アルコールで夢を見させて

 こんな悲しい恋、俺は知らない。

 ああ、吐き気がする。なんだってこんな目に合わなくてはならないんだ。クソが。

「ちくしょう……」

 口からは負け犬のような言葉ばかりが漏れ出ている。なんだって、好きなやつの結婚式になんか。

 ここまで考えて思考を停止させた。結婚式の打ち上げにも出ず、コンビニで買い漁った安酒で腹を満たしていく。味なんて、もはやわからない。ただ、思い出したくもない笑顔を消すためアルコールを入れる。

「うぉえ」

 喉元からせり上がってくるものをなんとか押さえ込み、一応買っておいた水を文字通り浴びるように飲む。震える手では口元に持って行くだけで精一杯なのだ。

 あれからどれだけの時間がったったのだろうか。脱ぎっぱなしのスーツとネクタイは帰ってきた時から変わらずベッドの上でくたびれている。

 その光景にまた、あの笑顔を思い出しそうになってしまう。そうなる前に先ほど飲み干した缶を投げ捨てビニール袋から新しい酒を出す。新発売だの、瀬戸内レモン使用だのなんだの書いてあるが全く気にすることなく開けて、半分まで一気に飲む。

 グラグラする頭はそれでも彼女について考えることをやめようとはしない。クソが。

 真っ白な夢のように美しいウェディングドレスに身を包み、静かに微笑んでいた。その隣には忌々しい男がこれまた、幸せの絶頂といった顔で立っているのだ。

 そうして二人は神父様の前で永遠の愛を誓う。男が彼女のベールに手をかけた時、どれほどその手を切り落としたくなっただろう。隣にいた友人に肩を叩かれなければ実行していたかもしれない。

 しかし、俺は彼女の恋人でもなければ友人でもない。せいぜいクラスメイト程度だろう。まったく、彼女もこんな男の惚れられて可哀想だ。

 そこまで考えると、途端に凄まじい眠気が襲ってくる。これは二日酔い決定だ。そう思うも睡魔に抗うことなく瞳を閉じる。ああ、願わくば夢の中でだけでも彼女に会えますようにと、いもしない神に祈りを捧げた。




 翠玉は『こんなに悲しい恋を、俺は知らない』で書き出してはいかがでしょう

 #書き出しいかが

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診断メーカー系 翠玉 @siugyoku

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