第28話 黒猫と新たな配下
都市オルタラットの中央通り。そこは様々な店が道脇に軒を連ね、多種多様な輸入品が並んでおり、人の往来の多いこの都市で最も栄えている場所だ。
そして、そこに周囲の店員に住人や観光客の目を引きつける3人の男女が悠々と歩いていた。
その内の二人は言わずもがな絶世の美女である黒猫シャルルに、外套姿の女性、クロエ。そして最後の一人は長身細身の男だった。
黒猫と似たデザインの黒い軍服を着ており、短く刈った赤毛混じりの白髪に整えられた髭。
鼻が高く、堀の深い顔に皺を刻んでいるが整っているため、格好良く歳をとった渋いダンディーなおじ様というイメージがある。
彼とクロエは目も眩みそうな美しく無邪気な笑顔を浮かべている黒猫に苦笑している。
「御機嫌だな、シャルルよ」
「くははは。もちろんだと。金貨80枚だぞ。これが嬉しくない訳が無い」
地球、16世紀頃の金貨の価値はおおよそで12万程だったらしい。つまり、日本円にして総額で960万円という事であり、黒猫は海賊を捕らえただけで、小金持ちとなった。嬉しくない訳がない。
「これで、最初から資金繰りに焦る必要もなくなったのだ。有意義な時間を過ごせるというものだ」
人の住む街に出る上で最も心配していた事が無くなった今、黒猫には余裕ができた。流石の黒猫と言えど、その気分の高揚は抑えがたいものなのかもしれない。
すると、黒猫は何か思い出した様に口を開くと。男の方を向いてこう問うた。
「それはそうと貴様、人化できたのだな
そう、この男。黒猫の配下窮奇アトスが人化した姿だったのだ。事の発端はエミリオスの一言。「それほど大きな魔獣をこの都市に入れるのは難しい」という発言だった。
確かに、巨大な虎を連れて街を練り歩く、というのはアトスの知性を知らぬ一般市民からすれば、不安視されるのも当然の事。
どうしようか、と黒猫が考えようとした所アトスが『我は人に化けられる』と言ってこの姿となった。
黒猫としてはアトスが人になったら大柄な筋肉だるまをイメージしていた為、まさか細身長身のダンディーなおじ様になるとは露も思わなかった。
そして、シルバがアトスと名付けたのも納得した。前まではポルトスの方があっているのでは?と思っていたが、なるほど、この姿を見ればアトスの方が合っている。
「それはもちろんだ。言っただであろう。進化を繰り返してきた、と。前々の種族は人虎だったのだ」
「ほう!人虎であるか!……ふむ、それはよいな。それにしても貴様、オジサンだったのだな」
「なんだ、若い方が良いのか?ならばそうするが……」
「いや、結構!配下としては歳をとった人物の方が良いかもしれぬ。ベテランの副官という感じもする故な」
黒猫の趣味では軍服を着ているなら、青年より断然に渋いおじ様をとる。
アトスも三銃士の中で最年長だったうえ、何より背中を守ってもらうのだ。欲しいのは若々しさよりも人生経験で培った熟練の気迫である。
しかし、そんな事はアトスとしては割とどうでもいいので、早々の自分が関心のある話題へと切り替える。
「そうか……それにしても、貴様。その身から溢れ出ていた……覇気?いや、『気品』を消しておるな、どうしてだ?」
「そうか、て貴様…………」
黒猫はジトっとした目で講義するようにアトスを見つめ……そして、若干不服そうにしながらも、いつもの様にわざとらしい咳を吐き、気持ちを切り替えた。
「…………コホン、まぁ良い。うむ、そうであるな。いや、まぁ浅い理由なのだが、目立ちたくないのだ。森の中では……まぁ、クグロらゴブリンしか居らぬし、役にはたったのだが。今現在、無意味に街中で目立ってもしょうがあるまい、と思ってな」
「なるほど。いや、確かに納得できる理由だな」
アトスはそう、表では同意しつつも『どちらにせよ、その美貌のせいで目立っておる故、無意味だがな』と己の容姿にほぼ無関心な黒猫に、心の中で呆れの言葉をこぼした。
「そうそう。吾輩、実際の所そんな目立つの好きじゃないし。しかし、何やら視線がチラチラと感じるな。ふーむ、何故だ?」
「まぁ、その話に重要性は大してないだろう。今重要なのは、今後の事である、シャルルよ」
「うむうむ、確かにそうであるな。とりあえずはこれからの方針について
黒猫はそう言って、アトスの横にいる人物へと視線を向ける。
「とは言え。ほぼほぼ方針については決まったも同然なのだがな。なぁ、
「……はい、我等が王よ」
黒猫の視線の先にいたのは、素朴な木製の長杖を持つ、外套姿の女性クロエだ。
だが、今の彼女はフードを下ろし素顔を見せていた。
深緑の森を思わせる様なエメラルドの瞳に、全てを見透かしているかのような目つき。
シルクの様に艶やかな限りなく白に近い金髪は首元で二つに纏めている。
中でも、特長的なのはその長い
全てを魅了する炎のような圧倒的存在感の美貌である黒猫とはまた異なり、深い山にある透き通る清らかな流水の如くいつまでも見られる様な、そんな美しさを彼女は持っていた。
主人を立てる大和撫子の様に黒猫の3歩後ろを付いて歩くクロエ。確かにアトスの思う様に、見麗しい女性2名が、街中を歩いていればいくら『気品』を消そうが無意味と思わざるえないだろう。
「我等が王……か」
そうして黒猫は、クロエの『我等が王』という言葉に己の立場を考えさせられ、それと同時に彼女が自分の配下になった出来事を思い出すのだった。
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