
「うお、うおおっ、うおおおおおおーーーっ!」
苦しみを思わせる叫び声を上げながら、男の身体から黒い煙のようなものが噴出する。煙は勢いを付けて上空へとどんどん舞い上がる。男の周囲に煙が立ち込め、彼の姿を完全に隠してしまう。
「気を付けろ、誠。奴の気配がどんどん邪悪なものに染まって行っておる。」
「ああ、俺にもよく分かるぜ。びんびん伝わってきやがる。」
男から放たれる、気配と呼称してよさそうな目に見えない圧迫感は誠やエマにも気持ちの悪い悪寒じめいたものを感じさせる。これを邪悪さの指標とせずしてなんとするかと。
何秒?何分?経ったろう、あまりに長く感じた時間が光陰の如く過ぎ去った頃、闇の煙が内側より振り払われた。中にいた筈の二メートル超級の男は姿を消していた、その代わりに建物の四階ほどに相当しかねない大きな、とても大きな、しかも外見の全てが凶暴性を証明している怪物が、手に天之尾羽張を握りしめていた。その天之尾羽張すら体長十メートルになんなんとする怪物のサイズに見合うように巨大化している。
「おいおい、何だこいつっ!」
「フガハハハハハ・・・我は天之尾羽張、先程の人間を取り込んだのがこの姿よ。」
目は大きく釣り上がり、白光りする牙が何本も口からはみ出し、皮膚はゴツゴツとして硬度を誇る様相を見せる。悪魔と評するより魔神、破戒神ならぬ破壊神のような姿を資格者達は目の当たりにしていた。妖のそれより尚巨大すぎる体躯と尚禍々しすぎる異様が彼らを精神的に襲う。
「誠、怯んだら負ける。」
「分かってら、今更引き下がる所なんてないよ。」
虚勢でも強がりでも忌避や遁走よりは遥かにましだ、エマは誠をそう解釈した。どのみち彼の腕の中には彼自身守ると広言した優子がいるのだから必死にならざるを得まい。だがこのような敵に勝てるのか、エマにも自信はあったのかと問うと、あったとは言い切れないと述懐してたろう。彼女たちの眼の前にいる化物は彼女たちと同程度の武器を持ち、且つ禁忌を犯した力を手に入れていると見て間違いはない。実力は冷静に考えずとも向こうのほうが上と見なければならない。彼女は勝てる算段を思考する。
「ガハハハハ、行くぞ。」
魔神と化した敵はゆっくりと歩を進める、ズシンとした地響きが先に伝わる。しかし誠の腕の中には優子が、エマにも鉄二が意識すら回復せずに抱かれている。取り敢えずはこの二人を安全な場へと運搬せねばならない、その上衰弱しきっている鉄二のほうは一刻も早く治療を施さねばならないのだ。まずこの問題から解決することを二人は無意識の内に意思の統一を見ていた。
二人は頷き、快足を飛ばして一旦魔神の前から姿を消した。
「ぬおっ、なんだと。何処へ参ろうというのだ。」
「ちょっとそこで待ってろ。あとで相手してやる。」
誠の捨て台詞が魔神の耳に残り、彼らは一旦敵前から転進した。
エマはここの地理に明るかった、誠は優子を背負い、鉄二を背負っているエマの後を追う。魔物連中は空間に開けた穴で自由に場所を瞬間的に移動できる能力があるためか資格者の俊足に追いつける足は持っていない。逆に資格者達は瞬間移動の術を持たないために長距離の移動は普通の人間と同じ方法になるとエマは言う。
「昔は馬車馬のように走り詰めて東洋と西洋を行き来していたとも聞くがな。」
無駄に疲労を溜めていざという時に役に立たないのが落ちだと彼女は講釈ぶった。
間を置かず二人は魔神より距離を取った付近の洞窟へと辿り着く。
「今は仕方がない、彼らはここに身を潜ませよう。」
洞窟の中は暗かった。もしどちらかが目を覚ましても困惑は少ないようにと暗がりだが出口の陽が見える位置へと枕を並べさせる。
「これで、よし。と・・・」
誠は装備の兜を脱いで小脇に抱え、優子の横で膝を突いていた。じっと彼女の顔を見てみる、ほんの少し前まではだらしない男子と凛としたクラス委員というだけの関係性であったのに、故郷を離れた右も左も知らぬ土地で望まぬ再開を果たすなどとは。自分の運命も突然回りだしたが彼女の運命もまた激動の坩堝に流されたものだと思うと妙に親近感も湧いてくる。彼女の境遇を思えば不謹慎かもしれないが、彼には異常な世界に見知った顔が流れ込んできたための安心感からか、笑みが浮かんでいた。
「逢瀬はまた後にしろ・・・時間がない、行くぞ。」
「おう、わっ!」
何かが気に入らないのかどことなく非情っぽさを醸すエマが歩きだすと、その一歩が誠の背中に膝蹴りをお見舞いした。故意かそうでないかは彼女にしか分からないが、現実は一つ、立ち上がりかけていた彼は不意打ちを食らったためによろめき、前のめりにひっくり返った。
