第31話 黒猫と死闘①開戦合図
あれから数時間が経ち、夕刻。
仕事に出ていた冒険者達の数多くが戻ってくる中、黒猫、アトス、クロエの3人は闘技場へと向かっていた。
できれば直ぐにでも使いたかったが既に先約がいた為、この時間帯の使用となったのだ。
そしてその道中。アトスは黒猫の肩をトントン、と叩き話しかけてきた。
「なんだ?」
「あー、うむ実は我にも得物が欲しいのだ。ここは街中、獣となる訳にはいかんだろう?」
「……アトス様はそう言えば魔獣でした。こう、今の姿をまじまじと見ても信じられませんが……」
そして、ここ数時間共にいた為か少しだけ体の力が緩み、小さくだが声に抑揚を持たせるようになったクロエ。
「うむ、そうなのだよクロエ嬢。だが、人の街であの様な姿になればパニックが起こるのは必然であろう?」
「……なるほど。しかし、貴様ならば人化しようが無手だろうが能力ナシに吾輩を圧倒できるではないか?」
「うむ、まぁそうだな」
アトスは否定はしない。たとえアトスが人間体となろうとその力と技術と圧倒的な差は覆らない。それにアトスは武器を使うよりも、無手の方が強い。
ならば何故武器を所望するのか黒猫は疑問を持つ。
すると、アトスがそれを察したのか次のような理由を告げてきた。
「うむ、我もこうしてシャルルの配下として冒険者組合という組織に加入した。ならば、我の行動が人の目がつくという事だ。無手で魔獣を殺していては悪目立ちしよう」
「あぁ、それもそうであるな。理解した。ならばどの様な武器が欲しいのだ?」
黒猫のトランクには壊れない以外に特殊効果の無い武器が山ほどある。それも一般的に知られている物から一部マニアにしか分からないマイナーなものまで。
おおかた希望に沿った武器が提供できるはずだ。
「うむ、貴様と同じものを所望する」
「付き合いたてのカップルか」
何が悲しゅうて配下の男と完全ペアルックをせねばならんのだ、と頭を抱える黒猫。
頭の中で、服も装備も揃えた方が規律があってカッコイイのでは?という考えが湧き出てくるが、それこそ悪目立ちするだろうとなんとか思いとどまる。
まぁ実際は何を着ようと二人の容姿が人間離れに整っている為、それだけで悪目立ちしている。
しかし、その真実はそれをつゆも考えていない黒猫には行き着かない答えであった。
「うーむ、そうか。なら爪のような刃が沢山ある武器は無いか?」
「ふむ、いつもの獣形態に近いスタイルで闘いたいのか。刃が沢山ついている武器だな、あるぞ」
「なんと!言ってみるものだな」
アトスにとって、それは冗談交じりの発言だったのだが思わぬ収穫に自然と笑みがこぼれた。
黒猫達が闘技場へ着くと、ベンチへと向かいそこで準備をする。
そしてトランクからある物を二つ取り出すと、それを二つアトスへと手渡した。
それは4本のナイフとメリケンサックが合体したような武器であり。格ゲーかアニメの中でしか見た事のない奇妙な物だった。
「ほう、まるで獣の爪の様だな。これの名は?」
「うーむ。クロー?それともパンテラナイフ?……まぁ何とでも好きに呼べば良い」
「なるほど、取り敢えず貴様も良くわかっていない、というのは伝わった」
アトスは両手に装備し振り心地を試す。
「なるほどなるほど、こういう武器か……面白い。そして心地よい」
「武器が……心地よいと?。ふ、ふははは!面白い事を言うな貴様は」
黒猫はアトスの脇腹を小突いてツッコむと、並んで進んでいく。その途中で後ろを振り返り、クロエへと大声で呼びかけた。
「では、審判を頼む。どちらかが……と言うより吾輩の身が危ないと思ったら大声で呼んで止めてくれ」
「はい、承知いたしました」
黒猫はやや緊張感を滲ませる笑みで、アトスは好戦的な笑みをたたえ睨み合う。
「うむ、では始めようか。ルールは簡単だ。吾輩の降参、クロエの判断で中断か、もしくは闘技場使用時間である30分が経過するまで闘い続ける。それだけだ」
「うむ、では我は精一杯楽しむとしよう」
「吾輩は死ぬ気で向かうがな……クロエ開始の合図を!」
「はい、では……両者構え!」
クロエの右手を振り上げる合図と同時に、黒猫は腰を低くし抜刀の構えをとる。
アトスはそれに対し、パンテラナイフを両手に、そのまま突っ立っているままだ。
何とも言えない緊張感に口内がカラカラになりながらも、クロエは高らかに上げた腕を振り下ろした。
「────始め!」
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