知らなすぎる

「私たち、別れましょう」

 夜の帳が下りる帰り道。寂しげな住宅街に私の声が寒々しく響いた。

 彼は何も言わず立ち止まる。うつむいている私には彼の表情は読み取ることができない。

「もう疲れたの」

 気まずくて、顔を右にやればそこは公園だった。子供達はもう帰ったのだろう。置き去りにされたボールが風にあおられて転がる。

「そうか」

 理由を聞くでもなく、怒り出すわけでもなく静かにそう言った。

 やはり、この人は分かっていない。

「これ、返すわ」

 右手の薬指から抜き取った安物のリングと部屋の鍵を彼に返す。

 その時にちらりと顔色を伺うと、全てわかりきっていた、そんな顔をしてた。

「さよなら」

 素早く手のひらに乗せると、足早に立ち去る。

「楽しかったよ」

 後ろからそんな声が聞こえた気がした。

 ああ、やっぱり。あなたは女の子のこと知らなすぎるのよ




 翠玉へのお題は『女の子のこと知らな過ぎるのあなた、』です。

 https://shindanmaker.com/392860

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る