岩肌に顔面を打ち付けると確信し目を瞑った。気付くと、岩とは正反対に柔らかいクッションが顔を包む感触を覚えている。柔らかいのみに留まらず、温かくトン、トンと軽い振動を伝えてくる。初めて感じるが心地よい感触に包まれるのだ。暫しそのままでいたが鼻口を遮られていた息苦しさに耐えかね顔を上げた時、ようやく状況を理解した。
「わ、わわわわわっ。」
魔神を目の当たりにした驚きより二倍増しの周章狼狽を誠は示していた。彼の顔が今まで埋もれていたのは優子の両胸の狭間に他ならなかったのだ。
「何させんだよっ。」
慌てふためきつつ粗忽者はエマへ言い責めた。その時の誠の困惑と赤面ぶりはエマの心に今後も深く焼き付く程に純粋だった。
「いい冥土の土産になったか?」
「ん、んなわけあるかよっ!」
冗談とも本気とも区別できないほどに抑揚の幅が狭いエマの声に誠は反論した。反論こそ放ったが、実のところはエマにランチの一つでも奢りたいような謝意の感情が芽生えていたことも反論はできない。とどのつまり、彼の怒りはただの照れ隠しである。
「全く、日高が起きてなくて命拾いしたよ。」
相手が意識のない間にやらかした罪悪感が心を侵食しつつ、次こそきちんと立ち上がり優子をちらりと見やって別れの挨拶を交わした誠はエマと再び魔神の相手へと戻る。
梯子を外された格好になった魔神は力を持て余していたのか、周囲の大樹の群れをなぎ倒し、斬り裂き、叩き折っては環境活動家がこぞって眉をひそめる暴れようを披露していた。
そこへ、幕間狂言を一頻り演じきった誠とエマが戻ってきた。
「待たせたな、存分に相手してやるぜ!」
「ほう、尻尾を巻いて逃げずに戻ってきたことは褒めてやろう。だが、それがお主達の命取りだ。」
「ほざけ・・・私達は簡単にやられたりしない。」
「ああ!お前を倒して約束通り家へ帰るんだからな。」
「約束・・・?」
魔神は呟いた。誠の言葉が引っかかったのか、低い声をして高らかな笑い声を上げてきた。
「がはははは、やはり尻の青い餓鬼だのう。約束程度で己を縛るか、安い、安いわ。」
「お前らってのは、安い挑発が好きだな。」
ここ最近で挑発の大安売りに乗せられてばかりであった誠にもようやく進歩の証が認められた。これには天叢雲剣もエマも一目を置いた。
「誠、そっちから攻撃しろ。私はこっちから行く。」
「了~、解っ!」
了承を言い終えるか終えない内に二人は動いた。エマが魔神の左方へ、誠が右方へ展開する。同時に見事な跳躍を見せ背後の左側右側から強烈な一撃を叩き込もうと神器を構えた。刹那、目の前が暗転して体中に痛みを伴い風を感じた。彼らが攻撃を与えんとするより早く身体を回転させた魔神の両腕がラリアットとなって二人をそれぞれに捉え、驚異的な力で吹き飛ばされていたのだ。誠は何本かの大樹に向かってその身が弾丸と化しこれを粉砕し地面に叩きつけられ、エマは山肌に直接身をぶつけた。
吹き飛ばされ慣れた、とは言い難い体で誠は起き上がる。胴丸を装着できるようになったためにダメージは前の妖に飛ばされた時より格段に軽減されていると思えど、食らった威力が段違いで身体にみしみしと激痛が走る。
「さすがに親分だな、さっきの奴とはパワーが違いすぎだ、痛ぇ~。」
「大丈夫か?」
「ああ、なんとかな。この鎧、結構頑丈みたいだな。」
「まあこれも神の力の賜だからな。だが気を付けろ、この甲冑、我の身程強いわけではないぞ。」
「へえ・・・じゃあお前でこの鎧切ったら割れるわけか。矛盾ってのにはなりそうにないな。」
この矛(剣)ならばこの盾(胴丸)を貫けると、相反する意見の両立にならない説明に誠は安心を求めようと中国の故事を読み解いた。要するに決して無敵ではない防具と、対して強大な力を有する敵との相関が起こす不安を払拭したかったわけである。
誠は敵を再確認する、己が数瞬前に存在していた、飛ばされる前の位置から動いてはいない。ではエマは?確認すれども姿は見えない。そこに彼女の気配を追った天叢雲剣が助け舟を出す。
「向こうだ、奴の向こうの山を見ろ。」
誠が目を凝らして見てみると、魔神を中点として自分の位置と点対称を成す辺りの山肌に穴ぼこと土煙が見えた。
「あの煙の中か、生きてるのか?」
「うむ、命の灯火はまだまだ燃えておる。」
安堵の息を彼は吐いた。各々逆方向とはいえ相手の方はというと目を凝らさねば位置を確認できないまで飛ばされるとは、改めて魔神の膂力を恐れるところである。
「あまりあんなのを何発も食らってられないな。」
「うむ、回復力が追いつかなければ体の損傷は残るが、一撃で致命傷を喰らえば回復できるできないの話にもならぬのだからな。」
「そうだよな、大体そのくらい分かってるつもりだけど・・・そんな一撃を食らうかも知れない奴が目の前にいると思うと、ゾクッとするぜ。」
一方、エマも山に開けた穴の中で善後策を講じていた。
「痛つつ。」
「大丈夫か、エマ?」
「問題ない、この位・・・よくあること。」
槍に対してエマは強がった、今回の一発はかつてなかなか経験のない一撃を被っていたのだ。直ちに命にかかわることはないとはいえ、幾度も攻撃の嵐に見舞われれば保証の限りでないことは熟知している。そして二人がかりでも実力差が離れすぎている件も一撃を食らうのみで理解できた。
「どうする・・・」
エマの思考には勝利への道が存在しないわけでもなかった。ただ実践するに必要なリスクもまた存在し、そう考えると思い付いた道を進むには無視することのできない路上の大岩の存在があった。
「やはり、これは駄目だな。」
エマは思考を一人で結論付けて穴から身を起こし、再度敵の元へと立ち戻る。と、同時に反対側から誠も舞い戻ってくるのを確認できた。
「弱いな・・・お主等、弱すぎるぞ。駒としては十分だが、我に歯向かうには千年は早いわ。」
「へっ、千年もすりゃ俺達は死んでるって。」
「駒か・・・せめて飛車か角行でお願いする。」
二人共に、減らず口が叩ける余裕は残っていた。何度も二人は魔神へと向かっていく。しかし相手の反撃を確実に避けることを念頭に置いていては踏み込みも浅く、折角当てられた場面でも確実なダメージを与えてはいなかった。このままでは根負けが待つことを容易に予想できたエマには焦燥の色が次第に強くなる。
他方、当て続けていればいつかはなんとかなる、と楽観的且つスタミナの優位性を根拠なく自負していた誠の側にはエマに見られる焦慮の気配は少なくとも今の時点では現れていなかった。それが必ずしも優勢に結びついたわけではなく、手を拱く様子は両者ともに打開できないでただただ球技の練習でボールを当て続ける様に魔神に決定打とはならない撃ち込みを続けていた。
知勇兼備の良将という賛辞があるが、誠は明らかに勇に傾斜していた。そもそも将と呼べる程の経験も積めていない彼に将器を求めるのは酷かもしれなかったが、彼の前に突き付けられている現実は器を求めざるを得ない状況の真っ只中である。敵の一撃はとにかく交わしつつ自分の攻撃で絶対的な力の差を持つ相手に確実にダメージを与えよという命題を解くには天叢雲剣による剣技の知識を持ってしても、依代自身が更に補う必要もあった。此処ではその補充分が致命的に欠落している。
攻撃が効いていない事実により、誠もようやく焦燥を募らせるようになった。
「畜生、これだけトントン当てていたところであいつ、蚊が刺したくらいにしか感じてないな。」
「焦るな、焦って剣筋がぶれてきているぞ。」
「分かってるよ!だけどぶれてもぶれてなくてもあいつにはまるで届いてないってのがな。何とかならないのか?」
天叢雲剣は目前の敵による攻撃の他に、依代の心の弱さという二正面作戦を強いられた。剣もまた、まだ姿が見えるものだけならまだしも心などの非物理的対象への接触は相対的に得手というわけでもない。特にこの時は受講生の側に聞く耳無しという姿勢に難があったので尚更である。
魔神の攻撃の巧妙さもあったが、既にもう一人と連携した動きが取れていなかった資格者はそれぞれに格好の的となるに十分であった。後はタイミングの問題、と魔神は踏んでいる。魔神も魔神で、人と同じく周囲に蚊蜻蛉がいつまでも飛び回っている様子を快く思えておらず事態の打開を虎視眈々と狙っていた。
開戦から十分以上、魔神の足が数十歩程進んだ頃合いに変化は訪れた。魔神の狡猾さは足運びにあった。当初こそ自らの巨大な身体とそれに見合う長い腕、そして天之尾羽張を存分に振るうためにも周りの木々を破壊して空間を作っていたが、それでは相手にもそれこそ蚊が飛び回る空間を開けてやったようなもの、と既に方針を転換していたのだ。
つまりじわじわと、自由に飛び跳ねるには相応しくない木々が生い茂る箇所へと二人を追い込んでいた。やがて奸智が効果を発揮する。
「ぐあっ!」
網にかかったのは誠の方だった。魔神の斬撃を避けた際に背中から大樹に激突して体勢を大きく崩してしまった。
「ぬはは、罠にかかったか。もらったあ!」
今避けたばかりの剣を握り締めた魔神の大いなる拳が振りを逆向きに転じ誠へと襲いかかる、柄頭を突き出して目標を寸分たりと狂わさずに狙い定める。迫り来る脅威に対して誠は腕を組んで役にも立たない防御の姿勢を取るのが精一杯だった。彼は観念の意を示すかのように目をぎゅっと閉じる。
「ぐはあっっっ。」
誠は闇の中で自分の声とは異なる悲鳴を聞いた、しかも攻撃の衝撃は全く感じないでいる。違和感ばかりが襲い、彼はおそるおそる眼に光を入れた。
目を開けた瞬間、彼が見たものはこれまで以上の衝撃を持って迎えることとなった。彼の目の前には朱の色をした甲冑を纏う女性が彼の身を守るようにはだかり、魔神の攻撃を土手っ腹に受けていたのだ。吹き飛ばされまいと力一杯魔神の攻撃と正反対の方向へと跳びかかり拳の威力を一身に受けた。
「あ、ああ、あ・・・エ、エマ?」
甲冑の隙間から赤い液が垂れ落ち、エマから誠に返す言葉もないままである。
この情景が目に飛び込んできた時、彼は世界の色が反転する気分に襲われた。そして目の前でエマの体は物言わず崩れ落ち、頭から真っ逆さまに地面へと落下を始める、誠は空中で姿勢を変えることもできず、彼女から離れる横方向のベクトルが加わった自由落下に身を委ねた。魔神の肩の位置、およそ建物の三階付近からの降下である、
空中を藻掻いてエマの落下する縦一直線の方向へ体を持っていこうとするが努力は一ミクロンの実も実らせなかった。藻掻けども藻掻けども誠の体は物理法則を遵守し彼女からどんどん遠ざかっていく。
「くっそぉぉぉぉっ、エマ、エマ、エマあっ、死ぬなあっ!」
いざという時に物理も曲げられずに何が神の力かと、誠の叫びと嘆きが届いたのか、エマの頭部が地上と望まぬ接吻を交わす寸前、彼女の身を抱き止めて空中へと跳躍する一陣の人影が現れた。その者は白い甲冑を纏い、綺羅びやかな剣を佩いていた。そして誠はその姿を、着地した所から高く眺める。佩く剣には確かに視覚的記憶を有している。
「そらっ、手土産代わりだ。」
魔神の顔の前まで跳んだ白き甲冑の者はエマを片手に抱いたまま、剣を魔神の前に突き出し、刃の面を見せつける。すると剣は眩い、眩すぎる輝きを放った。
「うっ、くわっ、目があっ!」
魔神は直接強い光をその目に喰らい一瞬の盲目を余儀なくされた。片手こそ目頭を押さえに回したが、この隙を狙わせまいともう片手があてどもない方向へ剣を振り回して剣撃の壁を築く。
だが白い者はそのくらいは折込済みとばかりに魔神に無駄骨を強いて、剣を収めた腕で誠も抱え込み、一目散に魔神の前から姿を消し去った。
一行は魔神の位置からそう遠くない森の中へと身を隠した。白き者がエマを介抱と木に寄り添わせる。
「あの・・・助かったよ、アーサー。」
誠は白き者を名で呼んだ。全身を覆う甲冑に記憶はなかったが、彼の有するエクスカリバーの姿は記憶に留まっていた姿と一致していたからだ。彼は頭部の鎧を脱ぐと、誠にも覚えのある黄金の髪に彩られた端正な方になる顔を晒した。
「おお、覚えていてくれたか。俺は嬉しいぞ。」
「覚えるも何も、そんな剣はそうそうないだろ。」
「そりゃそうだな、はははっ。」
アーサーは軽く笑ってみせた。場が張り詰めていたところに彼の軽い乗りが一服の清涼剤の役割を果たした、緊張のため眉間に皺の入っていた誠の顔にも綻びが見えだす。
「ははっ、アンタって本当に面白いやつだな。」
「それは光栄だな。それにしても誠・・・俺がいない間にとんでもない奴に出くわしたな。」
一旦心を落ち着けさせた後で本題に入る、アーサーは巧みなところを見せる。
「ああ、そうなんだ。アーサーはアイツのこと何か知ってるのか?」
「少しはな。あれは、天之尾羽張。お前のKUSANAGI同様、この国に伝わる神器の一種だ。」
「神器?神器なのか?」
「ああ、それは間違いない。ただ神器が選んだ依代が悪すぎた。何故かは分からんが依代の心が邪悪に満ちていたために天之尾羽張までが汚れ、魔性の物へと堕ちたのがあの姿だ。」
「堕ちたくせになんて強さなんだか、溜まったもんじゃないな。」
「堕ちたからこそ、だな。だから人を取り込む禁忌により無類の強さを発揮している、ヤツを倒すのは一筋縄ではいかんぞ。」
「でもあんな奴はここで倒しておかないと、街にでも出ていったら大変なことになるだろ。俺が、俺達がなんとかしなきゃ。」
誠はまっすぐな目でアーサーを見た。アーサーは彼の目から誠の中の真剣さとまっすぐな心が見えていた。
「いい目だ、誠。いいか、ヤツを倒す方法もなくはない。それはだな、」
「う、ううっ・・・」
アーサーが言葉を続けようとすると、呻きが聞こえた。
「エマっ!」
二人は同時に女性の名を呼んだ。エマがようやく息を吹き返したのだ。だが彼女の腹部は深手で、回復力がまるで追いついていない。
「すまんな、エマ。遅くなって・・・まさかこんなことになるとはな。」
「か、構わない。だけどあれ、あいつを。」
かすれるような声を絞り出してアーサーへとやり残した宿題を伝えようとするエマ。そこには彼女の強い無念の思いと使命感が溢れていた。
「ああ、俺に、俺達に任せろ。とにかく今は体を治すことだけに集中しておくんだ。」
彼は言い直して誠を頭数に入れていることをアピールする、そこに誠は高揚感を見出す。若輩と呼んで支障ない己も頼られていることが確認できたのだ。
「どうする・・・?どうやってあいつを・・・」
「そうだよ、アーサー。まともに斬ろうたって全然歯が立たないんだぜ。」
「・・・あれを使う、エマ、グングニルを貸してくれ。」
決意の顔を示したアーサーは、エマから許可を乞うと同時に既に彼女の得物を手に掴んでいた。
「待て、アーサー。あれは!うっ。」
叫び声を上げたことで傷口に激痛を伴ったエマは言葉を続けられなかった。だがこの二人の間で魔神を倒す事のできる何らかの共通認識が存在することは確かである。
「落ち着け、俺が何もお前を置いて死に急ぐわけないだろう。」
色気を敏感に感じ取る能力に長けていたら誠の表情はいやらしい笑みにでも包まれていたろう、しかし誠はそこに長けてはおらず、話の腰を折ることが不可能であった。それどころか進んで本筋に加わろうとする。
「なあ、俺にも教えてくれないか?その、あいつを倒せる方法ってのをよ。」
「うむ・・・」
アーサーの口は重かった、彼はふいにエマの方を向く。彼女はこくりと頷き彼の思い通りに、というメッセージを送った。
「分かった・・・話そう。やることは簡単だ、一人で神器を二本持てばいい。」
「それだけか?」
「ああ、それだけで俺達は今の何倍にもなる力を得ることができる。ただ、」
「ただ?」
「その代わり二つの神器を振るうパワーに俺達の体が耐えられんというとんでもないデメリットがある。多分エマも思い付いていたんだろうが、そこで躊躇していただろう。」
エマは無反応だった、沈黙をもってアーサーの予想に正解を告げていたのだ。
「耐えられないって、どうなるんだ?」
「フォルティア・ミーラは絞り尽くされ、体は・・・いや、体が壊れるより先に精神力が枯渇するだろう。俺達も実際に見た試しはないが、眠るように死ぬと伝え聞く。もって・・・三分というところか。」
「眠るように・・・死ぬ?」
誠は唾を飲み込んだ。アーサーやエマですら命を賭する事をせねばあの難敵は倒せないとの宣言には背筋に悪寒が走らざるを得なかった。この十日ほどで死を意識させられたのはもう何度目か、その都度なんとかなってきたのは幸運だが今度は自分より強い者からして命懸けと言われたために戦慄の方向性に若干の変化もあった。
「他の方法は?あれ、俺達も、神器に取り込まれるって方法はないのか?」
誠は思いつきで言った。
「それは駄目だ。ああなってしまえば俺達はもう人には戻れない、心も体もな。それはもはや何も齎さない自殺に等しい。これは、それだけは回避するための苦肉の策でもあるんだ。俺達が二人組のチームで行動していたのは、もしもの時はこの手を使うためでもあるのさ。」
アーサーのグングニルを掴む手に力が入る。険しい表情が最後に残された方法の危険性を物語る。やおら決意して立ち上がろうとする所へ、誠の手が更に槍を握ってきた。
「なんだ?」
「あのさあ、神器さえ二本持てば俺にだって力は出るんだよな?」
「ああ、そうだが。お前、まさか?!」
「ああ・・・俺にやらせてくれないかな。」
誠は薄くほほ笑みを浮かべた表情で立候補した。アーサーの険しいそれとは正反対である、危険性を十二分に認識している心情の差でもあるがそれだけでもなかった。
「馬鹿野郎っ、昨日今日ようやく着衣ができるようになった程度のお前に任せられるか。俺がやるっ。」
「そうじゃないさ、もしあんたが失敗したら俺一人じゃどうしたらいいのか分からない内にやられるのが落ちだけど、俺が失敗したらまだあんたがいるじゃないか。それに俺、あいつが許せないんだ。許せなかったのは俊や鉄二おじさん、日高に手を出した妖だった。だけどあいつはその妖の親玉のくせに、そいつを用済みのように殺したんだ、そんなの目の前で見てたら・・・許せないんだっ!」
誠の顔から笑みの成分が消え、真面目な表情となる。彼は戦術性と心情の両面からアーサーを説き伏せにかかった。どちらにより納得の度合いが行ったのかは不明だがアーサーはグングニルから手を放し、誠の提案を受け入れたことを示した。
「そうか・・・お前そんな口が叩けるんだな、見直したぞ。」
「や、やめてくれよ、そんな長年見てきた兄貴みたいな口ぶり。」
自分でも大言の気はあると認識していたが、改めて人から言われたために気恥ずかしさが現れた。
「ふっ、これはますますお前をうちに迎え入れないと上から説教を食らうな・・・いいな、生きるんだぞ。」
アーサーはきっと彼を見て違えべからざる約束を交わす。
「ああ!分かってるさ。」
互いの勝利と生存を祈りながらアーサーと誠はがっしりと腕を交わらせ合った。交わる下では、エマが満足げな笑みを浮かべ、休息への誘いに体を預けていた。
「ぬおおっ、どこへ隠れおったあ!」
巨大な雄叫びを擁して魔神が木々を草のように押し退けながら近傍へと差し迫ってきた。エマを隠す必要のあった二人は森の中を大きく迂回してまるで違う方向から目標に再接近を果たす。
「待たせたな、デカブツ。」
威勢だけはよい誠が魔神の横から存在を示す。すると魔神は彼らの狙い通りに向きを変えてエマの横たわる方向から一歩離れた。この時点で二人は作戦の第一段階を完了し、心の中でほくそ笑んだ。
「ほう、面子を変えてきたか。しかしそれがなんになるかな、がはははははっ。」
魔神は余裕の高笑いを繰り返し、眼下の人間たちを嘲る。果たして嘲笑に怯まず、そして引かない彼らが決意の目に溢れていたのを認識するに時間はかからなかった。
「何か秘策でもあるようだが、小手先の芸でお主等が我を倒すなど夢のまた夢だ・・・片腹痛いわ。」
言葉の尾鰭には怒気が混入していた。力の差を見せつけた筈だが諦めを知らずまだ歯向かってくる木っ端のしつこさに多少なりの食傷を感じていたためである。そんな人外の気持ちなど知る由もなく、誠は右手に己の相棒を握りしめ、左手にエマから借り受けた得物を固く掴んでいる。
「これでいいんだな?」
「ああそうだ、後はいつもの要領だ、二つの神器の力を感じて自分のフォルティア・ミーラと一体化させるイメージを描け。」
アーサーは力を開放する方法までは学んでいた。無論実践の場に立ち会うのは初の経験であり、いかなる結果を残すのかは彼にも皆目見当が付かない。
「我はいつでも問題ない、好きにしろ、誠よ。」
「私も大丈夫だ、エマを守るため、世界を守るため、お前の命を暫し私達に貸すのだ。」
「おおっ、いくぜ!」
両手に携えた神器が誠の意識に共鳴する。右手から、そして左手から伝わってくる熱のような光が自分の中点に宿る光と合致を見た時、それは一気に誠の体を駆け巡る。
「おおおっ、おおっ、うおおおおおおーっ!」
金色の光が誠の体から溢れ出し、黄金の煙が鎧の継ぎ目から立ち上る。やがて光は胴丸を彩り、彼の白銀であった防具は黄金色の輝きを放つ。
「おお、これが俺達の真の力なのか。」
初見となる自分たちの尋常ならざる力の発現にアーサーは息を呑んだ。
「どうだ、その力は?」
「ああ、すげえよ、アーサー。力が溢れるくらい漲ってやがる。これなら行けるんじゃないか、いや、行ける!」
心技体の三者に於いて気力体力の充実極まれた誠に敗北の想像はなくなり、この力で邪を打ち払い、そして全員無事に帰るという信念が決意に昇華された。
様子を見ていた魔神は、木っ端同然の相手が何をしでかすのかを見極めておきたい探究心も重なって余裕の態を崩していなかった。
「行くぜ、とりゃあああああっ!」
誠は魔神へと剣、そして槍を繰り出した。今まで通り弾いてくれるとばかりに厚い皮膚で守護された腕を差し出して防御する魔神。だが今回はここまでの通例が通例通りには行かなかった。誠の突き出した二つの神器の先は魔神の腕の一点に重なり、皮膚を貫き、初めてそれの体内への侵入を果たした。
「ぐあっ!こ、小僧、お主この力は一体っ。」
深々と突き刺した二本を引き抜くと、傷口からは魔神の体液であろう黒々しい液体が流れ出る。地表へと滴った体液はコールタールのようにぎとぎとしい池を発生させたが、土草はそれと反応して煙を上らせながら溶け落ちる。
「な、なんだぁ、あれ?」
神器を引き抜いた反動で近くの大樹の枝へと体を飛ばし下りた誠は地面に広がる血の池地獄の様を気持ち悪く眺めた。
「酸だ、奴等の血は酸性だが奴の血はとびっきりの強酸のようだな。その辺の妖の血など俺達にはなんとも無いが流石にこれはいかん、とうっ。」
アーサーもこれは敵わんとばかりに手頃な大樹の枝へ飛び乗った。更にアーサーを気がかりにさせる要素はまだ存在していた。誠の様子を窺うと、彼はただ一撃を放っただけでもう肩で息をしていたのだ。
「誠っ、大丈夫か?」
「ああ、平気平気。」
顔は笑みを浮かべて返答していたが、笑みの中に隠しきれない顔のしかめようと息の荒らげようとは如何ともし難い。アーサーは心配の目を向ける。
「大丈夫だって、ほら。」
彼の視線に気付いた誠は腕を大きく上下させて無事をアピールする。だがそれはむしろ逆効果であった、無理をしていると確信できたアーサーの不安が増したばかりか二人の様子を見ていた魔神にある確信を抱かせる。
「ふふ、そういう事か。ならば。」
魔神は巨体を跳躍させ大きく後ろに下がった。
「出でよ我が眷属達よ。」
魔神の言葉に答えて奴と誠達との空間が大きく湾曲し小さな渦が幾つも並ぶ、中からまたしても獣の魔物が現れてくる。但し今回の特徴はその数にあった。およそ百体の獣が出現し、彼我の間をびっしりと埋め尽くしてしまった。
「くっ、時間稼ぎのつもりか。とことん姑息だな。」
「なんとでも言うがよい。最終的に立っていたものこそが勝者だ。敗者の戯言など勝利の前では塵程の価値もないわ。者共、行けいっ。」
アーサーの言葉など負け惜しみの一つと捉えた主の号令一下、百の獣が一斉に二人目掛けて牙を向いて襲い掛かってきた。ただ単に獣を倒すだけなら何の問題もないがこの量を相手に獲物を奮っていては親玉へ辿り着く前に精魂尽きるであろう、誠は悩んだ。
「誠、こいつらは俺に任せろ。お前は俺の後ろについて来るんだ。」
「えっ?」
先んじてアーサーが獣達の群れへと突入した。誠は彼の言うまま彼の後ろに付き従う。どうするつもりかと訝しげな誠を余所にアーサーはエクスカリバーを水平に構える。
「いいか?行くぞっ。」
「オッケーだぜっ。」
陽気なエクスカリバーはアーサーの号令に二つ返事で答えた、剣先に光が貯まっていく。腕を引き、益々先端の光が強まり人をも飲み込む程の大きさに膨れ上がった所で頃合いと見たアーサーは一気に腕を伸ばして空間を突くように剣を突き出した。
エクスカリバーの光が剣を離れ、弾丸を発射するように前方へと勢い良く飛び出す。放たれた光は更に輝きと大きさを増し、眷属共を次々と飲み込んでモーゼが紅海を割るが如く獣の群れを左右に分かち、二人の前に一筋の道を示した。これで一気に獣の壁の中間以上まで二人の足は進めていた。
「す、すげえ・・・」
「これが俺の十八番さ。威力は大したことないんだがそれでもこの程度の魔物には効果覿面だ。」
「俺にもできるのかな?」
「ああ、お前にもできるさ、なんたって俺が保証するんだからな。だからアイツに目にもの見せてこい!」
「ああ、ありがとう!」
当てにしていいのか不明瞭な保証を頂戴し、アーサーの肩を使い更なる跳躍を誠は見せた。まだ有象無象に残る獣共を一気に飛び越え本丸を狙うつもりだ。
させまいとばかりに獣が二、三体高く舞い、誠の肩や足に食らいついた。それでも誠の跳躍はスピードを緩めずに一気魔神へと到達した。相手も剣を掲げて応戦の構えを見せたが天は明らかに邪を嫌ったか、天叢雲剣に太陽の光が反射し、再び魔神の視界を光が遮った。そこへ天叢雲剣の一閃を魔神の右肩に振り下ろす。
「ぐああああああっ!な、なんのおお。」
魔神もさるもの、悲鳴を上げながらも肩の筋肉を強張らせ剣筋を肩口で止めたばかりか剣を抜くことすらさせずに誠の身を止めてしまった。こうなれば力に勝る魔神はしめたものと左手を肩付近に回して誠の胴を噛み付いていた眷属もろとも握りしめた。
「しまった!」
「ぐはは、こうなってしまえば最早何もできまい。このまま握り潰してくれる。」
体躯と膂力に大きく勝るものは力任せに押し通す傾向にあるらしい。つい今しがたの妖にも似た方法をされたが、同じパターンで危機に陥るのは誠の戦闘経験がまだ敵の手を正確に洞察できる程高まっていないことにも原因があった。
共に掴まれた獣は早々に離脱したようで彼の胴丸を噛んでいた牙も力が抜けていた。誠はまだまだ踏ん張れる余力はあったが、今の状態が続いてはいずれ獣の後を追うだけの話である、現に胴丸も歪まされ骨も軋む感覚に襲われている。ここで彼にとって僥倖とも言うべきは、抜けない剣を必死に抜こうとして伸ばしていた腕は両方が自由を奪われておらず、剣と槍を腕節のみながら振るうことは可能であったことである。
「しっかりするんだ、誠。ここで負けたら今までの全てがふいになるのだぞ。」
「エマのため、人々のため、頼む、誠よ。」
神器による励ましもどれほどの効果があったか知れぬが、いよいよ肋骨も圧力に屈しようかともなった頃、誠は閃いた。
「なあ、グングニル。」
「何だ?」
「ちょっと、頼むぜ。」
「うわあっ、急に何をする!?」
誠は腕の力だけを頼りに魔神の顔めがけてグングニルを思い切り投擲した。虚を突かれたが所詮は力不足、額の皮に突き刺さった程度でグングニルは勢いを消されてしまった。
「ふんっ、何をするかと思えば苦し紛れに神器を投げつけただけとはな、往生際が悪いぞ、無様だな。」
勝ち誇った魔神は握力を増し、小さな敵をいよいよ握りつぶしにかかる。
「おい、相棒。」
「今度は何だ、次は我を投げつけるとでもいうのか?」
片手の神器がぞんざいな扱いを受けたと思った天叢雲剣は不機嫌な声で無礼な依代を問い質した。
「違うって。あれ、グングニルは金属だよな。だったらあそこにお前の得意技のアレ、やってくれ、頼む。」
「そ、そうか。よもや神器に対して我の力を使うとはな。お主、少しは頭の回転が速くなったのか。」
「いいから、早く。」
売り言葉に買い言葉を接続させる余裕も既に失われていた誠の状態を慮り、天叢雲剣は可及的速やかに己の能力を発動させた。つまり雷の光臨である。狙いは、敵の額に突き刺さったグングニル。
言うが早いか天叢雲剣の招来した雷がグングニルへと落雷した。額に堂々と避雷針を建てられていた魔神は脳天へとまともに何千万、何億ボルトになんなんとする強力な一撃を被った。
「ぐわああああああっ!き、貴様、こんな芸があったとは、ぬかったわ。」
苦しさのあまり悶え、片手が顔を抑え片手がグングニルを引き抜こうと両手が顔に集中する。自然、天之尾羽張も手離してそれは自重で地面に突き刺さる。
「ここだ、勝機ぞ、誠!」
魔神の手より解放され、地へと足を下り立たせた誠に剣がけしかける。握りつぶされかけていたダメージと二刀流神器の疲労で極限を垣間見ようとしていた誠は正しく最後の力を振り絞り最後の跳躍を見せた。
「おのれ、何処へ消えおった餓鬼が。」
「俺は、ここだあっ!」
手を顔から退け、憎き誠の姿を確認するが地面を見渡せど全くその姿を捉えることはできなかった。それもその筈、彼はここで今までにないジャンプ力を発現し、魔神の頭頂部をも上回る高度にまで飛び上がっていたのだから。
「これで決めてやるっ、俺の全てを食らええいっ!」
これが最後とばかりに誠は剣を振り上げ先般の肩傷を狙って落下を始め、渾身の力を乗せてそこへと一撃を叩き込んだ。
「切り裂け、天叢雲剣!う、うおおおおおおおっ。」
魔神は為す術なく右肩の傷から斜めに切り捨てられ、左太腿までざっくりと剣でなぞられ真っ二つにされた。
「こんな、こんな・・・人間風情に我が、神の我が敗れるだとおっ!?」
「お前も我らも神などではない、ただ神の力を持つというだけで己を全知全能の神などと錯覚するな。」
天叢雲剣の注意が耳に届いたのかどうかも分からぬまま、魔神は断末魔の悲鳴を上げながら全身に亀裂が生じ、乾燥した土塊が崩れ去るような崩壊を示した、そしてこれもまたやがて砂のように黒き粉状に分解し、崩壊の衝撃で全てが舞い上がったかと思うと、ゆっくり雪のように舞い降り、地に着くまでに消えていった。
主の消滅とともに魔神が呼び寄せた眷属たちも次々と分解していき、アーサーは自らの剣で百体斬りに挑戦する機会を失った。しかし撃墜数などは彼にとって何の意味もない、勝つこと、生きること、そして守ることだけが彼らに意味を持つことを許されていた。
「よくやったぞ、誠!天之尾羽張まで倒すとは流石は我の見込んだ男だ。」
「まったく、神器に雷を落とすなどという罰当たりな策など聞いたこともないわ、ましてや私自身が体験者になろうとはな。」
天叢雲剣、グングニルがここまで達成した誠を労う。だが、魔神を切り裂き剣を構えたまま着地した誠は体勢を一歩も崩さず、神器達の讃えようにも一言も発さずにいる。
「誠よ・・・おいっ、返事をしろ!」
天叢雲剣が言葉を荒げて誠の生命反応を促した。それでも彼は相棒の声に耳を貸さず沈黙を貫く。そればかりか精根尽き果てたように前のめりにぐらりと身を揺らしそのまま地へ倒れ伏そうとした。
地に落ちきる前にアーサーが誠を助ける。倒れ行く彼へ一目散に駆け付けしっかり抱き止めて彼の生死を確認しようとする。
「誠、しっかりしろ。勝ったんだ、お前は勝ったんだぞ!」
アーサーの必死の叫びにも腕の中の英雄は指すら、眉すらも微動だにさせない。
「しっかりするんだ。お前、こんな所で倒れてどうするつもりだっ!親御さんに俺達になんて言わせる気だ!」
大声を出そうが体を揺さぶろうが誠は彼の必死の呼びかけには答えなかった。
「誠、誠っ、誠ぉーーーっ!」
彼の叫びが耳へと届いたエマはこちらも体を殆ど動かさないでいたが、ただ頬に涙をつっと伝えた。神器達は物言わぬただの物体のように静かに佇み、アーサーの叫喚だけが辺りに木霊した。
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